% 数学を楽しむには何が必要?

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\begin{document}

\section*{●数学を楽しむには何が必要?●}

\begin{enumerate}

\K 数好木(すずき)先生、こんにちは。

\S あら、数嫌(かずや)君じゃないの。久しぶりね。高校生活はどう?

\K 別にどうってことないよ。

\S どうして? 去年の今頃は「受かって良かった」って言ってたのに。

\K ああ。

\S 何かあったの?

\K え? うーん、実は留年しそうなんだ。今も、いろんな友達に「やめちゃうかもしれない」って報告してたんだ。そのついでに来たんだけどね。

\S 困った子ね。真面目に勉強しないからよ。

\K だって、俺、勉強したくて高校に行ったんじゃないもん。皆が行くし、親も行けって言うからさあ。

\S でも、せっかく入ったんだから、一生懸命勉強すればいいんじゃない?

\K 嫌いだもん。授業はつまんないしさ。それに、数学とか英語とかやっても意味ないじゃん。数学なんて何やってるのか全然わかんないし、俺、計算ができるから困らないよ。

\S 計算することが数学じゃないんだけどなあ。本当は楽しい教科なんだよ。

\K どこが? でもいいや。留年したらどうせやめちゃうから。

\S どうしてそんな簡単に考えるの。どうしてもっと努力しようとしないのさ。

\K ちぇっ、大人はみんな同じこと言うね。うちの親も高校は卒業しろってうるさいし。

\M 待て待て、同じことを言わない大人もいるぞ。

\S あれ? 益町 楠也(ますまち くすや)先生、いつの間に?

\M さっきから目の前にいたんだけどなあ\ldots。僕って存在感、薄いな。

\S あら、数嫌君、どうしたの? あ、そうか。益町先生は今年度からこの学校にいらしたから知らないわよね。

\K へええ、ふ〜ん。

\item[\bf S,M:] ??

\S ところで益町先生。同じことを言わないっていうと、数嫌君が学校をやめてもいいってことですか?

\M 別にやめることを勧めるわけじゃないけど、そんなに数学が嫌いならやらなくてもいいと言いたいんだ。

\K やらないと留年しちゃうよ。

\M 仕方ないんじゃない? 何もしないで進級するなんて虫がよすぎるでしょ。それって、仕事しないくせに給料をよこせと言ってるようなもんだ。

\K うわ、きっつー。

\M だけど、そうでしょ。勉強しない自分が悪いんだよ。

\K そりゃあ、勉強しない自分は悪いけどさ、別に数学なんてやらなくたっていいじゃん。

\M そう思ってるなら、やる必要はないよ。高校の数学なんて、自動車免許のようなもので、必要だと思う人が努力すればいいんだから。

\K やらないと卒業できないよ。

\M だったら、やればいい。

\K 何だよ、やらなくていいとかやればいいとか。これだから先生の言うことなんか信用できないんだ。

\S ちょっと。ここで喧嘩なんてしないでね。益町先生もそうだけど、数嫌君も数嫌君よ。大体、君はどうしたいの?

\K う〜ん。別にどうしたいってことはないんだよね。

\S まったく、もう。高校は卒業したくないの?

\K 卒業できればいいけど、できなければいいよ。

\S はあ、本当に困った子ね。

\K でもさあ、勉強なんてやる意味ないと思わない? 皆、仕事に使ってるわけじゃないしさ。そりゃあ、国語とかは必要かなって思うけど、数学は絶対いらない。誰があんなの考えたんだろ。

\M どうして数学が絶対いらないって言えるんだい?

\K 皆、使ってないじゃん。それに楽しくないよ。

\S 本当は面白いんだよ、数学って。

\K また同じことを言う。誰も数学なんて面白いって思ってないよ。

\M まあ、待て待て。数学が面白くないという気持ちはわかる。そして、その原因もね。

\K なに、それ?

\M 数学が面白くないって感じている人は、ほぼ間違いなく基礎力が不足しているからだよ。基礎的なことを身につけなければ、どんなものでも面白くないものさ。

\K 基礎ってなに? 俺は九九だってちゃんとできるし、計算は得意なんだ。基礎的なことはわかってるつもりだよ。だけど数学は面白くないっ!

\M 計算力は基礎のうちだけど、それだけでは十分じゃないんだな。ちょっと、ゴルフの例を出そうか。

\K へ?

\M まあ、いいから聞いてよ。ところで、ゴルフをやったことはある?

\K ない。

\M じゃあ、君が僕とゴルフのコースに出たら、きっと面白くない経験をするだろうね。なぜって、ボールがまともに飛ばないだろうから。

\K そんなの当たり前じゃん。

\M でしょう。ゴルフクラブを振る練習も十分しないでコースに出ても、ボールが意のままに飛ぶわけないよね。実は、君が感じている数学の問題もそこにあるんだ。要するに、基礎力をつけないうちに高校の勉強をしても、面白さを実感できないってこと。

\K だったら、基礎をやれば面白くなるわけ?

\M 絶対に、とは言いきれないけど、ほとんどの場合は面白く感じるはずだよ。ところが、その基礎力を高めることが非常に難しい。なにしろ基礎力を高めるには、こつこつと繰り返す努力が必要だからね。多くの人は数学は難しいと感じているようだけど、本当は数学が難しいのではなくて、数学の基礎力を高めることが難しいんだ。

\K それなら、俺には無理じゃん。

\M さあ、それはどうかな。ゴルフだって、はじめてクラブを振ってもまともにボールに当たらないものだ。それでも繰り返し練習することで、だんだん一定方向に打てるようになる。そして、ある程度狙った方向にボールが飛ばせるようになったとき、ゴルフの基礎が身についたことになるのさ。口で言うと簡単だけど、これがとても時間のかかることなのさ。もしかするとゴルフの基礎って、一生身につかないかもしれないものかもね。ところでゴルフが本当に面白くなるのは、基礎が少しずつ固まってきて、コースマネジメントができるようになる頃だろう。数学を引き合いに出せば、高校までの数学は一応の基礎かもしれないな。さらに、その基礎の基礎が中学校の数学や小学校の算数なんだ。いずれにしろ、地道な努力なくして基礎は作れないよ。

\K 俺はそこまでして数学なんてやりたくないってば。

\M だから、やりたくなければやらなくていいって言ったんだ。ゴルフだってやりたい人だけがやってるんだから。

\K そうかな。俺のオヤジもゴルフをやるけど、仕事上、仕方なくやるんだって言ってるよ。

\M そういう人もいるだろう。そういう人を君たちに当てはめれば、数学はやりたくないけど、高校は卒業したいからやるんだっていうことに相当するね。君のお父さんだって、いまの仕事を代わっていいならゴルフもやめちゃうんじゃない?

\K 要するに、高校を卒業したければ数学をやれってこと?

\M そう。それを資格って言うんだ。資格にはそれなりの価値があるけど、必ずしも必要なものじゃない。自分にとって、いま何が必要かよく考えることだね。

\K やっぱり高校は卒業したいよ。

\M だったら数学も必要だね。しかし、いまのままじゃ何も面白いことはないぞ。基礎力を高めるために地道に勉強しなくてはだめだ。そのために必要なことは「待機する我慢」ってことかな。本当にできる?

\K う〜ん\ldots。

\M あのね、数学に限ったことではないけれど、勉強もスポーツも一瞬にしてできるものなんてないんだ。数学は特にそうだし、もともと人間の脳や体はゆっくりと増強されるようにできているからね。小学生の女の子が、今すぐに胸をふくらましたくても、5年先、10年先でなければそうならないようにね。

\S ちょっと、益町先生っ! 変なたとえをしないでください。

\M まあまあ、そう怒らないでよ。僕が言いたいのは、基礎が身につくまでに時間がかかるから、それまでの待機が必要だってことだ。決して、嫌で嫌で仕方ないことを我慢してやれと言ってるんじゃない。将来、数学を使う職業に就くなら少々の無理はやむを得ないけれど、そうでなければ毎日少しずつ数学に親しんでいればいい。力は急につかないけど、我慢して待機してれば数学がわかるようになってくるさ。すると楽しさがわかるはずだ。さっきの女の子の例は、そういう意味。

\S 何だか、うまくごまかしてません?

\M そんなことないってば。ところで数嫌くん、勉強は嫌で嫌でしょうがないのかい?

\S あ、矛先(ほこさき)を変えたな。

\K う〜ん、勉強は嫌いだけど、そこまで嫌いってわけじゃないんだよね。言われてみれば、いままで我慢してなかったかなあ。う〜ん、もうちょっとやってみるよ。

\S よかった。ここに来た甲斐があったわね。友達には、もう一度報告し直さなきゃだめね。

\K 俺もここに来た甲斐があったよ。先週、数好木先生が男の人と手をつないで歩いてるの見て、誰だろうってずっと考えてたんだ。益町先生だったとはね。もう一度、皆に報告しなくちゃ。

\end{enumerate}

\end{document}