% 数学なんて仕事で使わないのに

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\begin{document}

\section*{●数数学なんて仕事で使わないのに●}

\begin{enumerate}

\T はい、今回のテスト(結果)。君は相変わらず勉強不足ですねえ。

\S うわ、またひどい点数だ。はあ、ますますやる気が失せるな。

\T ひどい点数だと思うのなら、もう少し腰を据えて勉強したらどうですか?

\S ですよねー。

\T まあ、数学が嫌いなのは分かりますが\ldots。

\S いや、嫌いというか、むしろ意味ないと思うので。僕は就職しても数学を使わないのは確実ですよ。

\T そうであっても、このままじゃ数学の単位を落としちゃいますよ。せめて卒業できる程度に勉強してもらわないと。

\S ですよねー。でも、仕事に使わないんだし、そう考えるとやる気出ないですよ。

\T 何を言ってるんですか。君は仕事に使うあてがない体育の授業は嬉々としてやっているじゃないですか。

\S 体育は使いますよ。体力がつきますから。

\T 困りましたねえ。まったく自分の都合のよいように解釈して。体育の授業は体力をつけるためにやるのではありません。

\S 何言ってんですか。じゃあ、なんのためにやってるんですか?

\T 運動や競技に親しむためです。

\S だったら、同時に体力もつきますよね。

\T そんなことはありません。週に数時間の授業だけでは体力の維持・向上は望めませんよ。毎日、朝から夜まで活動している方がよっぽど体力の維持・向上に役立ちます。

\S はあ、そういう理屈ですか。先生こそ自分に都合よく解釈してませんか?

\T ですかねー。では、国語や音楽はなんのために勉強するのですか?

\S 国語は話したり書いたりすることができるようになるためです。音楽は\ldots ええっと、音楽はカラオケで急にマイクを向けられても歌えるようにするためです。

\T はははっ。カラオケとは面白いですねえ。

\S でも、社会生活で使う機会があるじゃないですか。化学だって洗剤なんか使うときの知識になるし、歴史だって仕事上、過去に学ぶことは多いとか言うでしょ。だけど、数学だけは絶対使いません。

\T なるほど。それはある面では正しいかもしれません。でも、それは仕事として使うレベルの話ではありませんね。

\S いやいや、十分仕事で使えてるじゃないですか。数学以外は。

\T それを仕事に使えると言うのなら、中学・高校で習うことは全員が仕事で使えることになります。しかし、全員が使えることなら報酬を受け取る仕事にはなりませんよね。数学に至っては君が言うように、全員が仕事に使えないということでしょうか。

\S じゃあ、数学がいちばん不要ですね。

\T いいえ、逆です。数学がいちばん必要、と言うよりいちばん仕事になる可能性が高いということですね。

\S どういうことですか? みんなが勉強してないから、勉強している人に有利ってことですか?

\T そうではありません。たとえば国語や音楽と言って思い浮かぶ職業はなんでしょう。

\S 国語なら小説家とか記事を書く人とか、音楽なら歌手とか演奏者とか、みたいなことですか?

\T ええ。でも、国語や音楽は小説家や歌手になるための勉強をするわけではないですね。あくまでも、文章や音楽に親しむことが大事なのです。

\S さっきから親しむとか言ってますが、親しむだけでは身につかないじゃないですか。学校の勉強は何かを身につけるためにしているのでしょう?

\T そうですね。小学校までなら身につける面が強いでしょうが、中学校では親しむことが重要です。親しむ程度にできる、でよいのですよ。で、さらに深く身につけるために上級の学校へ進むのです。

\S それなら、別に数学がいちばん必要とか関係ないじゃないですか。

\T 話の核心はここからです。さっき、小説家や歌手という職業を例に出しましたが、そもそもそういった人たち、さらには芸術家やスポーツ選手などは、小学校就学以前から書物や音楽や絵画やスポーツに取り組んでいるものです。かりに就学以後に取り組み始めたとしても、学校以外のところで学んでいます。学校で身につけたものではありません。

\S まあ、そうでしょうね。近所でもピアノ教室やサッカークラブに通っている幼い子を見かけますからね。

\T つまり、そういう分野の何かを仕事にする場合は就学後では遅いのですよ。ところが数学は違います。小学校就学前から数学を習っている子どもは滅多にいないでしょう。

\S たしかに、身近にはいませんね。

\T だから、数学は中学から始めても仕事につながるのです。音楽やスポーツのように、小学校から始めても完璧に周回遅れになってることはありません。

\S でも、僕は数学を仕事につなげるつもりはありませんよ。

\T 別にかまいませんよ。君自身のことですから。だけど、数学をもっと真剣にやっていたら仕事の選択肢が広がっていたのは間違いありません。

\S そうですか? どうせ興味ないし。

\T そうやって自分を納得させてますね。とは言え、今までに数学に親しめなかったのは仕方ありません。人には相性や好き嫌いはつきものです。それは君のせいではないですから。

\S でも、数学に親しむことができたら人生変わってたかもしれないってことですよね。

\T いえいえ、そういうわけでもないです。学校の勉強はあくまでも親しむことが重要。人生が変わるほどになるためには、学校の授業以外に十分な勉強が必要ですから。

\S ということは、塾なんかでもっと数学を勉強しろってことですよね。それだったら、親しめなくてもよかったです。

\T ま、今更しっかり数学を勉強しようと言っても仕方ないので、君にはもう一度、卒業できる程度には勉強してくれと言いたいですね。本当は中学校に入学する人たちに、現実的に将来を考えるなら、中途半端に音楽で成功したいみたいなことより数学をしっかり勉強するように言いたいのですが。

\S 非常識な考えですね。

\T とてつもなく常識的で合理的だと思いますが。

\S だって、バンドやってる大人はたくさん見るけど、数学やってる大人は見たことないんですけど。

\T それは見えてないだけです。さっきも言ったように、数学以外のことは、中学生から始めても就学前から取り組んでる人たちと肩を並べるには相当な努力が要ります。むしろ、努力が報われない可能性の方が高い。その点、数学はスタートラインはほぼ同じなので努力次第で相当な実力がつきます。

\S そうは言っても、数学はバンド活動より難しいじゃないですか。

\T そんなことはありませんよ。難しいと思うのは数学に正しく向き合わないことが原因です。きちんと取り組めば理路整然としていて理解しやすいものなのです。正しく向き合った人だけが仕事に活かせているのです。

\S はいはい、分かりました。とくに今の僕では手遅れであることもね。でも、もっと早くから数学をきちんと勉強しとけばよかったとは思いませんね。僕にはまったく不要なものですから。

\T ふうむ。どうしてそうなるのか私にはさっぱりですよ。

\end{enumerate}

\end{document}