% 無限ホテルのパラドックス

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{amsmath, tikz}

\begin{document}

\noindent\textbf{無限ホテルのパラドックス}

無限が得体の知れないものであることを印象づける話の一つに『無限ホテルのパラドックス』がある。それは大雑把にいうと$\dots$
\begin{quote}
部屋数が無限にあるホテルがあり現在は満室である。そこへ一人の客が泊まりたいとやって来た。ホテルのオーナーは、現在宿泊中の客に『$n$号室から$(n+1)$号室へ移動』してもらい、$1$号室を空けることでその客の部屋を用意した。

次に$10$人の団体客が来たときは『$n$号室の宿泊客に$(n+10)$号室へ移動』してもらい、$1$--$10$号室を空けることでその団体客の部屋を用意した。

さらに無限人数の団体客が来たときは『$n$号室の宿泊客に$2n$号室へ移動』してもらい、奇数番号の部屋を開けることで無限人数分の部屋を用意した。
\end{quote}
という話である。満室なのにいくらでも追加で宿泊させられることがパラドックスになっている。なんで?

この話がパラドックスなのは、無限が数学的に矛盾しているからではない。無限は数学的に確立したものである。無限ホテルの話がパラドックスになっているのは、それが\textgt{たとえ話}だからだ。たとえ話は本来の内容を他のものに置き換えるものだが、$100$\%完璧に置き換えることはできない。したがって、置き換える過程で抜け落ちるものがあったり、余計なものが付け加わったりするのである。

無限ホテルのパラドックスには、抜け落ちと余計なものがある。抜け落ちたものは数学的な正しい解釈、余計なものは日常の常識である。無機質な数の話が、ありきたりなホテルの話になったのだから当然だろう。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}
\begin{scope}
\draw (6.5, 1.25) -- (0.5, 1.25) -- (0.5, 2) -- (6.5, 2);
\foreach \x in {1.5, 2.5, 3.5, 4.5, 5.5} \draw (\x, 1.25) -- (\x, 2);
\foreach \x in {1, 2, 3, 4, 5} \draw (\x, 1.62) node {$\stackrel{\x}{●}$}; \draw (6, 1.62) node {$\dots$};
%
\foreach \x in {1.5, 2.5, 3.5, 4.5, 5.5} \draw (\x, 1) node {$\searrow$};
%
\draw (6.5, 0) -- (0.5, 0) -- (0.5, 0.75) -- (6.5, 0.75);
\foreach \x in {1.5, 2.5, 3.5, 4.5, 5.5} \draw (\x, 0) -- (\x, 0.75);
\draw (1, 0.37) node {$\stackrel{1}{空き}$};
\foreach \x in {2, 3, 4, 5} \draw (\x, 0.37) node {$\stackrel{\x}{●}$}; \draw (6, 0.37) node {$\dots$};
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(9, 0)}]
\draw (0, 0) -- (2, 0) -- (2, 2) -- (0, 2) -- cycle;
\foreach \x/\y in {0.2/0.2, 0.4/0.2, 0.6/0.2, 0.8/0.2, 1/0.2} \draw (\x, \y) node {$\cdot$};
\end{scope}
\end{tikzpicture}
\end{center}

もし無限ホテルの構造が左図のようであれば、数直線からの連想で空き部屋が作られることに違和感はないだろう。しかし、ホテルは常識的に建物構造をしていると思えば、満室状態とは右図の建物が全て客で埋まっている状況を想像するに違いない。だったら、どうすれば空き部屋を作れるのだろうか?

数学の話は数学のことばですべきなのだ。理解を助けるためにたとえ話をするのは間違ったことではないが、たとえ話で数学が理解\.で\-\.き\-\.るわけではない。たとえ話は数学の理解を\.助\-\.け\-\.るに過ぎない。自転車の補助輪のようなものだ。数学は補助輪なしで理解しよう。

\end{document}