% 極大値・極小値

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\noindent\textbf{極大値・極小値}

数学の言葉というものは厄介なものである。極大値・極小値もその一つだ。

日常的には最大・最小という言葉を主に使えばよろしい。これで大きな問題もなく事が運ぶはずだ。台風が発生すると「最大瞬間風速」といった用語を耳にする。新しい電化製品の宣伝には「世界最小」などの言葉が踊る。要は、いままでの中で一番大きいものや一番小さいものに与えられる称号なのだ。

だが、数学では「最大瞬間風速」は「極大風速」とでも言うべきものだろう。風速は電化製品のサイズと違って、絶えず変化している。ある瞬間ごとに風は強く吹いたり弱く吹いたりしているから、その中で一番強い値を観測したものが最大となるわけだ。しかし、この状態はむしろ極大と呼ぶほうがふさわしい。

極大の定義というのは、言ってみれば山頂のてっぺんである。すなわち、上昇から下降に転じる一点を指す言葉だ。むろん、極小なら下降から上昇に転じる一点を指している。「転じる」といのがポイントだ。その意味において最大瞬間風速は、強い風が弱い風に転じる一点で観測されるわけだから、極大風速と言えなくもない。

ところで極大値・極小値を厄介な言葉の一つに挙げたのは、こういった背景とは別の観点からである。このページのタイトルは「極大値・極小値(local maximum・local minimum)」だ。``local''が``局所的''の意味を持つことを意識すれば、「局大値・局小値」と書くほうがしっくりするのではないだろうか。極大値・極小値は、ある局部的な区間に限った最高値・最低値だから、そういう気になってもおかしくない。

しかし、やはり「極」の字を使うのが正しいのだ。

``rational number''を``有理数''と呼ぶのは字面から自然だが、``rational''は``ratio''に``〜的''を意味する``-al''がくっついてできた単語だ。したがって``rational number''は``比的数''のことである。同様に``local maximum''を``局所最大''と書きたい気持ちは字面から自然だが、``local''は``locus''に``-al''がくっついてできた単語だ。``locus''は``軌跡''を意味するから``local maximam''は``軌跡的最大''のことである。すなわち、線でなぞっている途中の最大を意味している。「局所」というと線でなぞらなくても、すなわち軌跡を描かなくても局部的な区間を考えることが可能だ。ある局所区間で断続的に``$\dots$,~$3$, $8$, $2$, $5$, $7$, $5$,~$\dots$''という値をとっても、$8$を極大値とは呼ばない。極大・極小はあくまでも「連続」が条件なのである。

``rational''といい``locus''といい、根本が違うのに見た目が同じ単語だから混乱するのだ。しかし、見た目だけで判断してはいけないという、人生で最も大事な教訓を得ることができる貴重な数学用語でもある。

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