% どうしたら数学が好きになりますか?
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\begin{document}
\section*{●どうしたら数学が好きになりますか?●}
\begin{enumerate}
\S 先生、どうしても聞きたいことがあります。
\T 何ですか?
\S どうしたら数学が好きになるか、教えてほしいんです。
\T そう聞くからには、数学は嫌いなんですね。
\S はい。だから好きになりたいんです。
\T 別に、嫌いなままでもよくないですか?
\S それじゃ困るんですよ。第一、勉強の意欲がわかないじゃないですか。
\T ふうむ。では、なぜ数学が嫌いなんですか?
\S うーん。なぜって、それは、問題がよく解けないし、面白いと思わないし\ldots。あー、とにかく好きになれないんですよ。
\T それなら、無理して好きにならなくてもよいでしょう。
\S どうして、そんなことを言うんですか。先生にしたって、数学好きが増えれば嬉しいでしょ? お願いですから、数学が好きになる方法を教えてくださいよ。
\T 無理!
\S は? 無理って、どういうことですか?
\T 無理だから、無理って言ったまでです。私は魔法使いじゃありませんから、嫌いなものを好きにすることなんてできません。
\S だって、先生は数学が好きなんでしょ。それなら、どうして数学が好きになったか教えられるはずじゃないですか。
\T それも、無理ですね。だって、好きなものは好きなんだから。理由なんてないですよ。同様に、嫌いなものは嫌いで仕方ないですよ。何で好きになったとか、嫌いだとかの理由は、結局は後付けじゃないですか?
\S どうして、そう言うかなあ\ldots。
\T では、たとえば君は、蜘蛛(くも)やゴキブリなんか好きですか?
\S うわ、気持ちわる! そんなもの好きな人なんて、滅多にいるもんじゃないでしょう。
\T そうでしょうね。じゃあ、何で嫌いなんですか?
\S そりゃあ、あの形とか\ldots、とにかく嫌なものは嫌なんですよ。
\T ほらね。とくに明確な理由以前に、嫌なものだから嫌なんですよね。そこで、質問です。それらを実際に好きになれとは言いませんが、好きになることができると思いますか?
\S 絶対、無理!
\T でしょう。嫌いなものはそう簡単に好きになるもんじゃありません。
\S それじゃあ、絶対に数学は好きになれないってことですか。
\T 絶対に、とは言い切れませんが、そういうことです。だけど、どうして数学が好きになりたいんですか?
\S さっきも言いましたが、勉強の意欲がわかないからです。だから、好きになって勉強の意欲がわくようになって、成績を上げたいんですよ。
\T なんだ、そんなことですか。
\S 僕にとっては重要なことです。
\T ほほお、重要なことですか。重要なことだったら、好き嫌いに関係なく勉強をするべきですね。
\S だから、それじゃあ、いやいや勉強することになるでしょ。それが嫌なんです。
\T はあ、何を甘いこと言ってるんですかねえ。本当に大事なことなら、辛くても我慢しなくては。
\S そんなの、今時、はやらないですよ。
\T \ldots。
\S 黙らないでください。そうだ。誰かが言ってたんですが、簡単な問題を解くことを繰り返せば、達成感が得られるようになって、だんだん数学が好きになるはずだって。
\T ああ、たしかに簡単な問題を解くことを繰り返せば達成感は得られますね。でも、達成感を得ることと数学が好きになることは別物です。
\S いつでも達成感が得られれば、いずれ数学が好きになりませんか?
\T たぶん、ならないでしょう。好きになるという言葉を強いて使うなら、{\bf 問題が解けること}が好きになるだけですよ。
\S 僕にとっては、それでいいんですけど。
\T それでは困るんじゃないですか?
\S どうしてですか?
\T 問題が解けることが好きになるだけでは、解けない問題に出会ったとき嫌気がさすでしょう。それでは、数学が好きになったとは言えません。
\S じゃあ、どうすればいいんですか?
\T うーん、困りましたね。さっき、私は数学が好きだ、と言いましたが、それは問題が解けることが好きなわけではなく、むしろ解けない問題を考えることが好きなんです。そう、考えることが楽しいんですよ。たぶん、君はそうじゃないですよね。
\S 解けないものを考えて、意味あるんですか?
\T 解けなければ意味はないでしょうね。でも、いろいろなことを考えるのはよいものです。
\S ぜんっぜんっ!分からない!
\T まあ、そうでしょう。たとえば、ピアノやゴルフが三度の飯より好きだという人は、上達することよりも、自分の指が音を奏でることやクラブを振ってボールを飛ばすこと自体が好きなはずです。そうでなければ、うまくいかないときでも嫌にならず続けられないでしょうから。
\S じゃあ、数学なら、考えることが好きになればいいんですね。
\T そういうことですが、考えることは嫌いなんですよね。
\S で、嫌いなものは好きになれない\ldots。
\T ようやく分かってきましたね。でも、嫌いな人であっても、仕事をしなくちゃならないから、我慢して一緒に働いているうちに「この人、思ったより悪くないな」と感じたり、好感を持つこともあるでしょう。もし、嫌いな何かを好きになるとしたら、始めは我慢することからじゃないですかね。
\S 結局、我慢して数学をやれということですか。
\T 嫌いなのにやる必要があるなら、我慢しなくてはならないですね。嫌いなことを好きなことに変えて取り組めれば理想的ですが、それは夢みたいな話です。嫌いなことが急に好きなことになるなんて、ちょっと考えられませんから。嫌いなことでも我慢して取り組んでいるうちに好きになる可能性がある、というだけです。
\S ああ、ますます数学をやる気が失せてきた。質問に来るんじゃなかったなあ。
\T そう言われると、なんだか罪悪感が\ldots。あ、そうだ。数学は嫌いでも、好きなことはあるでしょう?
\S ええ、いくつかは。
\T それはよかった。その好きなことのためにも数学を我慢してやるのがよいですね。
\S どういうことですか。
\T 5kgの荷物を持ち歩くだけの場合と、10kgの荷物を持った後で5kgの荷物を持ち歩く場合では、後者の方が軽く感じます。人間とはそのように出来ているんですね。
\S \ldots。
\T 同じく、ただ好きなことを楽しむより、一旦嫌いなことをした後で好きなことに取り組めば、より楽しさが増すはずです。嫌いなまま数学に取り組むのは、そんなに悪いことじゃありません。とくに、数学が必要と感じるなら。
\S それって、マイナス思考じゃないですか?
\T いいえ、プラス思考ですよ。楽しさが増すんだから、プラスしてますね。あ、楽しさがmath\ldots。math math いいねえ。
\S やっぱり、質問に来るんじゃなかった。
\end{enumerate}
\end{document}