% 三角関数

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\begin{document}

\noindent\textbf{三角関数}

むかしむかしからしばらくして、三角比についてあることに気づいた人たちがいた。「三角比って角の値から辺の比が求められるよね。」物事の先読みができる人たちだ。「それって関数じゃね?」 むかしむかしからしばらく経ったので、言葉遣いも一歩先を行っている。

それに対して意見を言う人たちもいた。「そんなの当たり前じゃないか。」物事を額面通りに受け取る人たちだ。「関数なんて世の中にあふれるほどあるんだから。」

このやり取りだけを見れば、後者の方が包括的なことを言っているように思える。しかし、後者はそこで話を打ち切ってしまっている。関数というのは、何かの値を別の値にする機能を持ったもので、別段珍しいことはないと信じているからだ。

しかし前者は違った。ああ、そうだよね。たしかに関数なんて世の中ではありふれたものだ。でも、三角比は少し特別じゃないだろうか。そして、ひらめいた。直角三角形を座標軸に放り込めば、斜辺が$x$軸と作る角に対して、余弦と正弦の値が同時に得られるじゃないか。いや、さらに工夫すれば正接の値さえ同時に分かる。

たとえば斜辺の長さが$1$である直角三角形を、目をつけた角を持つ頂点を原点に、隣辺を$x$軸に重ねてみよう。すると、三角比を与える角$\theta$は斜辺が$x$軸となす角に一致する。このとき斜辺の反対側の端点の座標がそのまま$(\cos\theta,~\sin\theta)$になる。これは関数としてはかなり上質な関係を与えるんじゃないだろうか。

ただし直角三角形を座標軸に放り込むだけでは問題がある。目をつけた角は$0$\textdegree から$90$\textdegree の範囲に限定されてしまう。関数というからには実数全体を扱いたいよね。でも$\theta$\textdegree って実数か? というわけで、角の大きさの定義を実数にしてしまおう。

そこで、角の大きさを1回転で$360$\textdegree とする代わりに、半径$1$の径が$1$回転する周の長さを、そのまま$1$回転分の角度にしてしまおう。つまり、$1$回転で$2\pi$だ。これは明らかに実数値である。しかし単位がないと雰囲気が出ないので、$1$回転で$2\pi$(ラジアン)と言うことにしよう。すると
\begin{quote}
$\begin{tabular}{c|ccccccc}
度 & $0$\textdegree & $30$\textdegree & $45$\textdegree & $60$\textdegree & $90$\textdegree & $180$\textdegree & $360$\textdegree \\ \hline
ラジアン & 0 & $\displaystyle\frac{\pi}{6}$ & $\displaystyle\frac{\pi}{4}$ & $\displaystyle\frac{\pi}{3}$ & $\displaystyle\frac{\pi}{2}$ & $\pi$ & $2\pi$
\end{tabular}$
\end{quote}
みたいな対応になる。はじめは「なんじゃ、こりゃ」と感じるだろうが、慣れればこれほど便利な表現もない。

ちなみに何回転しても$2\pi$止まりと考えるのではなく、回転数に応じて$4\pi$、$6\pi$、$8\pi$、$\dots$というように、いくらでも大きな角を考えてよいことにする。また、径を逆に回転されれば負の角度になると決めることにして、$-2\pi$、$-4\pi$、$\dots$という角も考えよう。すると、すべての実数値が取れる。ま、本質的には$0$から$2\pi$までの角を扱うんだけどね。

角度の表し方が便利になったのは結構。しかし、そんなことは三角関数が与えた利益からすれば微々たるものである。三角関数が与えた大きな利益の一つは、三角比が表す$\sin$、$\cos$、$\tan$に関する数々の関係式である。

たとえば三角比は直角三角形をもとにした比であるから、$\sin66$\textdegree を考えることはできても$\sin(-66\textrm{\textdegree})$は考えることはできない。しかし、三角関数においては$\sin(66\textrm{\textdegree}) = -\sin66\textrm{\textdegree}$という関係が成り立つことが示せ、その結果、三角比の表から負の角度に対する三角比の値を求めることができる。

とくに三角比の計算には恩恵が与えられた。なぜなら、一つの例として
\begin{quote}
$\sin(\alpha+\beta) = \sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta$
\end{quote}
という関係式から、$75$\textdegree に対する三角比が、作図ではなく計算で求められるからだ。なぜなら
\begin{quote}
$\sin75\textrm{\textdegree} = \sin(45\textrm{\textdegree}+30\textrm{\textdegree}) = \sin45\textrm{\textdegree}\cos30\textrm{\textdegree}+\cos45\textrm{\textdegree}\sin30\textrm{\textdegree} = \displaystyle \frac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{\sqrt{3}}{2}+\frac{1}{\sqrt{2}}\cdot\frac{1}{2} = \frac{\sqrt{6}+\sqrt{2}}{4}$
\end{quote}
だから。そして、この手の関係式が山のように作れたので、みんなが三角関数に夢中になったのだ。

その結果、何が起こっただろうか。なんと、とても三角形や円に関係なさそうな計算式から、$\sin$や$\cos$を用いた値が求められたり、数の体系にまで踏み込んだ関係が分かったり、もう何でもありの世界が広がったのである。こんなところで詳細は述べられないので、ことの顛末は別の機会を探して言わなくてはならないね。

\end{document}