% 行列式

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\begin{document}

\noindent\textbf{行列式}

高校の数学で習う行列式とは、行列$\displaystyle \left(\matrix{a & b \cr c & d}\right)$に対する$ad-bc$の値のことである。それが何かというと、逆行列の計算に必ず使われる値だ。要するに、行列の考えと逆行列の考えがあって、そこから計算される値が行列式なのだ。ことばの上でも、行列から行列式が生まれたように見えるのは、りんごからりんごジュースができるのと似ているかもしれない。

でも、実際は逆なのだ。行列式が先で行列が後である。英語では行列式(determinant)と行列(matrix)は単語からして違っているので、後先とは関係ない概念であることが見て取れる。実際、determinantは決定要素、matrixは母体という意味を持つ。

何で行列式が決定要素なんだろう。それは歴史をひもといてみて分かることである。そこで、$x$, $y$を未知数とする連立方程式を解くところから始めよう。まず、連立方程式
\begin{quote}
$\left\{
\begin{array}{rcl}
ax+by & = & p\\
cx+dy & = & q
\end{array}
\right.$
\end{quote}
を考える。係数が文字であるものの、解くことはさほど難しくはない。実際に解いてみれば$\displaystyle x = \frac{aq-pc}{ad-bc}$, $\displaystyle y = \frac{pd-bq}{ad-bc}$であることがわかる。

$2$次方程式の解の公式よろしく、係数と定数だけで連立方程式の解を計算できる点が注目すべきところである。分母はともに$ad-bc$である。分子はよく見ると、$ad-bc$の一部の文字を$p$や$q$に変えていることに気づくだろう。つまり、連立方程式の解を決定しているのが$ad-bc$なのである。行列式は行列とは無関係のところで発生したのだ。

では、行列はどこから発生したんだろう。正確なことは知らないが、ベクトルあたりに関する研究から発展したようである。そして、やがて線形代数の世界へつながる過程で、連立方程式と出会ったはずである。その際、連立方程式の決定要素が行列に隠れていたように見えたわけだ。

「本末転倒」とまではいかないが、数学の用語に額面通りでないものが散見されることは、珍しいことではない。

\end{document}