「夜叉鴉」電子書籍限定11巻のコメント
このサイト管理はウチの会社のK君が行っています。そのK君からいつものようにコメントを入れてくれと言われ、ハタと気付きました。「そんな話、オレ書いたっけ?」
呆れたK君から作品のあらすじを聞かされましたが、それでもまったく内容を思い出せません。
「ほら、先生の大学時代に早川SFのノベルズ版(銀背表紙)が古本屋にあって、その中でもP・K・ディックの『高い城の男』が最も値段が高くて、その内容を知ってる知ってる人はSFマニアの中でもデカい顔ができたって。」それが何の関係があるんだと聞くと、「だからその本がストーリーの要になってるんです。」とのこと。
それでも何も思い出せない私に、「これを読め!」とK君に渡されたのが、この巻に載ってる作品の昔のゲラ刷り(雑誌からの切り離し)。
メンドくさいな、と思いつつ読んだ私でしたが…、これが意外に面白い!。絵は明らかにヘタクソだが、話しそのものは非常に良く出来ていて、今時の漫画やTVドラマよりよっぽど面白い。
「いやあ、オレって昔からスゴかったんだな。」と自画自賛しつつも、やっぱり書いた記憶が無い・・・。「でもまあ、一読者として楽しめたんだからいいや。」と開き直って、この巻オススメです。お金が無い人は、何らかのインチキな方法を使ってでも読んで下さい。単行本未収録で中編二本144ページは、そんじょそこらの『連載十年以上現在30巻を超え終わる見込み無しのハデな見開きばかりで台詞はほとんど有りません漫画』より、よほど楽しめると思います。(荻野真・2011/01/21)
私の作品は「難解だ」「意味がわからん」「だから荻野はダメなんだ」と、よく言われます。出だしはそれなりに解りやすく書いているのですが、毎度途中から話が広がりすぎ、それをマトメようとして無理矢理収束させるため、こうなってしまいます。ま、それが面白いと言う方々もいますが、大半の雑誌好きのお客さんにはかなり不評のようです。
しかしあえて私の立場から言わせて頂くなら、「ダラダラと同じような話をエンドレスに続けさせ、あげくに打ち切りになるまで休みも無く、取材時間すらも与えない出版社側の、銭儲けオンリーのやり方」にもソートーな問題があると思います。
ある百万部雑誌編集者曰く、「雑誌は一冊出して一億の儲け。ただ出してるだけで年間五十億儲かる。だが、単行本は大ヒット作で年間せいぜい五億、雑誌全部の単行本の儲けを合わせたって多くて十億。どっちが得かバカでも解る理屈だ」…なのだそうです。
ですが現在はこの「儲けの論理」がガタガタに崩壊してしまいました。今、週刊YJ誌で連載中の本宮先生の漫画(2010/8/10現在)も、このあたりの出版社の狼狽ぶりをとてもリアルに描いています。ま、私なりの言い訳をさせて頂くなら、「自分の手で作品を終わらせる意志で書かなければ、製作の手助けと言う名目でストーリーやキャラすら他人に作られ、作品の主導権どころか、その著作権すら出版社・ゴーストライター集団に奪われるのが関の山」と、言ったトコロでしょうか・・・。
さて、ここからは「夜叉鴉」の話。この「夜叉鴉」を書く半年ほど前、今の女房と婚約が決まり、彼女の母方の実家である三重県熊野市有馬町に旅行に行った時のこと。鉄道は単線、飛行機は日に二便、高速道路も無い紀伊半島の外れにたどり付くには、名古屋から車で八時間ほどもかかりました。まさに陸の孤島です。
そしてついた翌日私が目を覚ましたのは、村全体を叩き起こすがごとき熊蝉の大合唱。奇岩と深い森に挟まれたわずかな平地に、車一台しか通れない曲がりくねった道と、二階屋が一軒も無い住宅。そして目の前の海に行けば、波打ち際から一メートルでいきなり水深二メートルになる、遊泳にはまったく向かない那智黒石の砂利浜(ここでは浜からイナダが釣れる)。
見慣れた田舎の風景とはおよそかけ離れたこの地で、さらに既成概念をブッ壊されたのが、初盆の送り。近在の村々で亡くなった人々の墓石を模した張りぼての御輿を縁者が担ぎ、それを波打ち際に一列に並べ、それぞれを爆竹でつなぎ発火させる。すると夕闇の中を爆裂音が走り、その火花で引火した墓が一斉に燃え上がり、浜と海を赤々と染め上げる。
その後は夜中まで大花火大会となり、翌朝浜に行くと昨夜の張りぼての墓地はきれいさっぱり波にさらわれ、いつもと変わらぬ砂利浜に戻る。
この出来事でハタと気付いたのが、私が子供の頃から当たり前だと思ってた日本人の「仏教的死生観」への疑問。ここ熊野には正に「それ以前の日本の死生観」が色濃く残っていました。こうしてあれやこれやと歴史の本を調べていくと、キーワードとして「汚れと祓い」がその答えだと気付きました。そしてそれに答えを出そうとした「宮沢賢治の銀河鉄道の夜」や、「聖徳太子の仏教導入のワケ」も・・・。
ま、とりあえず読んでみて下さい。導入は解りやすくしてありますし、アクションもたっぷり盛り込んであります。某新宿二丁目的解釈では、「日本初の性転換漫画」だとのウワサもあるそうです。・・・それとサッカー日本代表のマークも、熊野那智大社の「三本足の鴉」からとったそうです。
さらにもう一つ言わせて頂ければ、宮沢賢治とその妹のエピソードを、最初に物語にしたのも私です。どこぞの某有名劇作家が、「おれが日本初だ!」と、当時新聞で言ってたのは大ウソです。 (荻野真・2010/10/01)