% オイラーの定数

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\begin{document}

\noindent\textbf{オイラーの定数}

オイラーの名が冠される用語は数多くあるが、これはその一つである。定数で有名なのは円周率$\pi$の$3.141592\dots$であろう。円周率は、小数点以下の数に終わりがない。つまり普通の感覚では定まることはない。しかし、定数と呼ばれる。オイラーにまつわる定数で普通の感覚に当てはまる定数があるとすれば、それは$2$だ。

凸多面体を考えよう。この多面体が$v$個の頂点、$f$個の面、$e$個の辺をもっていれば、必ず
\begin{quote}
$v+f-e = 2$
\end{quote}
となる。もっともこの場合は、定数$2$よりも関係式に着目して、\textbf{オイラーの多面体定理}などと呼んでいる。単純な定理に見えるが奥が深い定理でもある。

しかし、ここでいうオイラーの定数は別のものだ。それは
\begin{quote}
$\displaystyle \lim_{n\to\infty}\left(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\cdots+\frac{1}{n} -\log n\right) = 0.5772156649\dots$
\end{quote}
である。$\log$は底を$e$とする対数関数で、ときに$\ln$と表記されることもある。

実に不思議な式だと感じないだろうか。$1+1/2+1/3+1/4+\dots+1/n$は$n \to \infty$で無限大に発散する。もちろん$\log n$も$n \to \infty$で無限大に発散する。ところが、その差はわずか$0.5$程度に過ぎないとこの関係式は主張しているのだ。

どう考えても不思議だろう。というのは、無限大に発散するものを比較した場合、その差が定数になることなど普通は考えられないからだ。例えば、$n^2$と$n$はどちらも$n \to \infty$で無限大に発散する。しかもその差$n^2-n$は広がる一方だ。すなわち、差が定数になることなどありえない。大体において、こうなるのが普通なのだ。

どうしてオイラーはこの関係に気づいたのだろうか。突然、これらの差が一定の値になると気づいたわけではあるまい。気づいたのは、$1+1/2+1/3+1/4+\dots+1/n$と$\log n$の増え方が、とてもゆるゆると増加し、最後には$\infty$の大きさになるということだろう。そして、互いがとてもよく似ていると直感したのではないか。

それにしても、その差$0.5$ほどというのが微妙きわまりない。たとえば、$\log n$と$\log(n-1)$は互いによく似た増え方をする。当たり前だが、$\log n$を$\log(n-1)$が追いかける形になる。だが、その差$\log n-\log(n-1) = \log n/(n-1)$は$n \to \infty$において$0$である。極限を考えた場合、似た者どうしなら無限の彼方では一心同体、そうでなければ離れる一方というのが常識だ。だから、式の上では似ていない$1+1/2+1/3+1/4+\dots+1/n$と$\log n$が、無限の彼方でつかず離れずの関係にあるのはとても不思議なことなのだ。

$0.5$という大きさが$500$であっても不思議さは変わらないが、$0.5$ほどの大きさに心惹かれる。数学では、$1$の大きさが基準になることがほとんどなので、オイラーの定数がもし$1$であったらなら、$1+1/2+1/3+1/4+\dots+1/n$と$\log n$にはとてつもない関係が潜んでいたんだろうか。でも、$0.577\dots$である。この微妙さがおくゆかしい。

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