% 黄金比

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\begin{document}

\noindent\textbf{黄金比}

数ある図形の中で、均整のとれた美しい図形があるとすれば、それは何だろうか。その一つは、間違いなく円であろう。他にも、正三角形、正方形、正五角形、正六角形、$\dots$ときりがない。これらの図形の美しさは対称性にある。特に円は対称性を極めている。

しかし、これらの図形には弱点がある。それは、図形を切る---つまり直線で分割する---と対称性が崩れてしまうことだ。正$n$角形と呼ばれる図形は、どれをとっても分割によってぶざまな姿になってしまうものだ。円は格別悲惨である。元は直線や角(かど)を含んでいないのに、分割によって鋭利な切り口をさらしてしまうのだから。

ところで、一つの例外があることに気付いているだろうか。いま「正$n$角形と呼ばれる」と書いたが、正方形に限りこの言葉が当てはまらない。なぜか日本語では、正四角形は正方形と呼ばれる。そして正方形が一つの例外なのだ。つまり正方形は、分割の仕方によっては対称性を残す。たとえば対角線に沿って切れば、分割された図形は左右対称の二等辺三角形になる。また正方形は、縦半分、横半分、縦半分、横半分、$\dots$とくり返し切ることで、一回おきに正方形ができることも見逃せない。こんな見方をするなら、正方形こそ均整のとれた美しい図形ではないだろうか。

すると、もう少し贅沢な要求が顔をだすものだ。それは、縦・横に切ることをくり返しながら正方形を作り続けることができないかというものだ。元の図形はもちろん正方形ではない。元が長方形でなくては正方形が切り出せないからだ。それなら、そんな都合のよい長方形があるのだろうか。もちろんある。長方形から正方形を切り出したとき、残った長方形が元の長方形と相似形であればよいからだ。

元の長方形のサイズを、 $縦:横 = 1:(1+x)$ としておこう。これならはじめに$1\times1$の正方形が切り出せる。すると残った長方形は$縦:横 = x:1$である。これが元の長方形と相似ならば、延々と同じことがくり返せる。相似形であることを式にすれば
\begin{quote}
$1:(1+x) = x:1$
\end{quote}
であるから、これを$2$次方程式として解けば
\begin{quote}
$x = \displaystyle \frac{\sqrt{5}+1}{2}(\approx 1.618)$, $\displaystyle \frac{\sqrt{5}-1}{2}(\approx 0.618)$
\end{quote}
を求めることができる。この値が黄金比であるが、大抵は$1.618$のほうを採用している。

$1:1.618\cdots$の長方形は一見均整がとれていないようで、実は永遠に正方形を切り出すことができる、魔法のような長方形なのだ。さらに、黄金比は$\sqrt{5}$なる無理数を含む分数だが、整数だけを用いた分数---これは無限に続く連分数になるのだが---にすると、永遠に正方形を切り出せる魔法のタネを見ることができるのだ。

\end{document}