% リーマン予想

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\begin{document}

\noindent\textbf{リーマン予想}

数学に限ったことではないけれど、より高度な領域に足を踏み入れると、それまでの浅はかな知識では太刀打ちできないものに出会うことがある。未だに解決されないままのリーマン予想\footnote{ベルンハルト・リーマン(1826--1866):ドイツの数学者。}(リーマン仮説ともいう)はその最たるものだろう。まずは、その予想を見てもらおう。

\begin{quote}
$\zeta$(ゼータ)関数の零点は、自明な点を除けば、その実部はすべて$\displaystyle \frac{1}{2}$である。
\end{quote}

早くも意味不明な言葉が並んでいる。$\zeta$関数って何? 零点って何のこと? 自明ってどういう意味? 実部ってどこ? もう少し分かりやすい言葉を使ったほうがいいね。ちょっと、表現を変えてみよう。

\begin{quote}
ゼータ関数と呼ばれる関数がある。関数なんだから一般に$f(x)$のように表すことができる。すると、適当な$x$を代入したとき$f(x) = 0$となることがある。そのような$x$を零点と呼ぶ。零点のなかで、代入するまでもなくすぐに分かるようなものを除けば、他の零点はすべて$\displaystyle \frac{1}{2}+bi$の形をした複素数である。
\end{quote}

それほど分かりやすくなったとは思えないが、これで精一杯だ。より具体的な例を出してみよう。関数$f(x) = x^3+1$がある。これは、$f(x) = (x+1)(x^2-x+1)$であるから、$f(x) = 0$となる$x$は$-1$であることはすぐ分かる。これが自明な零点だ。他の零点は$x^2-x+1 = 0$の解だが、こちらは代入するまでもなくすぐに分かるわけではない。ちょいと解の公式でも使う必要がある。結果、$\displaystyle x = \frac{1}{2}\pm\frac{\sqrt{3}}{2}i$が分かる。この例では自明でない解は二つだけで、その実数部分は$\displaystyle \frac{1}{2}$である。$\zeta$関数では、こんな感じの零点が無数に出現するのだが、そのすべての実数部分は$\displaystyle \frac{1}{2}$であると主張しているのだ。

じゃあ、そもそも$\zeta$関数ってどんな関数なんだろうか。われわれの習慣では、関数は$x$を変数として$f(x)$で表現することが多い---関数(function)という名前から当然$f$を使う。本質的には$\zeta$関数も同じなのだが、習慣として$s$を変数として$\zeta(s)$と表現している---$\zeta$関数という名前だから当然$\zeta$を使う。ところで、$\zeta(s)$は
\begin{quote}
$\zeta(s) = \displaystyle \frac{1}{1^s}+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\frac{1}{4^s}+\frac{1}{5^s}+\cdots+\frac{1}{n^s}+\cdots$
\end{quote}
で定義される関数である。

関数の値は実際に計算できる。たとえば$s = 2$とすると
\begin{quote}
$\zeta(s) = \displaystyle \frac{1}{1^2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{5^2}+\dots = \frac{\pi^2}{6}$
\end{quote}
となるのだが、この値はオイラーの工夫により求められた。

さて、$\zeta$関数を語るとき、ほとんど自明扱いされる$\zeta(s) = 0$を満たす$s$の値は何かというと、それは$s = -2$ ,$-4$, $-6$, $-8$, \ldots である。いわゆる負の偶数だ。そしてこの瞬間、浅はかな数学の知識がいかに無力であるか悟らされる。なぜって、たとえば$s = -2$を考えればわかることだ。この場合は
\begin{quote}
$\begin{array}{rcl}
\zeta(s) & = & \displaystyle \frac{1}{1^{-2}}+\frac{1}{2^{-2}}+\frac{1}{3^{-2}}+\frac{1}{4^{-2}}+\frac{1}{5^{-2}}+\cdots \\
& = & 1^2+2^2+3^2+4^2+5^2+\cdots \\
& = & \infty
\end{array}$
\end{quote}
であって、$0$に収束することはあり得ない。

ところが驚くことに、$\zeta$関数において成立する関係式を見ると、ちゃんと$s = -2$ ,$-4$, $-6$, $-8$, $\dots$で$\zeta(s) = 0$であることが自明になるのだが、どう考えたって普通程度の数学では理解できない話である。何をもって自明とするかは難しいが、特別に計算などせず、見ただけでわかるようなものが自明ということだ。つまり、関係式は$s = -2$ ,$-4$, $\dots$のとき$\zeta(s) = 0$になることが一目でわかる式になっているってことだ。

\end{document}