% 虚数

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\begin{document}

\noindent\textbf{虚数}

\textgt{虚数}のことを初めて習ったときは少し戸惑ったのではないだろうか。中学校では『方程式$x^2 = 4$の解は$x = \pm2$であるが、$x^2 = -4$には解がない』と習ったにも関わらず、高校で『方程式$x^2 = -4$の解は\textgt{虚数単位}$i$を用いて$x = \pm2i$である』とするからだ。え? 解はなかったんじゃないの? だって、$2$乗して負になる数なんてないんだから。

ごもっとも、である。終戦直後の教室じゃないんだから、言ってることが真逆になるってどういうこと? で、ますます数学が嫌いになるのだ。

数学が好きになれない人は、数学のどこが性に合わないのだろうか。人それぞれだと思うけど、原因の一つに『現実的でない』ことが挙げられるだろう。虚数はまさにそうだ。しかし数学には、それ以前から非現実的な設定は多い。たとえば、
\begin{quote}
[\textgt{問}] 鉛筆と消しゴムを合わせて$10$個買い$840$円支払った。鉛筆と消しゴムの値段を求めよ。
\end{quote}
なんて問題設定は日常的によくある風景\dots のわけないだろ。鉛筆や消しゴムの値段なんて最初からわかっとるわい。これが問いになるなんて、アタマ悪いんじゃないの?と思うのは当然のこと。そりゃ、数学なんて好きになれないよね。

でもね。その考えは間違ってる。数学って、はなから非現実的・非日常的なんだよ。だから本当は、数学って超楽しいものである。だって、漫画やアニメは非現実的・非日常的だから超楽しいってのと同じ感覚じゃないかな。

では、はなから非現実的・非日常的ってのは、どこからだろう? それは、$1$, $2$, $3$, \dots からだ。冗談で言っているのではない。

たとえば日常では、Mサイズの卵が$6$個$1$パックで売られていれば、どの卵も同じ大きさ/重さと考えるものだ。というか、$55$gと$55.1$gの差ぐらい気にしないものである。しかし、数学では$1$と$1.000000000000001$は厳密に異なるものとして扱う。これ、非常識だろう。つまり数学で扱う数は、現実に存在するものを模したのではなく、完璧に人の頭の中だけにある``理想の''数なのである。そして、現実の$1$, $2$, $3$, \dots と理想の$1$, $2$, $3$, \dots を大体同じものとして扱うのだ。で、日常に合わないものは取り入れないだけのことである。

中世の頃は負の数なんて非現実的と考えられていたけど、いまでは日常に合うから使っているのだ。虚数はいまのところ日常に合わないので使われないのである。したがって、虚数という考えがオカシイと思っても、数学の中で矛盾が生じなければ何の問題もないのである。むしろ虚数を取り入れる方が、数の理論として綻(ほころ)びがないものとなっているのだ。

もちろん漫画やアニメの設定であっても、人によって性に合わないものはあるから、好き嫌いが分かれることは自然なことである。数学も、非現実性を楽しめれば変に悩むことはない。現実的でないことが性に合うのなら、深く付き合ってもよいのではないかな?

\end{document}