% 6÷2(1+2)
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\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\noindent\textbf{6÷2(1+2)}
$6\div2(1+2)$の正しい答はいくつか、というのはネットなどで根強い人気を誇っている。人気の理由は
\begin{quote}
\begin{tabular}{llll}
(A)\quad $6\div2(1+2)$ & $= 6\div2\times(1+2)$ & $= 6\div2\times3$ & $= 9$ \\
(B)\quad $6\div2(1+2)$ & $= 6\div(2\cdot3)$ & $= 6\div6$ & $= 1$
\end{tabular}
\end{quote}
の二派の争いに決着がつかないからだ。
(A)派の主張は『省略されている$\times$があって、乗除混合の計算は先頭から順に行う』規則に従うことを根拠としている。つまり、$2(1+2)$を\textgt{数式}として見ている。
(B)派の主張は『$2(1+2)$は文字式$2x$のようなまとまりであって、まとまりは一文字で扱う』規則に従うことを根拠としている。つまり、$2(1+2)$を\textgt{数値}として見ている。
根拠とする規則は両派ともに正しいので、相手のリクツより自分のリクツが優位であることを完璧に示せないのである。
話を変えよう。『ヤバい』ということばは聞くところによると、江戸時代、昭和、現代で主要な意味が変遷しているようだ。江戸時代において『ヤバい』と言えば、矢場(女性の補助で矢を射ることができる場所)並みにウレシイことを意味したらしい。昭和において『ヤバい』と言えば、危険な人や場所に対するごとくアブナイことを意味していたものだ。で、現代において『この食べ物ヤバい』と言えば$\dots$。さて、どっちなんだ? 『この食べ物(美味すぎて)ヤバい』なのか『この食べ物(傷んでるみたいで)ヤバい』なのかは、食べた人の顔で判断するしかない。そう、『ヤバい』だけでは二通りに解釈できてしまうので、より詳しい情報が必要なのだ。
で、話は元に戻る。$6\div2(1+2)$は情報不足である。もしこれが単に『数式の$\times$を省略する規則』に従っただけならば、(A)の解釈でよいだろう。もしこれが$6\div2x$に$x = 1+2$を代入したものだったら、(B)の解釈でよいだろう。そう、$6\div2(1+2)$だけでは\textbf{元の式の情報が不足している}のだ。
そもそも、論文を査読してもらうような人や試験に解答するような場合は、このようなあやふやな書き方はしない。かりにこう書いたとしても、正しく伝わるものが前後に書かれているはずなのだ。曖昧(あいまい)な書き方をしておきながら正しく読み取れ、などというのは身勝手な言い分である。あなたは『この食べ物ヤバい』と聞いただけで、それを食べるだろうか?
または、あなたが銭湯の入り口をくぐってすぐに
\begin{center}
『ここではきものをぬいでください』
\end{center}
との注意書きを目にしたら$\dots$。 履物を脱いで奥へ進むだろうか? 着物を脱いで浴室へ向かうだろうか? 正確に伝えたければ、区切りや読点(とうてん)などの情報を加える必要がある。
\end{document}