% 対称式

\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\begin{document}

\noindent\textbf{対称式}

$F(x,~y)$を$x$と$y$の$2$変数を含む式とする。たとえば
\begin{quote}
$\begin{array}{rcl}
F(x,~y) & = & x^2-xy+y^2 \\
G(x,~y) & = & (x+y)(2x-1)
\end{array}$
\end{quote}
のように書く。

このとき、$F(y,~x)$と書けば$x$と$y$の文字を入れ替えた式を意味するので、先の式は
\begin{quote}
$\begin{array}{rcl}
F(y,~x) & = & y^2-yx+x^2 \\
G(y,~x) & = & (y+x)(2y-1)
\end{array}$
\end{quote}
となる。$F$の式は文字の位置が違っても本質的に同じ式を表している。しかし、$G$の式は文字の位置だけでなく本質的にまったく違う式に変身してしまった。

$F$のように、$F(x,~y) = F(y,~x)$が成り立つ式を\textbf{対称式}と呼んでいる。対称式は、$2$変数に限らず$3$変数でも$4$変数でもかまわない。とりあえず、ここでの話題は$2$変数に限っておこう。$2$変数の場合はとくに
\begin{quote}
$x+y$,\quad $xy$
\end{quote}
を\textbf{基本対称式}と称している。そして肝心なのは、対称式は基本対称式だけを用いて表すことができる点である。ちなみに$F(x,~y) = (x+y)^2-3xy$と書ける。

ところで、学校で因数分解を習うとき
\begin{quote}
$a^3+b^3 = (a+b)(a^2-ab+b^2)$
\end{quote}
なる公式にお目にかかる。大抵、これが正しいことを証明するのに、右辺を展開して左辺になることを確認する場合が多い。その方が楽に計算できるからだろう。それに、因数分解の前に式の展開を習うのが普通だから、$(a+b)(a^2-ab+b^2) = a^3+b^3$を知った上で因数分解の公式に流用したに過ぎないと思うかも知れない。そのときは、$(a+b)(a^2-ab+b^2)$というちょっと複雑な式が$a^3+b^3$と展開できるんだったら、因数分解に利用しない手はないと考えても不思議ではない。ただ、展開前の式に$(a+b)(a^2-ab+b^2)$を選ぶというのは、かなり偶然に左右されている気がしないでもない。

しかし、$a^3+b^3$が対称式であることから、「``仮に因数分解ができるなら''それは基本対称式の組み合わせに違いない」と思考すれば、偶然に左右されずに結論を導けるのだ。それには、基本対称式を用いた因数分解になるなら$a^3+b^3 = (a+b)(\ 何がし\ )$ となるだろう、というところから始まる。この際、$a^3$と$b^3$が出現しなくてはならないので、少なくとも$(\ 何がし\ )$には$a^2+b^2$が必要となる。かくして、$a^3+b^3 = (a+b)(a^2+b^2)$の目星は付くが、このままでは等式が正しくないので、余分な項を引く羽目になるが、結局
\begin{quote}
$\begin{array}{rcl}
a^3+b^3 & = & (a+b)(a^2+b^2) -a^2b-ab^2 \\
& = & (a+b)(a^2+b^2) -ab(a+b) \\
& = & (a+b)(a^2-ab+b^2)
\end{array}$
\end{quote}
と因数分解ができるわけだ。

``仮に因数分解ができるなら''と断ったように、対称式でも因数分解ができないものはある。代表は$a^2+b^2$だ。これを$a^2+b^2 = (a+b)(\ 何がし\ )$と考えても$(\ 何がし\ )$には$a+b$が必要で、余分な項を引いても$a^2+b^2 = (a+b)(a+b)-2ab$で止まってしまうからだ。

おそらく対称式の因数分解の公式は、展開式から偶然に見つかったものではなく、ある程度対称性を考慮して見つけられているものが大半ではないだろうか。

\end{document}