% たかが 12m、されど 2m

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\begin{document}

\section*{■たかが$12$m、されど$2$m■}

古くからある話題だが、数学を学ぶ上ではよい教訓になるものがある。次の質問がそうだ。

\begin{itemize}
\item[\textbf{Q.}] 地球が完全な球であるとする。このとき、赤道に沿って地面にぴったりロープを巻き付ける。するとロープの長さは$40{,}000$kmになる。そこでロープを$12$mだけ延ばすと、当然地面に隙間ができる。隙間が均一になるようにすると、一体どれくらいの隙間になるだろうか?
\end{itemize}

せっせと計算を始める前に、目安となる正解の候補を挙げよう。

\begin{center}
$50$cm,\qquad $10$cm,\qquad $2$cm,\qquad $4$mm,\qquad $0.8$mm
\end{center}

どれが正しいと思うかな? 思わせぶりに目安を挙げたが、実は正解と呼べるものはないのだ。なに? ではmm単位より小さいのだろうか。早速、本当のところを検証しよう。

まず、赤道周は$40{,}000$kmだが、ロープの単位に合わせると$40{,}000{,}000$mという大きな値になってしまう。そこで、計算の始めからこれを使うのではなく、$L = 40000000$ とおいて計算をすることにしよう。すると、$12$m延ばしたものは$(L+12)$mである。

さて隙間の計算だが、それは$(12\textrm{m}長くしたロープ周に対する半径)-(赤道周に対する半径)$で求められる。半径の計算は$(円周)\div(2\pi)$であるから
\begin{eqnarray*}
隙間 & = & \frac{L+12}{2\pi}-\frac{L}{2\pi} \\
& = & \frac{12}{2\pi} \\
& \approx & 1.91
\end{eqnarray*}
である。単位はmだったね。なんと、$2$m近い隙間ができるんだ。本当?

だが、まったくその通りなのである。$40{,}000$kmと$12$mという格差だけで判断をしてはいけない。$40{,}000$kmに対して$12$mは、たしかに僅か$0.00003$\%でしかない。だけど考えてもらいたい。地球の半径だっておよそ$6{,}370{,}000$mもあるんだ。それに対する$0.00003$\%は
\[
6370000(\textrm{m})\times0.00003(\%) = 1.911(\textrm{m})
\]
である。ほらね、ドンぴしゃだ。

教訓とはこうである。感覚に惑わされてはいけない。そして違う観点でも検証をしよう、だ。違う観点で検証をしたお陰で、真実も見えてくる。この問題には球の大きさは無関係なのだ。だって$L$を使う機会がなかったからね。この問題は、純粋に延ばした長さの$1/6$ほどの隙間ができるだけだったのだ。

\end{document}