% 2枚の封筒
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}
\begin{document}
\section*{■$2$枚の封筒■}
こんな話がある。
「それぞれにお金が入っている$2$枚の封筒がある。片方の封筒には、もう片方の封筒の$2$倍の金額が入っていることが分かっている。あなたは最初に選んだ封筒の中身を見て、改めてどちらの封筒を選ぶか決める。そして、決めた封筒の金額を手に入れることができる。さて、最初に選んだ封筒に$1$万円入っていたとき、封筒を交換する方が得か、交換しない方が得か?」という問いに対して$\dots$。
「封筒はランダムに選ぶのだから、最初に選んだ封筒が金額の小さい封筒である確率は$1/2$、金額の大きい封筒である確率は$1/2$。すると、もう片方の封筒に入っている金額は『$1/2$の確率で$2$万円、$1/2$の確率で$5{,}000$円』となる。したがって、もう片方の封筒に入っている金額の期待値は$1/2\times20000+1/2\times5000 = 12500$だから、もう片方の封筒に交換する方が得!」という考えがあるらしい。
へええ、きょうーみぶかい。でも、おかしいだろう。どこがって? カギ括弧『〜』で囲んだところだ。だって、封筒にはすでにお金が入ってしまっているのだよ。『$1/2$の確率で$2$万円、$1/2$の確率で$5{,}000$円』であるためには、たとえば最初に選んだ封筒の金額に対して後から確率$1/2$で$2$万円を入れるか、確率$1/2$で$5{,}000$円を入れるかする場合だ。
この話の場合は、すでにもう片方の封筒の金額が決定している。だから『$1$の確率で$2$万円』もしくは『$1$の確率で$5{,}000$円』のどちらかしかあり得ないじゃないか。
冷静に考えよう。
この話の試行を一人が$1{,}000$回行うとする。封筒には$a$円と$2a$円が入っている。
i) 最初に選んだ封筒を絶対交換しない場合はどうだろう。理論的におそらく、$500$回は$a$円を手にし、残りの$500$回は$2a$円を手にするはずだ。期待値は$(500\times a+500\times 2a)/1000 = 1.5a$円となる。
ii) 必ずもう片方の封筒に交換する場合はどうだろう。理論的におそらく、$500$回は$a$円を見て封筒を交換し$2a$円を手にし、残りの$500$回は$2a$円を見て封筒を交換し$a$円を手にするはずだ。期待値は$(500\times 2a+500\times a)/1000 = 1.5a$円となる。どっちも同じじゃないか。要するに、期待値は小さい金額の$1.5$倍ということだ。
別の言い方をすると最初に$1$万円を見る場合というのは、A) $5{,}000$円の封筒と$1$万円の封筒があって最初に$1$万円の封筒を取ったとき、B) $1$万円の封筒と$2$万円の封筒があって最初に$1$万円の封筒を取ったとき、のいずれかだ。A)は交換しようがしまいが平均$7{,}500$円が手に入り、B)は平均$15{,}000$円が手に入るということで、両方の状況が出現することは絶対ないのである。ほらね。A), B)共に期待値は小さい金額の$1.5$倍になってる。
そうかな。最初の封筒の金額を$a$円として、もう片方の封筒が最初の封筒の$1/2$倍だか$2$倍だか分からないけど、おそらく確率$1/2$でどちらかなんだから、平均は$(1/2a+2a)\div2 = 1.25a$なんじゃない? と思うかもしれないね。でも、そうじゃない。$1/2$倍と$2$倍の平均は$\sqrt{1/2\times2} = 1$なんだから。
\end{document}