% ネーピアの数

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\begin{document}

\noindent\textbf{ネーピアの数}

対数のことを発見者にちなんでネーピアの数\footnote{ジョン・ネーピア(1550--1617):イギリスの数学者・技術者。}と呼ぶことがある。対数は、計算機がない時代にその威力を発揮した。対数には、積を和に変換するという性質がある。このことは、掛け算による巨大な計算を足し算で小さくまとめられることを意味する。計算機のない時代に大きな数を扱う人の代表は天文学者であった。ネーピアが考案した対数は、天文学者が涙を流して喜んで迎えたであろうと想像できる。

ネーピアは、何も天文学者を思って対数を考案したのではないだろうが、はじめの対数表は$1$\textdegree ごとの正弦の対数表であったらしい。正弦の値は、天球に散らばる星々の距離やら何やらを計算するために不可欠であったはずだから、当然、有益な表であっただろう。しかし、対数表は天文学だけが活躍の場ではなく、日常での需要も見込まれた。そこに目を付けたのが同じイギリスの数学者のブリッグスである。そこで、二人の協力の下に$10$を底とする対数、すなわち常用対数表が作成されたという。私たちにとって$10$は生活の基盤だから、これまた有益な表であっただろう。

時代が下ると、ニュートン\footnote{アイザック・ニュートン(1642--1727):イギリスの物理学者・数学者・天文学者。}やライプニッツ\footnote{ゴットフリード・ウィルヘルム・ライプニッツ(1646--1716):ドイツの数学者・哲学者。}によって微積分法が盛んになる。そして、微積分において対数関数を微分したり積分したりする必要が生じる。正弦の対数であっても常用対数であっても微積分には問題ないが、底を$e \approx 2.72828$とすると微積分と非常に相性が良いことがわかり、特に微積分では底を$e$とする自然対数が好まれるようになった。現在では、常用対数と自然対数が対数の双璧をなしている。

さて、対数を考案したのはネーピアであるが、はじめは正弦の対数表であった。そこに、ブリッグスほか、何人もの賢人が知恵を絞って常用対数と自然対数を考案したので、正弦の対数表は見る影もなくなっている。しかし、対数といえばネーピアである。しかも{\bf ネーピアの}数とまで言われている。なんたることか。

この話は結局のところ、第一発見(発明)者がうまい汁を吸えるという、おいしい話になっている。企業がなりふりかまわず特許を取得しようとする気持ちが分かる気がする。

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