% 素因数分解

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\begin{document}

\noindent\textbf{素因数分解}

素因数分解とは、整数を素数の積に分解することをいう。早い話、数の分割である。素数には$1$は含まれないので、たとえば$10$は$2\times5$以外の積に分割できない。$1$が素数なら、$1\times2\times5$も$1^2\times2\times5$も正しい素因数分解となって収拾がつかない。つまり、素数から$1$を除くことによって素因数分解の「一意性」が保たれているのだ。

普通、素因数分解は正の整数を対象にしているが、負の数を対象にしてもよいのではないかと考える人もいるだろう。もし、負の数を対象に素因数分解を認めるなら、当然、負の素数も必要になる。すると、$-10$は$2\times(-5)$とも$(-2)\times5$とも因数分解できることになって、一意性という、簡潔にして明瞭な性質を保てなくなってしまう。どうしても一意性を保とうとすれば、$-10$は$-(10)$のことであるから、これは$-(2\times5)$以外の分割はあり得ない、などという暴挙にでるしかない。$-10$を$-(10)$とする暴挙は、「数はあくまでも``正''なのであって、正の数に``負の符号''をつけることもできる」などという、まるで「万物は数である」的な発想に似てくる。困ったことだ。だから一般には、素因数分解は正の数を対象に、正の素数を用いて行うものなのである。

でも、世の中には懐(ふところ)が深い人がいて、整数が分割できるのであれば、とことんやればよいではないか、と考えたりする。そういう人たちには、$10 = 2\times5 = (-2)\times(-5)$のように映っている。こうなると、一意性はどうでもよくなってくるかもしれない。

すると、発想はどんどん過激になってきて、整数の分割に複素数を使ってもいいだろうと思ったら、もう大変。その人は、数学者か過激派への道へ進むことになる。ちなみに複素数を認めると、$10 = (1+3i)(1-3i)$である。ちゃんと分解できている。それどころか、素数でさえ素因数分解ができてしまう。たとえば$5 = (1+2i)(1-2i)$である。$5 = (2+i)(2-i)$でもかまわない。うーむ、どことなく矛盾しているような$\dots$。

ちょっと考えれば分かるように、整数$z$が$z = (a+bi)(a-bi)$とできるなら、$z = a^2+b^2$である。こいう関係にある整数は、いくらでもある。したがって、単純に考えても素因数分解は収拾がつかない状態に陥っている。もっともこの考えは、これで数学の一分野を成しているので、決して無秩序の世界を形成しているわけではない。

素因数分解という軽い話題からでも、とことん奥深い数学の世界が広がっているところが楽しいのだ。

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