% 指数の拡張
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\noindent\textbf{指数の拡張}
極めて小さい数を表す方法として、$2.1113587\times10^{-7}$のような記述を目にすることがあるだろう。このような指数の用い方は$2\times2\times2\times2\times2$を$2^5$と書く約束から派生してきた。あくまでも整合性を保つためであるが、人情的な面がないわけではない。
たとえば、$2^5\div2^2 = (2\cdot2\cdot2\cdot2\cdot2)/(2\cdot2) = 2^3$は形式的に$2^{5-2} = 2^3$で済ますことができる。それならということで、形式的に$2^3\div2^5 = 2^{3-5} = 2^{-2}$としてしまったら、これに意味を持たせるためには$2^{-2} = 1/2^2$でなくてはならない。指数が負の値をとれば、逆数の意味に解釈するわけだ。
また、$(2^2)^3 = (2^2)\cdot(2^2)\cdot(2^2) = 2^6$となるが、これも形式的に$2^{2\times3} = 2^6$で済ませてよい。ところで$\sqrt{a^2} = a$である--- $a > 0$であることが前提---から、$\sqrt{a} = a^{1/2}$と書く約束にすれば、指数に分数が使われても意味を持たせられる。指数に$1/n$が使われれば、$n$乗根の意味に解釈するわけだ。
こうやって拡大解釈をくり返していくと、結局は$x^{a/b} = \sqrt[b]{x^a}$の定義に落ち着く。もちろん$a$, $b$は整数であるから、指数部に乗せられるのは有理数に限られるが、十分な整合性を与えている。しかし、一般に数 (実数) には有理数以外に無理数がある。それなら、指数部にも無理数を使いたくなるのが人情というものだろう。たとえば$2^{\sqrt{2}}$のように。
けれど、人情で済ませてしまうほど数学は甘くない。指数部に無理数を使うからには、そこに何かしらの意味を持たせなくてはならない。ならば、$2^{\sqrt{2}}$の値はどうなるのか?
無理数は、基本的に極限の値として捉えられる。$\sqrt{2}$を
\begin{quote}
$\displaystyle \frac{14}{10}$, $\displaystyle \frac{141}{100}$, $\displaystyle \frac{1414}{1000}$, $\displaystyle \frac{14142}{10000}$, $\dots$
\end{quote}
のように近似した場合、この行き着く先がちょうど$\sqrt{2}$の値である。だから$2^{\sqrt{2}}$は
\begin{quote}
$\sqrt[10]{2^{14}}$, $\sqrt[100]{2^{141}}$, $\sqrt[1000]{2^{1414}}$, $\sqrt[10000]{2^{14142}}$, $\dots$
\end{quote}
の行き着く先の値である。具体的には
\begin{quote}
$2.639015822\dots$, $2.657371628\dots$, $2.664749650\dots$, $2.665119089\dots$, $\ldots$
\end{quote}
の値をとりながら$2.665144143\dots$に落ち着くのだ。
このように言うと、行き着く先の値が果たして確定するか気になるだろう。少々こむずかしい感覚ではあるけれど、円周率$\pi$の値だって確定した値であるように、これも間違いなく確定した値が存在する。存在はしているが、「はい、これ!」と断言できないのがもどかしい点である。
\end{document}