% 変な命題

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\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\begin{document}

\noindent\textbf{変な命題}

\textgt{命題}とは\textgt{真}・\textgt{偽}がはっきり定まる言及のことである。たとえば
\begin{center}
「東京タワーは高層建築物である」\dots($*$)
\end{center}
との言及は命題ではない、と思う。妙な言い回しで申し訳ないが、消防法などの基準に照らせば($*$)の言及は基準を満たすので真であるが、建築基準法には高層建築物の定義はないようだ。『いや、$300$m超の建築物は確実に高層でしょう』とか『いやいや、そうなると``高層''ではなく``超高層''でしょう』とか意見が割れる。そのため、真・偽がはっきり定まるとは言いがたい。でも
\begin{center}
「東京タワーは$300$m超の建築物である」
\end{center}
とすれば、法律に関係なく真であると定まる。もっとも、日常会話に出てくる言及は白黒つけがたいものが多く、命題どうのと言うのはそぐわないだろう。

でも、数学なら話は別だ。数学では真・偽があやふやなものは扱わない。たとえば
\begin{center}
「$x^2 > 1$ならば、$|x| > 1$である」
\end{center}
との言及は命題であり、かつ真である。$2$乗して$1$より大きくなる数は、正負をを無視して---つまり\textgt{絶対値}で---$1$より大きい数であることに疑う隙はない。ではこれを
\begin{center}
「$x^2 < 0$ならば、$|x| > 1$である」\dots($**$)
\end{center}
と言い換えたらどうだろう。

もちろん、これは命題と言える。真・偽がはっきり定まるからだ。($**$)は真である。

数学を正しく学んでいなければ『$x^2 < 0$はあり得ないから、この文はおかしい』と思うだろうし、正しく学んでいても『$x^2 < 0$はあり得ないのに、なぜ真の命題と言えいるのか』と思うものである。でも、あらためてもう一度言おう。($**$)は``真の命題''である。

なぜなら命題は、一般に「(仮定)ならば(結論)」という形式で述べられたとき、仮定が偽なら結論の真・偽に関わらず真であると言えるからだ。($**$)は、このリクツにより真である。勘違いしないでほしいのは、真であるのは(仮定や結論ではなく)命題であると言うことだ。

そうは言っても『どう考えてもそのリクツはおかしいだろ』とか『数学って日常の感覚と違うことが多くて嫌になる』とか叫ぶ人が続出するものである。でもちょっと待って。本当は『そのリクツはまったく正当』だし『日常の感覚によく適合している』のだよ。ちゃんと説明しようじゃないか。

ドラえもんが身近にいるといいよね。だって、どこでもドアやタケコプターで好きな所へ行けるから。これ、変なコト言ってないよね? OK。じゃあ続けよう。これを数学っぽく言い直すと
\begin{center}
「ドラえもんが身近にいれば、どこでもドアやタケコプターで好きな所へ行ける」\dots(\$)
\end{center}
になるだろう。さて、仮定である「ドラえもんが身近にいる」って現実的に偽だよね。架空の話なんだから。でも(\$)の言及はまったく正当だし日常目にすることである。そりゃそうだ。架空の話なんだから、架空の世界で何が起ころうとすべて正当化されるのは当然だ。つまり、仮定が偽で始まってしまえば、もうその後は何が起こっても何の問題もないってコトである。

ほらね。「変な命題」ってタイトルのトピックだけど、ぜんぜん変なことはないでしょ。変なのはタイトルだったてオチか。

\end{document}