% 100円はどこに消えた?

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\section*{■100円はどこに消えた?■}

『先生が入院したというので、生徒$3$人がお見舞いに行くことになった。果物を差し入れようと各自$1{,}000$円ずつ出し合い、一人の生徒が$3{,}000$円の買い物をしたところ、店の人が$500$円まけてくれた。その生徒は、$500$円は三等分できないので$100$円ずつ自分と皆に返し、自分のフトコロに$200$円をちょろまかした。その結果、一人$900$円ずつ出し合ったことになるが、三人が払ったお金が$2{,}700$円。一人の生徒がちょろまかしたのが$200$円。あれ? 最初集めた$3{,}000$円に$100$円足りないけどなんで?』という話がある。なんでだろう。

この話を聞いて、あれ?と思ったらもう大変。おそらく思考がぐるぐる回って真相に辿り着けないかもしれない。人の頭は一度『そうそう』と思ったことを即座に切り替えるのは苦手なのだ。

たしかに数字は合っている。$500$円のうち$100$円が三人に戻って$200$円がフトコロだ。$1{,}000$円出して$100$円戻ったので一人$900$円、すなわち計$2{,}700$円払ったことも正しい。なのに動いたお金の合計$2{,}700+200$円は$3{,}000$円にならないのはどうして? おそらくこんな思考に陥っているに違いない。

何がおかしいか気づいたかな? 話がおかしくなったのは、お金の計算を\textgt{文章に現れた数値だけ}で行っているからである。文章に出てくる金額は
\[
『1{,}000円、3{,}000円、500円、100円、200円、900円、2{,}700円』
\]
である。そして『そうそう』と思いながら用いた金額が
\[
『500円、100円、200円、1{,}000円、900円、2{,}700円、3{,}000円』
\]
である。使う順は違えど文章通りの金額を用いている。これは、思考が「数学できない頭」になっている証拠だ。

数学の文章問題が解けないときの思考は、文章に見えていることだけで処理しようとしている。すると、何度考えても堂々巡りをするだけなのである。つまり、この文章はそうなるように書いてあるにすぎない。文章の書き方がごまかしなのだ。

この文章の状況を正しく説明し直そう。

『先生が入院したというので、生徒$3$人がお見舞いに行くことになった。果物を差し入れようと各自$1{,}000$円ずつ出し合い、一人の生徒が$3{,}000$円の買い物をしたところ、店の人が$500$円まけてくれた。その生徒は、$500$円は三等分できないので$100$円ずつ自分と皆に返し、自分のフトコロに$200$円をちょろまかした。その結果、一人$900$円ずつ出し合ったことになるが、三人が払ったお金$2{,}700$円のうち\textgt{お店のレジスターに入ったのが$2{,}500$円、一人の生徒のフトコロに入ったのが$200$円となった}』

最後のところが肝心だ。$2{,}700$円のお金は、お店のレジスターとちょろまかした生徒のポケットに分散されたのだ。これが正しいお金の流れである。最初の文章は、分散されるべきお金に関係ないお金を加えるように書かれている。作者はここでごまかしを入れたのである。見えているものだけですべてを判断してはいけない。

\end{document}