% 無限
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\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\noindent\textbf{無限}
$1\div3 = 0.333\dots$。小数点以下に$3$が無限に続く。$\sqrt{2} = 1.41421356\dots$や円周率$\pi = 3.141592\dots$も小数点以下に終わりがない。$1\div3$は小数点以下に数字の$3$が繰り返されるだけだが、$\sqrt{2}$や$\pi$はそうではない。数字の循環が起こることは絶対ないのである。そして、それが有理数と無理数をはっきり分ける性質である。
それでは、無理数の無限に続く数字の列には同じ数字が続かないかというと、そうではない。円周率の計算においては、何桁から何桁まで$9$が連続していくつ続くか、などということが調べられている。だったら、$9$が$1$億個続くことはあり得るのだろうか? または、$\pi$の数字の列のなかに$\sqrt{2}$と同じ数字の並びが$1$億桁続くことはあり得るのだろうか? $\sqrt{2}$の数字の列のなかに$\pi$と同じ数字の並びが$1$億桁続くことはあり得るのだろうか?
そんなことは誰も証明していないが、賭けるなら「あり得る」ほうに賭けたい。仮に「$1$億桁続く」という部分が「1那由他(なゆた)桁続く」となっていてもだ。
こんなことを言うと「あり得ない」に賭ける人たちが殺到してくる気がするが、申し訳ないが本気で賭けをするつもりはない。悪しからず。なぜ、あり得ない方に賭ける人が殺到すると考えているのかというと、世の中の人々は無限をナメていると思うからである。言っとくけど、無限ってそんなに甘いものじゃないと思うよ。
たとえばあなたが、A4用紙に$横2.5\textrm{(mm)}\times 縦5\textrm{(mm)}$程度の大きさで円周率の数字を延々と書き綴るとする。そうすると、$1$行あたり$80$字、表裏合わせて$125$行程度の数字で埋まる。これでちょうど$10{,}000$桁になる。一枚目の用紙の表裏が数字でびっしり埋まったら、その上に新しい用紙を置いて続きを書くことにする。その用紙も数字で埋まるので、また上に新しい用紙を置いて続きを書く。そうこうしているうちに、一般的に売られているA4用紙のひと束分($500$枚)を数字で埋めてしまう。これで$5{,}000{,}000$桁だ。
あなたはさらに数字を書き続け、$50$束分ほど積み上げると用紙が柱となって天井に届いてしまう。これで$250{,}000{,}000$桁になる。$2$億桁を超えたぞ。でも、さらに隣の床に同じように用紙を置いて数字を書き続ける。すると、また用紙の束が天井に届くので$\dots$とやっているうちに、家の中が用紙で埋まってしまうだろう。
仕方ないので、あなたは隣のビルの床を借りて続きを行う。すると、そのビルも用紙の柱で埋まってしまう。さらに、あなたはビルの隣の空き地で同じことをする。空き地は用紙の柱で埋まる。さらに作業を続けると、いつの間にか日本の陸地が用紙の柱で埋まる。で、海上でも、隣の国でも、地球の裏側でも同じことをする。いずれ地球上のあらゆるところに、数字で埋まった用紙の柱が立つ。
あなたは、それでも足りないとばかりに宇宙にその場を求めて数字を書き続ける。いずれ太陽系が数字で埋まり、宇宙全体が数字で埋め尽くされる。ああ、一体、円周率を何桁書いたことだろう。残念ながら、あなたは仕事をしてないに等しい。いくら宇宙を数字で埋め尽くしても、無限の数字の列から見れば、そんなものは``点''以下である。
そこで、あなたは魔法を使って、宇宙を埋め尽くした数字をA4用紙$1$枚に詰め込んだとする。このA4用紙には一体どれだけの数字があるのだろう? だけど、たっぷり隙間ができたぞ。で、もう$1$枚の用紙を取り出し、そこにも宇宙を埋め尽くす数字の列を詰め込む。その次にもその次にも$\dots\dots$。数字が詰まったA4用紙の柱が再び宇宙を埋め尽くすまで。さあ、本当にどれだけの桁を書いたことだろう。でも、無限の数字の列から見れば、そんなものは点以下であることに変わりない。
こうなったら、とことんやってやろうじゃないか。宇宙を埋め尽くした数字が詰まったA4用紙が再び宇宙を埋め尽くしたとき、もう一度魔法でA4用紙に詰め込もう。そこには数字で埋まった宇宙が二重に詰まっている。ということは、想像を絶する量の数字が書かれているはずだ。で、そのA4用紙を柱にして三たび宇宙を埋め尽くす。そしてまた、魔法でA4用紙に詰め込み四たび宇宙を埋め尽くす。またまた、用紙の柱で宇宙を埋めて魔法でA4用紙に詰め込み$\dots\dots$。
きりがないのは当然だが、あなたがその作業に飽きたら子供が引き継ぐ、孫が引き継ぐ、ひ孫が引き継ぐ、$\dots\dots$。宇宙が消滅して新しい宇宙が誕生しても数字を書き続ける。消滅、誕生、消滅、誕生、$\dots\dots$。で、どれほどの数字が書けたかって? 無限の数字の列から見れば、そんなものは点以下であることに変わりない。無限ってそういうものさ。だったら、$\pi$の数字の列のなかに$\sqrt{2}$と同じ数字の並びが$1$億桁続くところがあっても不思議じゃないだろう。
でも、ここまで言っても「あり得ない」に賭ける人たちが殺到してくる気がする。人間ってそういうものだからさ。
\end{document}