% 算数と数学って違うの?
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\def\P{\item[\textbf{P:}]}
\def\C{\item[\textbf{C:}]}
\begin{document}
\section*{●算数と数学って違うの?●}
\begin{enumerate}
\C あのさ、ちょっと聞いていい?
\P なにかな?
\C 数学って、算数と違うの?
\P え? まあ、同じようなものじゃないかな。
\C じゃあ、同じものなら、どうして違う名前なの?
\P そりゃあ、違うとこがあるからだよ。
\C それって、違うってことだよね?
\P そうだよ。
\C はあ? いったいどっちなのさっ!
\P おっと、怒らないでよ。
\C \ldots。
\P ああ、来年から中学生だから気にしてるのかな?
\C そうだよ。算数と違うなら、算数はもうなくなっちゃうんだよね。けっこう楽しかったから残念だよ。
\P なるほど。ものの違いって、人それぞれの感覚によるところが大きからなあ。算数と数学は、同じと思えば同じだし、違うと思えば違うものだね。
\C なにそれ? だったら、どこが同じでどこが違うのさ。
\P 同じところは、どっちも結局数学なんだよ。で、違うところは\ldots 算数は現実的で数学は非現実的ってとこかなあ。
\C え? だったら数学って、ウソってことなの?
\P まあ、極端なことを言えばそうかな。
\C 学校でウソを教えるんだ。
\P いやいや。ウソを教えているとは言ってない。非現実的と言ったんだよ。
\C 似たようなものでしょ。
\P ウソと非現実は異なる概念だよ。でも、いいや。まず数学がどんなものか、から話そう。ポケモン好きだよね?
\C え? なに、突然?
\P ガチに数学の話をしたら堅苦しいでしょ。だから数学に近いものでたとえ話をするんだよ。
\C ポケモンのどこが数学に近いのさ。
\P まあまあ、慌てないで聞いてよ。
\C わかった。
\P じゃあ、たとえば空を飛んでるポケモンって、どんなのがいるの?
\C それは、ムクホークとかオドリドリとかルチャブルとか\ldots。
\P ふむ。じゃあ、海や水の中にいるのは?
\C ええと、コイキング、ブロスター、ネオラント、\ldots。
\P OK、OK。そんなもんでいいよ。ところで、これって他の人に聞いても同じように答えるかい?
\C 同じ名前を言うとは限らないよ。
\P でも、たとえば空を飛ぶポケモンを聞かれて、コイキングとは答えないだろ?
\C そりゃ、そうだよ。
\P つまり、ポケモンの世界に浸かっている人たちは、みんな同じ認識なんだよね。
\C 当たり前じゃん。
\P でも、ポケモンは実際にいないでしょ?
\C いるよ。街の中にも森の中にもいるってば。スマホで探せるんだから。
\P たしかに、そうやって目に見えているかも知れないけど、本当の本当はみんな架空のものでしょ。もし、世の中からスマホや雑誌なんかが消えてなくなったら、誰もポケモンを目にすることはできないじゃないか。
\C けど、頭の中にあるから平気だよ。
\P でしょう。要するに『人の頭の中に\textgt{だけ}あるもの』なんだよ。実は数学も『人の頭の中に\textgt{だけ}あるもの』だ。
\C 何言ってんの。計算とか紙に書いたりするじゃない。買い物に言っても、品物には値段が書いてあるし、みんな頭の外にだってあるよ。
\P それはポケモン同様、頭の中にある架空のものを『見える化』してるだけさ。数学は何から何まで、すべて人の頭の中だけのものだよ。
\C なんで? 左手と右手にりんごが$1$個ずつあれば$2$個でしょ。現実にあるよ。ポケモンが架空のものと言っちゃえば、それはたしかにそうなんだろうけど、りんごは人が想像で作ったわけじゃないからね。
\P それが算数ってことなんだよ。
\C どういうこと?
\P まず、そういう計算みたいなことは、何千年も昔に生活の必要性があって考えられたことだね。それが測量や航海などに使われるにつれ、次第に高度な考えになって数学という\textgt{学問}が発達してきたのだろう。
\C じゃあ、算数の発展系が数学ってわけ?
\P そういう認識でいいと思うよ。
\C てことは、中学校で習う数学は算数の続きでいいんだ。
\P 続きには違いないけど、ちょっと違うとこがある。
\C それはなに?
\P それは『数学っぽくなる』とこだね。
\C 数学が数学っぽいのは当たり前じゃない?
\P そうなんだけど、中学校の数学って義務教育の数学だからね。先生も``ガチの数学''を教えるわけじゃあない。どうしても現実的な世界から離れられないと思うね。だから算数的でもある。
\C 意味がわからないんだけど。
\P 算数って、日常的にしている計算とか土地の面積とか、まず現実の問題があって、それに数を当てはめてるようなところがある。でも、現代では数学はそうじゃないんだな。学問として発展してきたけど、$20$世紀になって数学を一から構成し直そうという雰囲気が出てね。いまでは数学は、数の$1$から完璧に人の思考だけで構成されているという認識だ。すべてが人の頭の中にあるという点では、ポケモンと変わらない。
\C それなら数学なんてやらなくてもいいじゃん。
\P そうだね。君がやりたくないならやらなくてもいい。ポケモン同様、その世界に共感する人たちだけがやればいいんだよ。数学だって、すべては人の頭の中に構築されたものさ。だから、その構築物に共感できる人たちが構築物の中でアレ・コレすればいいわけだ。
\C じゃあ、なんで中学校で数学やるのさ。
\P 義務教育だからだよ。
\C それはわかるけど、それなら義務教育の中から数学をなくしてもよくない? で、算数をもっとやるの。
\P それでもいいんだろうけど、義務教育については国が決めることだからね。国、というのは政府ってことだけど、現状の数学は全員が勉強する必要があると考えているんだろうね。もっとも数学といっても、数の$1$から構成し直すわけじゃなくて、算数の続きに数学っぽい``ふりかけ''をかける程度の勉強だよ。$1$から構成し直す数学は大学の数学科でやることさ。だから、中学校の数学はまだまだ現実感が漂っている。
\C じゃあ、中学校の数学も算数みたいに楽しいかな?
\P 人によるかな。その人の味覚に合わないふりかけだったらイヤになるかも。
\C え〜。まずいふりかけだったらイヤだなあ。
\P 大丈夫。中学校のふりかけは全部おいしく食べられるよ。本当の数学の中にはまったく現実離れしているものがたくさんあるけど、中学校の数学には出てこないから。
\C 現実離れした数学だったら意味ないじゃん。
\P 正確にいうと『現時点では現実離れしている』と言うのが正しいかな。もしかしたら$100$年後には実用的になっているかも知れないからね。あ、いやいや、そうでもないか。たとえば\textgt{無限}の概念は永久に現実離れのままか。
\C そうなの? なら、意味ないじゃん。
\P そうだよね。本当に意味ないかも。
\C じゃあ、なんでそんな数学までやる人がいるのさ。
\P そりゃ、好きだからでしょ。それに、楽しいし。
\C そんな現実離れした数学が楽しいのかなあ?
\P なに言ってんの。ポケモン楽しいでしょ? むしろ現実離れしているから楽しいんじゃないの? 常識的で人間みたいな能力のモンスターしかいなければ意味ないでしょう。それだったら現実の方がよっぽど楽しい。
\C そうだけど。
\P 算数は現実に近いから、現実と擦り合わせることができて楽しいものになる。数学は非現実なので、現実ではあり得ないことを理路整然と構築できて楽しいものになる。そういうことだ。中学校の数学はその狭間(はざま)にあるようなもので、上手に渡り歩けないとなに一つ楽しく思えなくなるんだろう。そうならないように、うまく立ち回ることだね。
\end{enumerate}
\end{document}