% abc予想

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\noindent\textbf{$abc$予想}

$abc$予想は、まず名前から興味をそそられるシロモノである。しかし実態はよく分からない。というのは、予想が何を言っているのか、説明のはじめのうちは小学生でも分かることが、だんだん雲行きが怪しくなってきて、どうにも雲をつかむような話になる。おっと、この感覚は普通の人が感じることであって、数学が専門の人なら予想が言わんとすることは一点の曇りもなく理解できるものだ。

予想はひとことで言えないので、順を追って説明しよう。

$a+b = c$となる自然数の組のうち、$1$以外に共通の約数を持たない異なる数$a$, $b$, $c$を考える。これは小学生にも分かる。もっとも、高校生以上なら『互いに素である$3$数$\dots$』と言うだろうけど\footnote{高校生以上なら『互いに素である$a$, $b$ $\dots$』と言えば、$c$も素になること、$3$数が異なることは言及するまでもなく自明だろう。}。次に、$a+b = c$を素因数分解した形で表したとき、式中の相異なる素因数の積を$r$とする。この表現は中学生なら分かるだろう。高校生以上なら『$n$の相異なる素因数の積を$r(n)$と表す』とした上で『$r(abc)$を考える』と言う方が簡便になる。このとき、$\displaystyle \frac{r(abc)}{c}$の値は限りなく$0$になりうることは証明されている。

ところが、$m > 1$として$\displaystyle \frac{r(abc)^m}{c}$の値を考えると、これを限りなく$0$にすることはできない。たとえ$m = 1.000002$のような値であっても、$\dots$というのが$abc$予想と呼ばれるものである\footnote{$abc$予想には、同じ内容の異なる言い回しがいくつかある。}。なんのこっちゃ?と思うだろう。

具体的に説明しよう。たとえば$1+8 = 9$を考えると$1+2^3 = 3^2$と表せる。このとき
\[
r(abc) = r(1\cdot2^3\cdot3^2) = 1\cdot2\cdot3 = 6
\]
であるから、$\displaystyle \frac{r(abc)}{c} = \frac{6}{9} = 0.666\dots$である。比較的小さな値ではあるが、限りなく$0$に近いというほどではない。しかし、これより小さくなる$\displaystyle \frac{r(abc)}{c}$を探すことは可能だ--- $3^5+13 = 2^8$で$\displaystyle \frac{78}{256}$など、わりと簡単に見つかる---し、望めばいくらでも記録を更新できる、$\dots$ということは証明されている。

一方で、計算する比の値を$\displaystyle \frac{r(abc)^m}{c}$、$m > 1$にすると、記録更新は叶わないというのだ。これが$abc$予想である。

$1+8 = 9$において、たとえば$m = 1.01$とすると$\displaystyle \frac{6^{1.01}}{9} = 0.678719385\dots$である。これより小さな値となる$a+b = c$の組は探せても、記録を更新し続けることはできないというのである。マジか? $\displaystyle \frac{r(abc)}{c}$なら限りなく小さくできても、$\displaystyle \frac{r(abc)^{1.000\dots001}}{c}$なら$0$より大きい下限があるというのか。

予想は少し信じ難いけれど、たとえば級数$\displaystyle \frac{1}{1^s}+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\frac{1}{4^s}+\frac{1}{5^s}+\cdots$は$s > 1$なら収束するが、$s = 1$ならば発散するという事実を考えれば、絶妙な境目があることはそれほど不思議ではないかもしれない。

\end{document}