% 分けるって単純じゃない

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\section*{■分けるって単純じゃない■}

均等に分けるっていいことだ。何だか平等になっているような気がするからね。けれど「勢い」で等分すると、時に間違った結果を得てしまう。大抵は間違っても誤差の範囲で済ませられるかも知れない。でも、中には誤差が許されない場合だってあるものだ。ちょっとした例を二つ挙げよう。

\begin{itemize}
\item[$1$\textdegree)] 定員$4$人を選挙で選ぶものとする。候補者は$4$人よりずっと多い。有効投票数が$1{,}000$票だった場合、当選が確定するための獲得票は最低何票か。\quad$\Rightarrow$\quad $4$人で票を分け合った場合だから$1000\div4 = 250(票)$である---??---。
\item[$2$\textdegree)] 新入社員の初年度の基本月給は$10$万円とし、次年度から基本月給が「毎年$1$万円ずつ上がる」契約で内定していたとする。しかし、会社の決算が半期ごとに変更されたので、基本月給も初半期は$10$万円、次の半期から半期ごとに一定額ずつ上がるように契約変更したい。一定額をいくらにすれば同等の契約になるか。\quad$\Rightarrow$\quad 半期は$1/2$年だから$1\div2 = 0.5$(万円)である---??---。
\end{itemize}

はい、二つとも間違い。この解答を信じたら、候補者は$210$票獲得しても、やきもきしていなくてはならないし、会社は、半期決算にしたとたん人件費がかさんだことをいぶかることになる。正解は$1$\textdegree)が$201$票だ。しかし、$2$\textdegree)は契約期間をきめない限り一定額の確定ができないのだ。これはきちんと説明しないといけないね。

$1$\textdegree)は、$4$人で全部の票を集めてしまうことを想定してはいけない。もし$3$人が$250$票ずつ獲得していたら、$4$人目は$249$票でも第$4$位なので当選だ。この場合は$4$人目が$126$票でもまだ第$4$位が確保できるが、それは$3$人が$250$票持っていってしまったからである。そうでなければ第$5$位に転落する可能性が高い。

実際は、$5$人で全部の票を集めてしまうことを想定するのだ。もし$5$人が$200$票ずつ獲得したら横一線であるから、当選が確定したことにはならない。後は抽選などの運任せとなってしまう。そこで$201$票なら安泰だ。なぜなら、他のだれかの票が別の候補者へ取られても、取られた人が第$5$位になるのであって、$201$票の者は第$4$位以上は確保できるからである。

$2$\textdegree)は注意深く調べないといけない。実際、年$1$万円の定期昇級と半期に$0.5$万円の定期昇級では、半期ごとに定期昇級する方が得であることが、次の表から分かる。

\begin{center}
\begin{tabular}{r|cccccccccc}
昇級額$\backslash$期 & 初半期 & 2半期 & 3半期 & 4半期 & 5半期 & 6半期 & 7半期 & 8半期 & 9半期 & $\dots$ \\ \hline
1万円/年 & 10 & 10 & 11 & 11 & 12 & 12 & 13 & 13 & 14 & $\dots$ \\ \hline
0.5万円/半期 & 10 & 10.5 & 11 & 11.5 & 12 & 12.5 & 13 & 13.5 & 14 & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}

明らかに、半期ごとに昇級するほうが毎年$0.5$万円ずつ余分にもらえる。だから、会社として内定時と同程度の契約にしたければ、定期昇級額を下げなくてはならない。では、どれだけ下げればよいかというと、実はその後の勤続年数に依存してしまうので何とも言えない。たとえば昇級額を半期で$0.4$万円に押さえると、$6$半期までの総支払額は同じだが、それ以降は年$1$万円昇級の場合より安くつく。会社には好都合でも、優秀な人材を逃がしたくなければ定期昇級額は下げないほうがよい。何しろ$1$円でも下げようものなら、計算上は、必ず年$1$万円昇級の場合より安くつくことになるからだ。もっとも、勤続年数が千年や一万年などということはありえないから、定年を迎えた時に総支払額が同額になるように、定期昇級額を下げるならよいけれど。

\end{document}