% 5個のカップ(B)

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\begin{document}

\section*{■$5$個のカップ(B)■}

次のようなゲームに$100$円を払って参加するとしよう。このゲームは、当たり札を引けば掛け金の$2$倍のお金が戻ってくるというものだ($100$円賭ければ$200$円が戻り$100$円の儲けになる)。

ゲームはこんな具合だ。中が見えないカップが$5$個伏せてある。そのうち、$2$個のカップには当たり札が、$3$個のカップにはハズレ札が入っている。あなたは、一つのカップを選択し、$100$円を払う。そして、残った$4$個のカップのうち、``自分で選んだ''$2$個のカップを開けて、中の札を確認できるものとする。

このとき、あなたは次の選択ができる。

\begin{quote}
\begin{itemize}
\item $100$円を追加し---つまり掛け金を$200$円とし---選択したカップを開ける
\item ゲームを中止し$100$円を返してもらう
\end{itemize}
\end{quote}

さて、どのような戦略で臨むのが最も有利なんだろう。

たとえば、$2$個のカップを開けて中の札を確認して、そこに当たり札が$2$枚あったら、もう他には当たりはない。もちろん、あなたはゲームを中止するだろう。では、$1$枚の当たり札と$1$枚のハズレ札を確認できたらどうしよう。この場合は、まだ$1$枚の当たり札が隠れているが、ハズレ札だって$2$枚隠れている。当たる公算は低そうだから、やっぱりあなたはゲームを中止するだろう。では、ハズレ札を$2$枚確認できたらどうしよう。この場合は、$2$枚の当たり札と$1$枚のハズレ札が隠れている。これなら当たる公算が高そうだ。思い切って掛け金を倍にして勝負するのがよいだろう。

ということで、戦略は次のようになる。どうだ、これで大金をせしめることができるぞ。

\begin{quote}
\begin{tabular}{lcl}
$\bullet$ $2$枚の当たりを確認 & $\to$ & ゲームを中止 \\
$\bullet$ $1$枚の当たりと$1$枚のハズレを確認 & $\to$ & ゲームを中止 \\
$\bullet$ $2$枚のハズレを確認 & $\to$ & 掛け金を倍にしてカップを開ける \\
\end{tabular}\par
\end{quote}

そう、この場合は本当に成金コースに乗れる。「$5$個のカップ(A)」との違いが分からないって? 違いはただ一点、「``自分で選んだ''$2$個のカップを開けて$\dots$」というところだ。

カップを開けるのが胴元であっても自分であっても、はじめに選んだカップに当たり札が入っている確率は$2/5$であることは変わらないはずだ。なのに、自分で選ぶほうが分が良くなるってどういうこと?

理由は、胴元はカップの中を知って開けることができるのに対し、あなたは偶然に任せてカップを開けることになるからだ。あなたが当たりのカップを選んでいたら、胴元は当たりとハズレのカップを開けることができる。あなたがハズレのカップを選んでいたら、胴元はハズレのカップを$2$個開けることができる。これにあなたの戦略を当てはめたら、あなたは$100$\%損をする。

あなたが偶然に任せて$2$個のカップを開けたとき、そこに$2$枚のハズレを見る確率はどれくらいだろうか。それは
\begin{quote}
\begin{tabular}{rlcl}
i) & 当たりのカップを選んだ後、ハズレのカップを$2$個開ける & $\to$ & $\displaystyle \frac{2}{5}\times\frac{{}_3C_2}{{}_4C_2} = \frac{6}{30}$ \\
ii) & ハズレのカップを選んだ後、ハズレのカップを$2$個開ける & $\to$ & $\displaystyle \frac{3}{5}\times\frac{{}_2C_2}{{}_4C_2} = \frac{3}{30}$ \\
\end{tabular}\par
\end{quote}
である。これ以外のときは賭けを中止するのだから、結局、当たりを選んでいる可能性のほうが高い。要するに、偶然に任せて$2$個のカップを開けると、$30$回のうち$9$回はハズレ札$2$枚を目にし、そのうち$6$回は最初に当たりを選んでいたことになる。ちなみに
\begin{quote}
\begin{tabular}{rlcl}
iii) & 当たりのカップを選んだ後、当たりとハズレのカップを開ける & $\to$ & $\displaystyle \frac{2}{5}\times\frac{{}_1C_1\cdot{}_3C_1}{{}_4C_2} = \frac{6}{30}$ \\
iv) & ハズレのカップを選んだ後、当たりとハズレのカップを開ける & $\to$ & $\displaystyle \frac{3}{5}\times\frac{{}_2C_1\cdot{}_2C_1}{{}_4C_2} = \frac{12}{30}$ \\
v) & ハズレのカップを選んだ後、当たりのカップを$2$個開ける & $\to$ & $\displaystyle \frac{3}{5}\times\frac{{}_2C_2}{{}_4C_2} = \frac{3}{30}$ \\
\end{tabular}\par
\end{quote}
を含めて、すべての場合を出し尽くしたことになる。当然、確率の合計は$1$である。

なんとも確率はややこしい。

\end{document}