% 線が動いて...
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\noindent\textbf{線が動いて$\dots$}
\begin{quote}
$\displaystyle \int_0^1x\,dx$ \quad(※)
\end{quote}
これが何を表す式かと言えば、関数$y = x$を$0$から$1$の範囲で積分したものであると言える。もっと直接的に言えば、この式が表すものは、底辺と高さが1である直角三角形の面積である。
三角形の面積を底辺と高さの積と考えているうちは、面積とは小さな長方形(もしく正方形)の集まりであるととらえているのだろう。それは円の面積を求めるときにも役立っている。円の面積は、中心から放射状に分割された三角形を集めたものと考えて求めるからだ。三角形のもとは四角形である。
その延長に球の体積がある。球の体積は、中心から放射状に分割された三角錐を集めたものと考えてよいからだ。三角錐のもとになるのは四角錐である。
ところが積分を学んで(※)の式に慣れてしまうと、ここまでの感覚がなくなる場合がある。(※)を$x$が$0$から$1$まで集ったものと見てしまうのだ。つまり$x$という高さ(すなわち線)を集めて面積を求めているのだと。だが、それは明らかな間違いだ。線を集めても面積を求められない。
と言うのは、線とは
\begin{quote}
\bfseries 長さはあるが幅がないもの
\end{quote}
と定義されているからだ。すなわち幅は$0$である。$0$のものをいくら集めても$0$でしかない。では、面は線が集まったものではないのか? その通り。面は線が「集まった」ものではない。線が「動いた」ものである。面積を求めたければ、動いた線の痕跡を集める必要がある。
「動いた線の痕跡を集める」ことは「線を集める」ことではない。それは「面を集める」ことなのである。なぜなら線が動くことによって、わずかな幅の面ができるからだ。それを「線の痕跡」という。よって面積の計算は、面を集めることで対処するのである。具体的には、幅が$0$ではないがごくごく小さい長方形を集めて面積を計算する。実は(※)がそれを表している。(※)は線$x$を集めた式ではなく、$x\,dx$---これは高さ$x$、底辺$dx$の長方形だ---を集めた式になっているのだ。
積分によって球の体積が$(4/3)\pi r^3$であるとか、表面積が$4\pi r^2$であることが分かるのだが、うっかりすると計算間違いを犯す。とくに表面積の計算でだ。ここでは、きちんと面を集める感覚を持っていないといけない。そうでないと、球の面を集めたつもりが別の面を集めて、おそらく$\pi^2r^2$を球の表面積としかねない。
ここでは、線が動いて面になることを主眼にしているので、実際の球の表面積の計算は別の機会に譲ることにしよう。
\end{document}