% 数学って役に立つんですか?

\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's Math Page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}
\def\S{\item[\textbf{S:}]}
\def\T{\item[\textbf{T:}]}

\begin{document}

\section*{●数学って役に立つんですか●}

\begin{enumerate}

\S ちょっと質問していいですか。

\T はい、どうぞ。

\S 素朴な質問なんですが、数学って役に立つんですか。

\T 何だ、そんなことは世の中を見ればわかるだろうに。

\S じゃあ、世の中を見ての感想なんですけど、計算さえできれば困らないと思うんですよ。僕の親だって数学なんか使わないでもちゃんと生活してますからね。だから数学なんて役に立っていないと思うわけです。

\T なるほどね。{\bf 君の言うとおり}役に立たないな。

\S えっ、まさかそう答えられるとは思ってもみなかった。だったら数学なんてやってもしょうがないじゃないですか。

\T そんなことはない。やる意味はあるぞ。

\S だって、今役に立たないって言ったばかりじゃないですか。

\T 役に立たないとは言ったが、やる意味がないとは言ってないぞ。

\S どこが違うんですか。

\T いいかい、確か君はサッカーをやっていたな。将来はプロのサッカー選手にでもなるのかい。

\S 別にそんなことは考えてませんよ。

\T ほらみろ、だったらサッカーやってても役に立たないじゃないか。

\S そんなことはありませんよ。そりゃあ、サッカー選手になれないかもしれないけど、サッカーやってれば体力がついたりとかするでしょ。ちゃんと役に立つじゃないですか。

\T それはサッカー自体が役に立ってるわけじゃないよね。サッカー選手にでもならない限り、仕事中にサッカーボールを蹴ったりしないでしょ。その意味じゃ役に立ってないじゃないか。

\S \ldots。

\T だいたい学生のときにやっていたことが直接に仕事に結びつく人なんてそうそういるもんじゃないよ。サッカーやってても全員がサッカー選手になるわけじゃない。でもサッカーをやったおかげで体力がついたり人脈が広がったりと、その人にとって得がたい経験になるもんだ。君もいずれサッカーをやっててよかったと思う日が来るよ。

\S でも数学やってよかったと思う日が来るとは考えられないんだなあ。

\T 数学も同じことだと思うけどね。確かに数学をやったからって全員が数学者になるわけじゃないし、微分だ積分だなどというものを使うこともないだろう。でも数学をやる大切な理由はちゃんとある。それは論理的な考えができるようになるってことだ。

\S 論理的って?

\T 筋道を立てて考えることができるということさ。行き当たりばったりじゃなくて順序だてて行動できるといってもいいかもね。

\S それって何か理屈っぽい人になるような気がするんですけど。

\T まあ、そうとれないこともないな。だけど理屈っぽい人に限って順序だてて考えてないんもんだ。順序だてて考えて話す人の話は理屈っぽく聞こえないもんだよ。

\S 何かだまされてるみたいだなあ。

\T だまされとけばいいじゃないの。自分が将来難しい数学を使わないと思っても、数学の問題を真剣に考えてごらん。筋道を立てて考えることがどれだけ大切なことかわかると思うよ。

\S でも、役に立たないんでしょ。

\T そうだよ。全員が数学を{\bf 直接役立たせて}いるわけじゃないという意味ではね。でも、今言ったとおり数学をやっておくことで知らないうちに考える力が身につくものだよ。小さい子供が飛び跳ねているうちに自然と体力がついていくようにね。

\S うーん、何となく納得。

\T 実は身の回りで見かけなくても直接数学を使って仕事をしている人はたくさんいるもんだ。数学の先生は、数学を使って仕事をするというより、数学というものを教えているわけだから少し特殊なんだけど、ものの設計や企業の経営など色々なところで数学はなくてはならないものなんだよ。それに過去の数学者の偉大な研究がなければ、今の世の中はなかっただろうしね。

\S だったら、一部の人だけ数学ができればいいわけですよね。実際、それで世の中が回っているんだし。やっぱり、僕が数学を勉強しても役に立つわけじゃないと思います。

\T 君に限らず、中学・高校の数学を習ったぐらいでは仕事の役に立たないよ。サッカーにしても中学・高校のレベルじゃプロになれないのと同じ。プロフェッショナル、つまり職業として通用しないんだから役に立たないってことだ。もし中学・高校のレベルで稼げるなら、みんな在学中に仕事してるさ。役に立つ、つまり稼げるようになるにはそのレベルを通過しないといけないという話じゃないかな。

\S よくわかりました。でも、正直なところ僕は数学はあんまりやりたくないんだなあ。だって数学ってだんだん難しいことをやるようになるでしょう。

\T 困ったもんだ。

\S でしょう。

\T 今困ったといったのは別の意味でだよ。数学をやりたくないという気持ちは正直でいいとしても、数学=難しいという考えが困ったもんだと言いたいんだ。

\S え? じゃあ簡単なんですか。

\T いや、そういうわけでもない。

\S 一体何なんですか。怒りますよ。

\T まあまあ。だいたいなんで人間が数学なんて扱うようになったと思う?

\S えーと、必要だったからでしょ。

\T もちろんそうさ。たとえば紀元前には土地の測量をする必要性から幾何学が生まれたりしている。なんで幾何学を持ち出さなきゃならなかったかっていうと、数学の力を借りるほうが簡単だからだよ。数学を使うことで簡単に丈夫な建物ができたり、安全に航海ができたりするんだ。ようするに難しいことを簡単にするのが数学の役目なのさ。

\S それは信じられないですね。数学のどこが簡単なんですか。みんなこんなに苦しんでいるというのに。

\T 数学が簡単なものとは言ってないぞ。難しいことを簡単にしようとして数学を持ち出しても、とことん簡単になっているわけじゃない。でも数学のおかげで複雑な世界を簡単にみることができるようになるんだ。

\S また、だまされてるような気が\ldots。

\T しょうがないなあ。しかし、その気持ちもわからないわけじゃないな。たとえば中学校や高校で学んでいる数学というのは、何百年も前には世界の最高峰の数学者だけにしか理解できない代物だったんだからね。ところがそれを何とか多くの人に理解してもらおうと、様々な人の研究と努力の結果、多くの人が使えるようになったんだよ。そして色々な公式を使って楽ができるようにもなったし。

\S その公式を覚えるのが大変なんですよ。全然楽になってるとは思えないですね。

\T それは本末転倒というものさ。現代では数学が受験の道具みたいになっているから、公式を早く覚えて上手に使うことばかりやらされるけど、さっきも言ったように考えることが数学の本道だと思うよ。もっとゆとりを持って考える習慣が身につくといいんだけどな。

\S ということは受験がいけないってわけですね。

\T とんでもない。受験は悪くない。大学や会社が受験を実施して、彼らががふさわしいと思う人物を受け入れるのは当然だ。何人でも好きなだけ受け入れるわけにはいかないからね。いけないのは受験が過熱しすぎていることだよ。だけど、人間の性質上過熱しない程度に競争しなさいというのも無理な相談なんだろう。

\S なんだか話が余計なほうへ行きましたね。

\T そうだな。とにかく数学を毛嫌いしないでほしいものだ。きっと目に見えないところで数学のエキスが身にしみていくと思うから。それが将来の役に立つっていうものだよ。

\end{enumerate}

\end{document}