% 分数の割り算

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\begin{document}

\noindent\textbf{分数の割り算}

分数の割り算は「逆数の掛け算に直して行う」とはよく言われることだが、これは分数の割り算を的確に言い表わしていない。実際は、分数の割り算はそのまま割り算してかまわない。逆数の掛け算に直すのは、そのまま割ると「気持ち悪い」からに過ぎない。例を示そう。

\begin{quote}
$\displaystyle \frac{2}{3}\times\frac{4}{5} = \frac{8}{15}$
\end{quote}
となるのは、分子どうし・分母どうしで掛け算をしているからだが、$2\times5 = 10$を$2 = 10\div5$と書けるのと同じように、いまの例は
\begin{quote}
$\displaystyle \frac{2}{3} = \frac{8}{15}\div\frac{4}{5}$
\end{quote}
と書ける。明らかに$2 = 8\div4$と$3 = 15\div5$の計算が成り立っている。分子どうし・分母どうしで割り算をしても何の不都合もないのだ。

そうは言っても、分数の割り算を分子どうし・分母どうしで行うと
\begin{quote}
$\displaystyle \frac{5}{9}\div\frac{3}{2} = \frac{1.666\dots}{4.5}$
\end{quote}
といった分数になることもある。計算上は$5/9 = 0.555\dots$、$3/2 = 1.5$、$(1.666\dots)/4.5 = 0.370\dots$だから、割り算の結果が全く正しいことは電卓で確認できるだろう。しかし、どう見ても$(1.666\dots)/4.5$は気持ち悪い分数だ。人によっては、分数と認めたくないと考えるだろう。

そこで、この気持ち悪さを解消するために一工夫がなされた。割り算をして中途半端な答が出るのは、割られる数である$5$や$9$が、$3$や$2$で割り切れないことが原因である。もともと$5$や$9$に$2$と$3$が掛けてあれば、そんな心配は無用だろう。$5$と$9$が分数の分子・分母であることをいいことに、あらかじめ$2$と$3$を掛けておこうじゃないか。これは通分と呼ばれる操作だから何ら問題はない。すると、正直に分子どうし・分母どうしで割算しても
\begin{quote}
$\displaystyle \frac{5}{9}\div\frac{3}{2} = \frac{5\times2\times3}{9\times2\times3}\div\frac{3}{2} = \frac{5\times2\times3\div3}{9\times2\times3\div2} = \frac{5\times2}{9\times3}$
\end{quote}
のように半端が出ない。

最初と最後の式を見比べてほしい。見かけ上、割る方の分数の上下が入れ替わったように見える。結局のところ分数の割り算は、「逆数の掛け算に直して行う」わけではなく、「割られる分数をあらかじめ通分をして、分子どうし・分母どうしで割る」ということをしていたのである。何ごともそうだが、見かけの振る舞いだけにだまされてはいけない。

\end{document}