% 計算は得意なんだけど応用が...

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\begin{document}

\section*{●計算は得意なんだけど応用が\ldots●}

\begin{enumerate}

\M あら、奥様こんにちは。

\O まあ、こんなところで\ldots。お買い物ですか?

\M いえね、ちょっと知り合いのお宅へ伺っていたんですよ。あなたこそお買い物ですか?

\O いえいえ、私もこれから知り合いのところへ行く途中だったの。

\M そう、お互い何やら忙しいみたいねえ。

\O そうなんですよ。こんな場所で言うことじゃないかもしれないけど、実はうちの娘が「このごろ数学が難しくなってわからない」なんて言いだしたもんだから、知り合いに家庭教師でも頼もうかと思って、こうやって手みやげ片手に出向こうとしてたんですよ。

\M あっら〜。それじゃ私と同じじゃないの。たったいま私も家庭教師のお願いに行って来たばかりなのよ。それも数学の。

\O ええ? お宅のお子さんは数学は良くできるじゃないの。何で家庭教師がいるの。

\M それがねえ。うちの子は「計算は得意なんだけど応用が苦手なんだ」と言ってるの。何とか応用問題にも強くなりたいって言うから、いまお願いに上がったところなのよ。

\O まあ、そうなんですか。それにしても数学には悩まされますね。私は子供の頃から数学が苦手だったので、うちの娘も遺伝だと思ってあきらめてるんですけどね。

\M 私も数学は苦手だったのよ。でも、うちは主人が理工系の人でしょ。子供が数学ができないなんてことになったら、もう大変。主人はなかなか子供の勉強をみてあげられないし、私だって数学の応用問題はお手上げなのよ。本当に数学の出来って遺伝するんでしょうね。

\T ちょいと失礼!

\M あら、先生。

\O ま、こんなところで。どうされたんですか。

\T いやあ。犬の散歩に来ていたら、どこかで聞き覚えのある声がしたのでね。

\O 声でわかったんですか?

\T そりゃあ、あれだけ大きな声で話してればわかりますよ。

\M まあ、はずかしい。じゃ、近所中に聞こえちゃったのね。

\T そんなことはないと思いますけどね。でもさっきから数学の話題に花が咲いていたようなので、ちょいと口をはさみたくなったんです。何でも数学が遺伝するとかしないとか。

\O そう。はっきり言って数学なんて遺伝ですよね。あんなのができる人なんてまともじゃないわ! きっと普通じゃない遺伝子をもっているのよ。

\T \ldots。

\M ちょっと、先生は数学を教えているのよ。

\O あ、そうだった。ごめんなさい。つい日頃の恨みがでちゃいました。

\T 別にかまいませんよ。大抵の人は数学が苦手だからそう考えたくなるんでしょうが、数学の能力は遺伝でも何でもありません。簡単なことです。考える習慣があったかどうかなんですから。

\M じゃあ、数学の苦手な人は何も考えてない人なんですか?

\O それなら私も何も考えてない人ということになっちゃうわね。

\T いやいや、そういう極端なことを言ったわけではありません。数学には「練習でどうにか{\bf なる}部分」と「訓練でどうにか{\bf する}部分」があると言いたいのです。

\O 練習も訓練も同じじゃないですか。

\T まあ、似てますがね。僕が言いたいのは「練習でどうにかなる部分」はたとえば「計算練習」を指します。「訓練でどうにかする部分」はたとえば「応用力」というものです。

\M それで?

\T 皆さんは「九九」は知ってますよね。

\O もちろんよ。小学校で覚えさせられたのを思い出すわ。

\T そうですね。大抵「九九」は練習して覚えるものです。「九九」や計算というのは理屈はどうでもいいけど、使えなくては話にならない代物ですよね。だからたくさん練習をして、反射的に答えがだせるような回路を体に植え付けるんですよ。

\M 回路を作るんですか。

\O 機械みたいね。

\T そう、機械みたいなものです。それにこういう{\bf 暗記もの}はだれがやっても同じ道筋をたどります。要するに繰り返し暗唱するのが道筋ですから。それに対して「訓練でどうにかする部分」は暗唱では絶対身につかないものなんです。

\O へえ。

\T 訓練と言っても今話した練習とは違いますよ。考える訓練のことですから。練習は強いて言うなら「考えない訓練」とでも言えばいいでしょう。別に学習に限ったことじゃなくて、スポーツでもある域から先はただ訓練を繰り返しても伸びませんよ。

\O な〜るほど〜。うちの父ちゃんはよくゴルフの練習をするくせにちっともハンデが減らないってぼやいていたけど、何も考えちゃいなかったんだな。

\T \ldots それはあるでしょうね。で、話しを戻しますけど、数学を練習の延長で勉強してもだめなんです。問題を解く練習をいくらたくさんやっても、解く速度は増すかもしれませんが、経験のない問題はお手上げになるんですよ。

\M するとうちの子は無駄な勉強をしてきたわけですね。

\T 必ずしも無駄ということはないですけどね。でも、数学の学習では答えや結果だけ合えばいいというものじゃありません。答えに行き着くまでに自分なりの考えがどれだけできたかが重要だと思います。それをしないで、わからないからといって、すぐ模範解答を見ても身につくことは少ないですから。

\O じゃあ、考えて解いていればどんな問題でも解けるようになるんですか?

\T さすがに何の知識もない分野の問題は解けませんよ。中学校までの数学しか知らない人には、大学入試の問題は大抵解けませんから。

\O だったら考えても時間ばかり食って無駄のような気がするわね。やっぱり数学はやり方を教えてもらわなくちゃだめじゃない。

\T そうじゃないんですっ! 数学の応用問題ってのは、基本的なことを理解していれば考えて解けるものなんですよ。何でもかんでもやり方を知らなきゃならないとしたら、覚えることが膨大になってしまうじゃないですか。

\O だから数学は覚えることが多すぎてわからないのよ。

\T その覚えることを減らすのが考えることだって言いたいんです。考えることは意識して訓練しないかぎり習慣になりませんよ。思考というのは人にやってもらうものではなく、自分自身ですることですから。そして、それを繰り返すことで応用力が身につくんですよ。

\M ふ〜ん。すると応用力をつければ覚えることを減らせるってわけね。

\T そのとおり。

\M だったらさっきの家庭教師の話はキャンセルしちゃおうかしら。先生のお話しのとおり思考は自分でするものなら、わざわざ家庭教師にお願いすることもないわね。そうよね、そうよね。そうすればお金だって浮くじゃない。あ〜、前から欲しいと思っていた服があるのよねえ。さっそく家庭教師はお断りしてこなくちゃ。あの服をだれかに買われたら大変だわ。それじゃ皆さん、これで失礼しま〜す。

\T \ldots。

\O \ldots 私も \ldots 失礼します。

\T \ldots。

\end{enumerate}

\end{document}