% 同様に確からしい

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage{tikz}

\begin{document}

\noindent\textbf{同様に確からしい}

確率の計算をする際、\textgt{同様に確からしい}ということばに遭遇する。``確からしい''は``新しい''と同様、それで一語である。``明日は雨らしい''とは違うことに注意しよう。つまり、``雨である''と断定せずに``雨かもしれない''との含みを持たせた``-らしい''ではなく、『``確からしい''と断定』しているのである。言い方はちょっと矛盾してるっぽいが、実際は矛盾などまったくしていない。

手でカチカチ押すカウンターを使ったことがあるだろうか。ここではカウンターの一桁目の数字に注目してほしい。$0$から$9$までの数字が現れるはずだ。もしカウンターを$100$回押せば、$0$から$9$までの各数字はきっちり$10$回ずつ現れる。この場合、
\begin{center}
$0$から$9$までの数字の現れ方は、同様に確か\textgt{である}
\end{center}
と表現できる。これは``確か-らしい''\footnote{一語の``確からしい''とは別のことば。}と曖昧に言わず、語尾を``-である''と言って断定しているのだ。

一方、一語の``確からしい''を別のことばで言うなら、``均等である''が適しているだろう。``均等である''なら、その語尾は断定の``-である''だ。すると``同様に確からしい''は``同様に均等-である''と読め、似た意味のことばを重ねたように聞こえるかもしれない。でもちょと違うのだ。似た意味を重ねるなら``\textgt{同じに}均等-である''の方がふさわしい。``\textgt{同様に}均等-である''は似たことばを重ねてはいない。

じゃあ、``同様に確からしい'' = ``同様に均等である''ってどういうこと? それは『理想的な期待』を前提としたことばである。たとえばサイコロを振る際、サイコロの目の出方は同様に確からしいこと---すなわちサイコロの目が理想的に出ること---を仮定している。そう、同様に確からしいことは仮定するものであって、現実に均等ではないのだ。

現実のサイコロは各面に $\bullet$ が異なる個数彫られているため、もしかしたら重心が完全な中心からわずかにずれているかもしれない。そこで理想的なサイコロを仮定するのだ。であれば、どの面も均等に出るはずである。しかし、先のカウンターの例のように、規則正しく目が順に出るわけではない。さらに、$600$回振れば各面が$100$回ずつ出るわけでもない。もし、すべての面がきっちり$100$回ずつ出ることが約束されているなら、``\.同\-\.じ\-\.に確からしい''と表現することになる。``\.同\-\.様\-\.に確からしい''と言うのは、理想的には$100$回ずつ出ることが期待されるからである。そこでサイコロの場合は、
\begin{center}
$1$から$6$までの目の出方は、同様に\textgt{確からしい}
\end{center}
と表現するのが、いちばんしっくりくるのである。

字面だけで文字の意味を完璧に読み取るのは難しいものだ。そして、確率の計算は「同様に確からしい」ことを前提にするので、世の中の``同様に確か-らしく見える''事象は、確率の計算結果とは微妙に異なることはままあるものなのだ。

\end{document}