% 勉強時間にも閾値

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\begin{document}

\section*{■勉強時間にも閾値■}

「お、夜$9$時だ。よし、3時間``ぶん''の勉強をして寝るとしよう」

就寝は何時になるだろうか? 単純に考えれば$12$時であることは間違いないが、それではこの話は$2$行で終わってしまう。しかし、この話は思ったよりややこしい。それは、勉強する人の勉強習慣が関係してくるからである。

$3$時間の勉強$\dots$と言わず、$3$時間``ぶん''の勉強$\dots$と言ったことに注意してもらいたい。つまり、$3$時間ぶんの勉強というのは、途中の休憩時間を含んでないということを暗に含んでいる。だから、集中力が$3$時間途切れない人なら$12$時に就寝できるだろう。しかし、まあそんなことはないのが普通だ。誰だって途中に休憩を入れるからだ。たとえば$50$分集中して$10$分休憩するペースなら
\begin{quote}
\begin{tikzpicture}[x=3cm, y=1cm]
\draw (9, 0) -- (12+30/60, 0);
\foreach \x in {9, 10, 11} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$50^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny \x:00};
\foreach \x in {9+50/60, 10+50/60, 11+50/60} \draw (\x, 0.1) -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny :50};
\draw (12, 0.1) node[above right] {\tiny[$30^{分}$]} -- (12, -0.1) node[below] {\tiny 12:00};
\draw (12+30/60, 0.1) -- (12+30/60, -0.1) node[below] {\tiny :30};
\end{tikzpicture}
\end{quote}
という具合になるので、就寝時間は$12:30$である。

しかし、集中力はその半分の$25$分しか持たないし、休憩も$5$割増しの$15$分必要だとなれば
\begin{quote}
\begin{tikzpicture}[x=3cm, y=1cm]
\draw (9, 0) -- (13+25/60, 0);
\foreach \x in {9, 11} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$25^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny \x:00};
\draw (13, 0.1) node[above right] {\tiny[$25^{分}$]} -- (13, -0.1) node[below] {\tiny1:00};
\draw (10+5/60, 0.1) -- (10+5/60, -0.1) node[below] {\tiny10:05};
\draw (12+5/60, 0.1) -- (12+5/60, -0.1) node[below] {\tiny12:05};
\foreach \x in { 9+25/60, 11+25/60, 13+25/60} \draw (\x, 0.1) -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:25};
\foreach \x in { 9+40/60, 11+40/60} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$25^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:40};
\foreach \x in {10+20/60, 12+20/60} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$25^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:20};
\foreach \x in {10+45/60, 12+45/60} \draw (\x, 0.1) -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:45};
\end{tikzpicture}
\end{quote}
という具合で、就寝時間は$1:25$となることだろう。これだと勉強時間は$2$時間$55$分にしかならないが、あと$5$分のために$15$分は休憩するまい。もし、どうしてもあと$5$分足して$3$時間ぶんの勉強にしたければ、おそらく最後の$25$分を$30$分に延ばして就寝時間が$1:30$になると思われる。結局のところ、集中時間が短かったために睡眠時間が$1$時間ほど削られてしまうわけだ。

ここで注意してほしいことがある。私は睡眠時間のことを指摘したいのではないということだ。指摘したいのは、集中時間が短ければ、$1$時間余分に勉強しても効果があるわけではないということだ。費やした時間を額面通り受け取ってはいけない。$4$時間半の時間をかけても、$3$時間はかどっただけなのだから。

しかし、普通そんな風に勉強はしないだろう、と感じるかもしれない。大抵は休憩時間のことは考えないで、「さあ、いまから3時間やるか」となるはずだからだ。もし、このような時間の使い方をしたら、前者は$2$時間$30$分ぶんの勉強をして最後に$10$分くつろいで就寝となるだろう。そして、後者は$2$時間ぶんの勉強をしてすぐに就寝となる。同じ時間を使ってはいるが、前者が$30$分余分にはかどっていることになる。

まあ、この程度の話なら何も数値を持ち出すまでもなく、集中が長く持続するほど有利であることは明白だ。しかし、集中力というものは体力と同じで、自分の意志でコントロールできないものである。いくら、あと$30$分集中しようと考えても無理なものは無理なのだ。あと$30$分走ろうと思っても、体力の限界まで走っていたら無理なようにね。

もっと極端な例を出しておこう。$10$分集中したら$5$分の休憩が必要な場合はどうだろう。これで$3$時間机に向かったとすると、実質的な勉強時間は$2$時間になる。これは先の後者と同じ時間である。集中力が持続しないなら、こんな風に細切れにするのも手かもしれない。と思ったら大間違いである。
\begin{quote}
\begin{tikzpicture}[x=3cm, y=1cm]
\draw (9, 0) -- (12, 0);
\foreach \x in {9, 10, 11} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$10^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny \x:00};
\foreach \x in {9+15/60, 10+15/60, 11+15/60} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$10^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:15};
\foreach \x in {9+30/60, 10+30/60, 11+30/60} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$10^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:30};
\foreach \x in {9+45/60, 10+45/60, 11+45/60} \draw (\x, 0.1) node[above right] {\tiny[$10^{分}$]} -- (\x, -0.1) node[below] {\tiny:45};
\draw (12, 0.1) -- (12, -0.1) node[below] {\tiny12:00};
\foreach \x in {9+10/60, 9+25/60, 9+40/60, 9+55/60, 10+10/60, 10+25/60, 10+40/60, 10+55/60, 11+10/60, 11+25/60, 11+40/60, 11+55/60} \draw (\x, 0) -- (\x, -0.07);
\end{tikzpicture}
\end{quote}

というのは、そもそも物事には、効果を得るために必要な最低ラインとでもいうものがある。閾値(しきいち)と呼ばれるものだ。たとえば、やかんで湯を沸騰させる場合、強火のガスで$10$分かかるとしよう。では、ガスライターの炎---強火の火力の$1/50$としておこう---なら$10$分の$50$倍、すなわち$8$時間$20$分で沸騰させられるかというと、そうはいかないだろう。最低でも弱火のガスが必要であれば、やかんの水を沸騰させるための閾値は弱火のガスということになる。

また、$2$kgのダンベルを使い$3$分間の運動をすれば筋力の増強になるだろうが、$100$gで$3$分間の運動を$20$セットやっても筋力の増強にはつながらないはずだ。最低でも$500$gの重さが必要であれば、筋力の増強につながる運動の閾値は$500$gの負荷ということになる。

さて、人間の脳は勉強によってどう活動するか分からないが、筋力の増強のように最低限の負荷がないと身に付かない性質があると思う。それが、どれほどの量か推し量ることはできないが、少なくとも$15$分や$20$分程度の集中は欠かせないのではないだろうか。

ちょっと空いた時間をちまちま勉強に使って合計$2$時間勉強すれば、時間を有効に使えて満足かもしれない。しかし、それではほとんど効果はないだろう。勉強にはまとまった時間が必要なようだ。

\end{document}