% 期待と期待値は雲泥の差

\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}

\begin{document}

\section*{■期待と期待値は雲泥の差■}

統計やギャンブルの見通しをよくするために期待値の計算をすることがある。期待値という呼び名は妥当とは思うが、実のところそれは単なる平均にすぎない。教科書的に以下のようなくじを想定してみよう。

\begin{center}
\begin{tabular}{c|cccc|c}
& 1等 & 2等 & 3等 & はずれ & 計 \\ \hline
賞金 & 1{,}000円 & 500円 & 200円 & 0円 & \\
本数 & 2 & 5 & 10 & 33 & 50 \\
\end{tabular}
\end{center}

このくじから得られる賞金はいくらであろうか。期待値を求める計算にしたがい
\[
1000\times\frac{2}{50}+500\times\frac{5}{50}+200\times\frac{10}{50} = 130(円)
\]
として$130$円のリターンを期待できる。くじが$1$本$100$円で売られることはないだろうが、もしそんなことがあれば``買い''である。買い占めれば確実に$1{,}500$円の儲けになるからだ。

くじが$1$本$200$円だったらどうしよう。$200$円の投資で最大$1{,}000$円の儲けが期待できるものの、くじは平均的に$130$円の価値しかない。買えば買うほど損失が大きくなる計算だ。

ここまでの話を大きくしたのが、宝くじである。くじの種類にもよるので一概に言えないが、実際に宝くじのリターンは投資額の数十\%ではないだろうか。しかし、$100$円に対するリターンが$1$億円ともなれば、買いたくなるのは無理もない。では、次のようなくじが$1$本$25$万円で、全国発売されていたら買えますか?

\begin{center}
\begin{tabular}{c|cccc|c}
& 1等 & 2等 & 3等 & 4等 & 計 \\ \hline
賞金 & 1億円 & 1{,}000万円 & 100万円 & 10万円 & \\
本数 & 1 & 4 & 15 & 980 & 1{,}000 \\
\end{tabular}
\end{center}

計算して分かるように、このくじの期待値は$25$万$3$千円である。なんと、期待値が売り値を上回っているじゃないか。全部買い占めれば---と言いたいところだが、さすがに全国発売であるから、それは無理だろう。このくじは$10$万円に当たる確率がもっとも高く、$98$\%ある。$10$万円が当たるというのは、$15$万円を失うということで、その確率がもっとも高いのだ。う〜ん。どうしたもんだろう。$15$万円が屁でもなければ、酔狂で買ってみるのもよいだろう。少なくとも私にとって$15$万円は``屁以下''ではないので、これは買うわけにいかない。

数学的に有利なことであっても、心理的に、もしくは現実的に有利と思えないことだあってあるのだ。だからって、数学的なことと現実的なことが違っていると主張しているわけではないからね。この話は、たしかに「数学的に買い」だが「現実に買えない」という理屈が成り立つことを示しいるが、前提となるくじの存在がありえないので、理屈が正当とは言いがたいのだ。

\end{document}