% ルドルフ数

\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\begin{document}

\noindent\textbf{ルドルフ数}

世に、オイラーの定数とかフェルマーの素数とか、人の名を冠する数を目にすることがあると思う。そのほとんどは、何らかの計算の帰結として現れるので、多少の数学の知識が欠かせない。しかしながら、ルドルフ数は少し様子が違っていて、早い話、それは円周率のことである。

円周率をルドルフ数と呼ぶのは、ドイツ国内のことらしい。というのも、ルドルフとはドイツの数学者、ルドルフ・ファン・コイレンを指すからだ。当然、単なる円周率に人の名を冠するからには、ルドルフが円周率に関して多大な業績を挙げたからに他ならない。

ところが、ルドルフが円周率に関して行ったことは、円周率の小数点以下$35$桁までの値を計算しただけである。$1600$年を前後する頃と伝えられている。計算機、すなわちコンピュータがふんだんに使える現代にとっては、高々$35$桁分の円周率は驚くことではないが、当時にしてみれば一生をかけて計算しなければ得られない値だ。

普通、円周率の計算には無限級数のような数式が用いられる。しかし、このような式は、たとえば$1/7$のように計算を一回進めて得られた値がそのまま信用できる値でないことである。具体的に言うと、$1/7$なら$0.142$と始まって、次の割り算で$8$が得られる。そして、これは間違いなく正しい。$8$から先に出てくる数値が、この桁に影響を与えることはまったくないからだ。ところが、無限級数を計算式に使うと、たとえば$3.1415\dots$で始まる値に次の計算を加えたとき、それが小数点以下$4$桁めの$5$に影響を与えない保証がない。そのため、$35$桁の有効桁を得るためには、場合によっては$40$桁以上の数値計算をしなくてはならないこともあるだろう。

また、計算式が単純なら、簡単な割り算を繰り返せばよいかもしれないが、それではいつまで経っても精度が高まらない。素早く精度を高めるためには、複雑な計算式が必要である。かりに$\sqrt{~}$が計算式に入っていて、それを筆算で開平するには、$40$桁の数値であっても計算途中で$80$桁の計算をする必要があったりする。このように、素早い収束を望めば計算量が極端に増えることもある。要するに、単純に根気さえあればよいというわけではない。

けれど、ルドルフはそれをやってのけたのである。たぶん、無限級数のような数式を使わずに。無限級数による円周率の計算は、ルドルフよりさらに半世紀は下らないと登場しないからだ。おそらくルドルフは漸化式を用いたのだろうが、それで精度を高めるのは至難の業であったに違いない。だから、円周率といえばルドルフなのだ。

実は、円周率の有効桁計算は世界の国々で熱心に行われていたようで、日本も例外ではない。しかし、``誰々数''とは呼ばれない。おそらく、後にルドルフの記録を抜いたとしても、すぐにそれが霞んでしまうような記録が現れたからだろう。ルドルフの記録は、生き残るのにちょうどよいものだったのかもしれない。記録は大したことないが、見事に記憶に残る業績を残したのである。

\end{document}