% ホントに数学ができるようになりたいの?
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's Math Page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}
\def\A{\item[\textbf{A:}]}
\def\B{\item[\textbf{B:}]}
\def\T{\item[\textbf{T:}]}
\begin{document}
\section*{●ホントに数学ができるようになりたいの?●}
\begin{enumerate}
\A \ldots。そんでさ、全然ウケてないの。
\B ウケる〜。
\T あれれ。にぎやかですね〜。道の真ん中で。
\B え?
\A あ、先生!
\B ホントだ。卒業してからはじめて会った。
\T もう、3, 4年は経ちますかねえ。
\A いや、5年でしょ。オレら、もう高校も卒業しちゃったし。
\T あれ、もうそんなに経ちましたか。じゃあ、いい歳なんだから、こんな場所で騒ぐのはどうもいけませんねえ。
\B え〜。でもAがチョー面白い話を持ってきたから〜。
\T ほう。
\A 先生も覚えてるでしょ。Pのやつ。
\T P? ああ、よくトボケたことを言って失笑を買ってましたね。
\B そう。で、そのPがウチらの知らない人と組んでお笑いライブに出てたらしいの。で、それが全然ウケてなくて『ウケる〜って話』をしてたんですよ。
\T なるほど、そういうことでしたか。でもPだって真剣に上を目指そうとして頑張っているのだから、そういう風に言うのはよくないですねえ。
\A でも、クソつまんなかったんだよ。オレ、実際に見てたし。
\T たとえそうであっても、最初のうちはみんなそんなものです。いつか大ブレイクするかもしれないじゃないですか。
\A いやいや。あれは無理でしょ。
\T そう決め付けるものではないですよ。
\B それより先生は仕事帰りですか?
\T まあ、そんなとこです。いまは退職して塾講師ですがね。
\A へえ、まだ働くんだ。
\T 仕方ないですよ。稼がないといけないのでね。
\B てことは、本当はやりたくないんですか?
\T まあね。
\B なんで? 学校の仕事と変わらないんでしょ? だったらいいじゃないですか。ウチのじいちゃん、再雇用で仕事してるけど、今までと全然違う仕事で扱いも新人並みだとか言って嘆いてますよ。
\A 先生、ホントは数学嫌いなんじゃない?
\T そんなことはありません。私は数学が好きですが、数学が好きでもない人に教えるのは\ldots ちょっとね。
\A じゃあ、オレらにもイヤイヤ教えてたんだ。
\T いやいや、それは違います。学校は楽しかったですよ。でもねえ\ldots。
\B ??? なんで? だって、塾って数学ができるようになりたいから、みんな行くんでしょ? 学校は義務でやってることだから、そっちの方がみんなやる気ないんじゃないですか?
\T そういうわけではないですねえ。では聞きますが、二人とも数学ができるようになりたかったですか?
\B そりゃ、できたらいいなあとは思ってたけど。
\T 本当にそうですか?
\B そうですよ。でも、勉強はしなかったけど\ldots。
\T ほらね。数学ができるようになりたいってのはウソですよ。本心は『テストでよい点が取りたい』なんですから。
\A 同じことじゃん。テストでいい点取るには数学ができなくちゃならないんだから。
\T テストでよい点を取ることと数学ができることは全然違いますね。
\B いや、同じでしょ。
\T では聞きますが、かりに不正をしても絶対バレないとしたら、それでも数学の勉強をしますか?
\item[\textbf{A,B:}] するでしょ。
\T \ldots。
\B どうしました?
\T あ、いや。不正が絶対バレないってのは現実的じゃないからそう答えるのでしょうけど、みんなが勉強をする最大の目的はテストでよい点を取ることですよ。だって、テストの結果で評価されるんだから。
\A だね。不正は極端な話としても、いい点を取るために勉強するんだから、点にならないとこは勉強しないよ。でも、みんなそうでしょ。
\B そうそう。なだ、そうそう。
\item[\textbf{A,T:}] \ldots。
\B あ、いや。結局、みんな数学は好きじゃないんだから、点が取れる勉強だけするでしょ。
\T そうですね。つまり、みんな『数学ができるようになりたい』とは言うけど、本心は『数学でよい点が取りたい』ということですよ。\textgt{本気で数学ができるようになりたい人だったら、テストに関係なく努力するものですからねえ。}
\B そんな人、あんまりいないと思いますけど。
\T そうですね。だったらみんな『数学ができるようになりたい』なんて言わず、正直に『数学でよい点が取りたい』と言えばよいのですけどねえ。まあ、言葉尻をとらえても仕方ないですけど。
\A じゃあ数学って、進学の評価をするためにあるようなものじゃん。だったら無くてもよくね?
\T それは責任転嫁というものですねえ。『あなた』が無くてもよいと思うのなら、『あなた』が勉強しなければよいのです。数学は世の中に必要なものですから、必要な人は数学を勉強しますよ。
\A だったら高校の数学もやりたい人だけやればいいのに。オレ、ホント苦労したよ。
\T それも同じことですよ。古典やら数学やら全てそろって勉強するのが高校ですからねえ。タイヤやらハンドルやら全てそろって自動車というようなものです。一つでも欠けたらダメなのです。ハンドルだけないような自動車は手に入れられないように、数学だけないような高校卒業資格は手に入れられません。もっとも、ハンドルがない自動運転車があるように、数学不要の高校卒業資格というのができればよいのですけどねえ。現状、そういうのがない以上、『高校は卒業したいけど数学は勉強したくない』という要望は叶わないのです。
\B でも、ウチらはもう高校を卒業しちゃったから、そんな話はどうでもいいですけどね。
\T そうですか。ところで、あなたたちは大学生ですかね?
\item[\textbf{A,B:}] そうです。
\T ほう。勉強は大変でしょう?
\B そうですね。就活にも関わるし。
\T それは気の毒に。中学、高校、大学と同じことを繰り返しているんですかね。
\A 何が?
\T 勉強ですよ。できるようになりたいから勉強するのではなく、やらなくてはならないから勉強しているってことですねえ。
\B それって、普通のことじゃないですか。
\A そうだよ。誰も学問を極めようなんて思ってないよ。必要だからやってるわけで。先生だって、さっき稼がなきゃならないから塾講師をしてるって言ってたじゃない。てことは先生も気の毒だ。
\T ああ、そうですねえ。こりゃあ、まいった。
\B 大体、勉強や仕事ってその裏にある目的のためにやるものですよ。たとえば、進学や生活のためとか。学問自体が好きで勉強する人なんて学者ぐらいでしょうし、仕事自体が楽しくてたまらない人はたぶんそれ、仕事と思ってないですよ。スポーツ選手やスタートアップに関わってる人は、趣味や遊びの延長の感覚でしょうから。ウチらみたいな普通の人は、本当に勉強や仕事ができるようになりたいわけじゃないと思いますよ。その裏のことが上手くいくようにしたいんです。勉強や仕事は単に『手段』ですね。
\T いやあ、目からウロコとはこのことですねえ。生徒の行動に合点がいきました。
\A え? どういうこと?
\T たとえば『先生、それテストに出ますか?』ってよく聞かれますが、『出ない』と答えたらそこは勉強しないんですよね?
\B そりゃあ、しませんよ。だって無駄じゃないですか。
\T ですよね。やっぱり『数学ができるようになりたい』って言葉のあやなんだねえ。塾の生徒も、どうしたらテストの点が上がるかに関心が向いているからなあ。たしかに数学の勉強が手段なら、どうしても効率がよい方がいいに決まっていますよ。効率を重視したら、結局暗記が一番いいってことなんですねえ。
\A なに言ってんですか。勉強って暗記するもんでしょ。
\T 残念ですねえ。結果のみ暗記する勉強では\ldots。自分自身で試行錯誤の体験をして身に付けるのが本当の勉強だというのに。まあ、仕方ないですね。本心が『テストでよい点が取りたい』のだから。大学での勉強も単に就職のための手段では\ldots。
\B そうは言っても、現実はそうなんですからね。
\T いや、これは失礼。現実から目を逸(そ)らしているわけではありませんが、私としては、数学ができるようになりたい人にそれなりの指導をしたいものですねえ。もっとも、本気で数学ができるようになりたいと思っている人は、他人の世話を必要としていないと思いますが。他人の世話が必要なのは、テストでよい点を取りたい人ですね。そういう人たちは、どう勉強すればよい点が取れるとか考えないものですよ。なにを覚えればよいか\textgt{だけ}知りたいのです。君たちもそういう数学の勉強をしてきたのではないですか?
\B はあ。まあ、そんなものだったかも。
\A でも、もう終わったことだし。それに結局、今のところ数学が必要だったことはなかったし。問題ないっしょ。
\T う〜む。それならそれで構いませんがね。数学に限らず、目の前の結果や点数をよくすることだけに熱心にならないよう気をつけましょう。
\A はい? 結果を求めちゃダメなの?
\T もちろん結果は求めるものですよ。でもねえ、物事をきちんと理解して取り組むことが大事なのですよ。時間はかかるし回り道に見えるでしょうけど、それがきちんとできれば結果は自然とついてくるんですよ。
\B はあ。そんなものですか。
\T そんなものですね。さっきPの話をしてましたよね。
\A ああ、でもあれじゃあ\ldots。
\T あれじゃあ成功しない、ですか? それは分かりませんよ。
\A いやいや。マジで無理。
\T 私は見たわけじゃないのでなんとも言えませんけど、Pが単にウケることだけ目指して、その場しのぎの笑いをとるつもりならそう(無理)でしょうねえ。でも『面白いことをやってやろう』という気持ちで努力しているなら、いつか花が咲くと思いますよ。
\A 無理無理。$1$ミリも面白いことなかったもん。
\T 面白さが理解できなかった、という可能性もあるでしょ?
\A ない!
\T \ldots。まあ、それはいずれ分かることですね。お笑いも数学も目の前の``ウケ''や``点数''を得ることに終始せず、しっかりと``面白いネタ''や``考えて解く''ことが板についてくれば、結果として``ウケ''や``点数''につながりますよ。長い目で見ることは大事ですねえ。
\B じゃあ、こんどPのネタを見に行こうかな?
\A やめとけって。時間の無駄だよ。ここでの立ち話以上にね。
\T は? いやいや。
\A いやいやいや\ldots。
\T い〜や\ldots。
\B \ldots。
\end{enumerate}
\end{document}