% 対数
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\begin{document}
\noindent\textbf{対数}
対数。指数とは逆の関係にある。ひとことで言えば何のことはないが、これを発明するとなると並の思考力では無理だろう。数学の定理・真理は、万物に対する真実を表している。大げさに言えば、神の所業だ。その観点に立つならば、数学のあらゆる事実は人が``発明''するものではなく、人が``発見''するものである。したがって、何々の定理と呼ばれるものはすべて、定理を証明した偉人の発見と考えてもよいだろう。しかし、私たち凡人には、それら定理は偉人が発明したように映る。対数だって凡人から見たら発明だ。
指数関数とは$f(x) = a^x$なる関係をもつ関数である。$x$の値を定めると$f(x)$の値も定まる。では、その逆に$f(x)$の値が分かっているとき、$x$の値を特定するにはどうしたらいいんだろう? 指数関数でなければ、比較的簡単な例がある。$f(x) = 3x$という関係は、$f(x)$の値が$15$なら$x = 5$であることがわかる。$f(x) = 10$だったら$\displaystyle x = \frac{10}{3}$である。この場合は、$f(x)$の値を$y$で表しておくと、$x$の値を求めるために$\displaystyle x = \frac{y}{3}$という定式化された式を作ることができる。それなら、$f(x) = a^x$の$x$を求めるための定式化された式は何?
$f(x)$の値を$y$で表せば、それは$x = \log_ay$である。新しい記号を用いているけれど、新しい記号を用いたことが発明であると言いたいわけではない。対数という性質を抽出したことが発明なのだ。
指数関数$f(x) = a^x$を考えよう。すると変数$x_1$、$x_2$に対して、$f(x_1) = a^{x_1}$と$f(x_2) = a^{x_2}$を考えることができる。$a^{x_1}a^{x_2} = a^{x_1+x_2}$であるから
\begin{quote}
$f(x_1)f(x_2) = f(x_1+x_2)$
\end{quote}
と書くこともできる。この書き方が今回の主役であり、また指数関数の性質を明確に示している。ところで、対数というのは$f(x) = a^x$の$f(x)$の値--- $y$とする---から$x$を求める関数だから、それを$g(y)$、すなわち$x = g(y)$と書くことができるだろう。かくして、$f(x) = a^x$を$y = a^{g(y)}$と書いても何ら問題はない。当然、変数$y_1$、$y_2$に対して、$y_1 = a^{g(y_1)}$と$y_2 = a^{g(y_2)}$を考えることができる。辺々を掛ければ$y_1y_2 = a^{g(y_1)+g(y_2)}$となる。$y$に対しては$y = a^{g(y)}$と書くことに問題はなかったので、$y_1y_2 = a^{g(y_1y_2)}$でもある。これらのことから$a^{g(y_1y_2)} = a^{g(y_1)+g(y_2)}$が見えてきた。すなわち
\begin{quote}
$g(y_1y_2) = g(y_1)+g(y_2)$ \quad(※)
\end{quote}
なのである。
指数関数が$f(x_1)f(x_2) = f(x_1+x_2)$の性質を持つことに対して、対数関数は$g(y_1y_2) = g(y_1)+g(y_2)$の性質を持つ。似ているような似ていないような$\dots$。でも、両者には明確な違いがある。具体的に$x_1 = y_1 = 2$, $x_2 = y_2 = 3$とすると、指数関数では$f(2)f(3) = f(2+3)$であり、対数関数では$g(2\cdot3) = g(2)+g(3)$である。もっと、具体的に$f(x) = 10^x$とすれば、$10^2\cdot10^3 = 10^{2+3}$であり、$\log_{10}2\cdot3 = \log_{10}2+\log_{10}3$となるけれど、このことは$10$以外のどんな数でも成り立つ。$10$を用いれば\textbf{常用対数}、$e$を用いれば\textbf{自然対数}になるだけで、枝葉の話にすぎない。それぞれの記号に$\log$や$\ln$を使うことが多いが、それも枝葉である。記号なんて何だってかまわない。根幹をなすのは性質(※)だからである。
対数の根幹とは、積の計算を対数の和で計算できることなのだ。掛け算は軽々と大きな値になってしまうけれど、足し算ならその心配はない。大きな数を扱う天文学者には朗報であろう。そして、この関係から対数関数を定義したのがネーピア\footnote{ジョン・ネーピア(1550--1617):イギリスの数学者・技術者。}である。「指数が存在すれば逆の対数も存在する」とわかっていたとしてもそう簡単に発見できるものではないだけに、ネーピアの業績は偉大である。発見というより発明に近いのではないだろうか。いずれにしろ、凡人には手が届かない世界の話ではある。
\end{document}