% 円周率

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\begin{document}

\noindent\textbf{円周率}

円周率って何ですか?と問われれば
\begin{quote}
直径に対する円周の比 ---すなわち$\displaystyle\frac{(円周)}{(直径)}$の値
\end{quote}
と答えるだろう。当然小学校でもそのように習い、およそ$3.14$という値であることも知っているはずだ。小学生当時、定規や紐(ひも)を使って、あちこちから集めた円を測った人もいるかもしれない。しばらくは、それで円の面積計算もできて得意になっていても、あるとき疑問が浮かぶ人もいる。『円周率ってどうやって計算するの?』

そう、円周率は計算によってどうにか求めているのだ。決して茶筒の周りを測定して求めているわけではないし、茶筒から得られた値を使って人工衛星を飛ばしているわけでもない。純粋に計算だけで求めるのだ。直径はまっすぐだから長さの計算は容易だ---\textbf{座標}と\textbf{三平方の定理}を学べばすぐ分かる---けれど、問題は円周の長さをどうやって計算するかである。

そこで、円は正多角形の辺数をとてつもなく増やした図形であるとして、その正多角形の辺の長さの合計で近似する考えが登場する。紀元前のことだ。そうすれば、まっすぐな辺の長さを計算することで円周の長さをかなり精確に求められる。実際、紀元前の頃はそうしていた。だから現代でも『円周率ってどうやって計算するの?』と聞かれたとき、『この正多角形の方法でコンピュータに計算させるんだよ』とか言う人がいる。いいえ、\textbf{近似すること}と\textbf{実際の計算}は別物です。コンピュータに計算させるには、相応の計算式を用いるんですよ。正多角形の辺の長さで円を近似できても、辺の長さを用いた計算ではうまくいかないのだ。

いまでは計算機向きの様々な計算式が見つけられていて、長時間の計算で何兆桁もの円周率が求められている。その原点と言える式は、おそらく
\begin{quote}
$\displaystyle \frac{\pi}{4} = 1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\frac{1}{11}+\frac{1}{13}-\cdots$
\end{quote}
で、グレゴリー\footnote{ジェームス・グレゴリー(1638--1675):イギリスの数学者・発明家。}やライプニッツ\footnote{ゴットフリード・ウィルヘルム・ライプニッツ(1646--1716):ドイツの哲学・数学者。}らが見つけたようである。もちろん、計算機などなかった時代にね。

でも、生活する上で必要な円周率の値は$3.14$程度で十分である。人工衛星を飛ばすのだって、有効数字$15$桁もあればいいんじゃないかな。しかし、いつだったか計算が苦手な子に教員が配慮できるように、``必要に応じて''円周率を$3$で計算させてもよいという御達しが出たことがあった。『そんなに簡単にする必要があるのか!』と怒りの声が噴出したものだが、実際はそう簡単な話ではない。なぜなら、$3.14$の代わりに$3$で計算するためには、
\begin{quote}
$3$で計算しても問題ない状況であることが判断できないといけない
\end{quote}
からである。その判断は大人でも難しい。計算が苦手な子に配慮して導入した結果、かえって難しくしてしまったことは、古き良き時代の思い出である。

さて、円周率がおよそ$3.14$であるのはよいとして、私にはちょっと不思議に思えることがある。なんで円周率の定義は「直径」に対する円周の比なんだ? 古代の人が砂地に円を描くとしたら、一本の紐を使って、一方を固定してぐるりと周ったことだろう。だったら円周の長さが気になったとき、『円周の長さって、この紐何本分なんだろう?』と考えるもんじゃないか? それは紐$6$本と$1/4$ほどである。つまり「半径」の$6$倍強である。なぜ円周率の定義が「半径」に対する円周の比にならなかったのだろう?

\end{document}