% 「たす・ひく・かける・わる」ができれば十分じゃん??
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\def\S{\item[\textbf{S:}]}
\def\F{\item[\textbf{F:}]}
\begin{document}
\section*{●「たす・ひく・かける・わる」ができれば十分じゃん??●}
\begin{enumerate}
\S あ〜、もう数学捨てた!
\F なんだい、ヤブカラボーに。
\S へ? 何からボー? 食べ物?
\F 何言ってんだ。薮から棒だ。それより、数学捨てたってどういうことだ。
\S だから、捨てたんだよ。もう、あきらめたの。
\F どうして? 半年ほど前には、高校の数学なんてチョロイって言ってたんじゃなかったか?
\S そんなこと言った?
\F ああ、言った。これはよく覚えてるぞ。
\S ちぇっ、つまんないことだけは覚えてるんだ。
\F 何がつまらないことだ。大事なことを覚えてると言いなさい。
\S \ldots。
\F で、どうして数学を捨てる気になったんだ?
\S そりゃあ、\ldots よく分かんなくなったから\ldots ってとこかな。
\F それは単なる勉強不足だ。お前はこの頃たるんでるからな。もう少し勉強に身を入れたらどうなんだ。
\S 勉強不足を言われると仕方ないけど、でも、よく考えたら、いまやってる数学なんて意味ないと思うんだよね。大体、こんなの使わないじゃん。足し算と引き算と掛け算と割り算ができれば困らないしさ。
\F \ldots 情けない\ldots。それは、ただ逃げてるだけだろう。いや、それ以上に、その程度の認識かと思うと本当に情けない。
\S 大げさだなあ。
\F 大げさとはなんだ。お前こそ``小げさ''じゃないのか!
\S 小げさって何? オヤジギャグも極まったね。
\F あ〜、いや。要するに、お前は数学を過小評価しているってことだ。足し算・引き算ができれば困らないだと? 冗談じゃない。足し算・引き算なんてできなくても困らないんだ。
\S はあ? 足し算・引き算もいらないんだったら、なおさら数学なんて必要ないでしょう。
\F いいや、足し算・引き算は不要でも数学は必要だ。
\S 頭がおかしくなってない? 言ってることが変だよ。
\F 変なことがあるもんか。父さんは正しいことを言ってるぞ。先に結論を言ってやろう。父さんが言いたいのは、足し算・引き算・掛け算・割り算は{\bf できなくても困らない}。でも、足し算をするか、引き算をするか、掛け算をするか、割り算をするか{\bf 分からなくては困る}ということだ。それを分かるようにするのが数学だ。
\S そんなの当たり前でしょ。足し算することが分かるから足し算ができるんじゃないの?
\F いいや、違う。やっぱり、何も分かってない。
\S じゃあ、分かりやすく説明してよ。
\F ん〜?
\S ほら、早く。
\F ん〜。よし、これならどうだ。いま、家庭菜園か何かのための小さな区域があるとしよう。ひとつは縦1m、横10mの長方形の区域。もうひとつは縦3m、横4mの長方形の区域としよう。
\S \ldots。
\F いいか、1mと10mの長方形と3mと4mの長方形だぞ。覚えたか。
\S ああ。
\F では、質問だ。これらの区域の縁をロープで囲むとすると、どちらの区域のロープが長くなるか分かるか?
\S そんなの、簡単なことだよ。1m、10mの方さ。
\F 何で?
\S 何でって、1m、10mの周は22mで、3m、4mの周は14mだからだよ。
\F 何で、22mと14mって分かるんだ?
\S いい加減にしてよ。$1+10$の2倍と$3+4$の2倍じゃないか。
\F ほほう。じゃあ、どっちの区域のほうが広い?
\S しつこいなあ。広さなら3m、4mの方だよ。
\F 何で?
\S またあ。1m、10mの面積は10m$^2$で、3m、4mの面積は12m$^2$でしょ。そんなの、誰だって分かることじゃない。
\F じゃあ何で、10m$^2$と12m$^2$って分かるんだ?
\S ちょっと、いい加減キレるよ。$1\times10$と$3\times4$でしょ!
\F ふっふっふ、父さんの勝ちだ。
\S 何だよ、急に。
\F どうして、計算方法が違うんだ? 一方は足し算で他方は掛け算だぞ。
\S 長さを比べるから足して、面積を比べるから掛けるんでしょ。当たり前じゃん。
\F はっはっは〜、そらみろ。同じ数値を使っているのに、一方は足し算で他方は掛け算にしたのは、結局、どういうときに足し算を使うか掛け算を使うか区別できたからじゃないのか? 肝心なのはそこだろう。足し算か掛け算か分からなければ困るんだ。だけど、計算ができなくても困らないぞ。なぜって、いまや電卓やコンピュータで計算できるからだ。仮に、$1+10$とか$1\times10$が計算できなくても、それは電卓が教えてくれる。けれど、それ以前の足すか掛けるかは電卓は教えてくれないからな。どうだ、どっちが大事か理解できたか。
\S だから、何。そのぐらいのことは小学校で習うんだから、高校の数学とは関係ないでしょ。
\F むむ。じゃあ、これならどうだ。5種類のアクセサリーをもっている人が、そのうちのいくつかを身につけて出かけるとき、アクセサリーの選び方が何通りあるか分かるか?
\S それは\ldots\ldots。
\F どうだ、参ったか。
\S \ldots\ldots どうでもいいことじゃん。アクセサリーはその日の気分で選ぶものだし。
\F こら、話をすり替えるな。父さんはまじめに数学の必要性を語っているんだぞ。分からなければ答を教えてやろう。$2^5-1$で31通りだ。言っておくが、この計算には掛け算と引き算しか使ってないが、掛け算と引き算ができるだけではこの答は出ないだろうな。地道に数えたって数え間違いはあるもんだ。こういうときにこそ数学の考えが必要なんだ。
\S \ldots。
\F どこに数学の考えを使うか分かるか? アクセサリーは身につけるかつけないかの二者択一だな。つまり、ひとつのアクセサリーに対して「つける/つけない」の2通りの選択肢があることになる。アクセサリーは5種類あるんだから、全部で$2(通り)\times2(通り)\times2(通り)\times2(通り)\times2(通り)$、すなわち$2^5$通りの組み合わせが考えられるわけだ。ただし、アクセサリーを身につけて出かけるのだから、5種類のアクセサリー全部に「つけない」を選択できないことになる。だから、その場合の1通りは除かなくてはならない。そこで、$2^5-1$と計算するわけだ。$2^5-1$は電卓でできても、この式は電卓は出してくれないだろう。結局この場合は、5という数に対してどんな計算が必要かが分からなくてはいけない、ということだ。掛け算ができるだけではだめなんだ。だから、いますぐ数学を捨てるなんて考えずに、もう少し考える力を養おうと努力してくれないもんかね。あれ? いない。くそ〜、逃げられた。
\F (仕方ない、あとでもう一度話してみるか。それにしても、なんか空しいなあ。)
\end{enumerate}
\end{document}