% 約束・習慣

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\begin{document}

\noindent\textbf{約束・習慣}

数学の世界では、\textgt{定義}や\textgt{定理}のように厳密に述べられることがらの他に、単に\textgt{約束}や\textgt{習慣}として定着していることがらが存在する。

約束という形でおそらく最初に目にするのが、文字式について学習するときではないだろうか。それは
\begin{itemize}
\item 演算記号$\times$は省略し$\div$は分数表記をして、数は文字の前に書く。たとえば$a\times b\div 2$ $\to$ $\dfrac{1}{2}ab$。
\item $1\times$, $\times1$において$1$は省略する。たとえば$x\times1$ $\to$(上記の約束に従えば$1x$だが)$\to$ $x$。
\item 同じ文字の掛け算は指数を用いる。たとえば$r\times r\times \pi$ $\to$ $\pi r^2$。
\end{itemize}
などだ\footnote{ちなみに「文字の積はアルファベット順に書く」のは約束というより習慣だ。$(道のり)=(速さ)\times(時間)$を文字式にすると大抵$s = vt$と書かれる。}。ほかにも小学校から身についていることがらで
\begin{itemize}
\item 計算は左から順に行うが、掛け算・割り算は足し算・引き算より優先する。たとえば$3+4\times5 = 3+20 = 23$。
\item 掛け算と割り算が混ざった式は左から順に計算する。たとえば$6\times2\div4 = 12\div4 = 3$、$6\div2\times4 = 3\times4 = 12$。
\end{itemize}
は常識だろう。これらは定義として定められたことがらではなく、議論を円滑に進めるために必要な共通認識なのである。よって、注意深く適用しないと多少の曖昧さが生じてしまう。

典型的な例は$6\div2(1+2)$の答えは何か?である。これは忘れた頃にネット上などで話題になるのだが、そもそもこの式は約束に従っていない。$2$と$(~)$の間の$\times$は省略しておきながら$\div$を分数表記にしていないので、約束違反をしている。そこで各自が自分勝手に解釈して、先頭から順に計算して$9$と答えたり、$2(1+2)$をひとかたまりとみなして$1$と答えたりする状況が生まれる。

約束をきちんと守れば
\begin{enumerate}
\item[a)] 先頭から順に計算すべき式なら、$\dfrac{6}{2}(1+2)$または$\dfrac{6(1+2)}{2}$と書き、
\item[b)] $2(1+2)$をひとかたまりとみなすべき式なら、$\dfrac{6}{2(1+2)}$と書く
\end{enumerate}
ので、曖昧なことは何もない。

実は、$6\div2(1+2)$が曖昧な解釈になるのはちょっとした`習慣'のせいである。習慣は約束ほどには徹底されないものだ。たとえば計算練習として$6a^3b^2$を$2ab^2$で割る際、$6a^3b^2\div2ab^2$と書くことがある。よくない習慣だ。つまり、$\times$が省略された文字の積をひとかたまりとみなすのは単に習慣であって、約束されたことがらではない。ひとかたまりであることを明確に示したければ$(~)$を使うのが数学の約束である。だから、先のa)なら$(6\div2)(1+2)$と書き、b)なら$6\div\{2(1+2)\}$と書くべきである。

でも、約束を少し破って$6a^3b^2\div2ab^2$と書く習慣は、厳密にするほどのことではないと皆が感じているからだろう。要するに数学世界の常識ということだ。つまり、そのあたりの機微を察することができない者は\dots(むにゃむにゃ)と言いたいのかもしれないね。習慣とは厄介なものである。

\end{document}