% コンピュータがあれば数学はいらない?
\documentclass{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's Math Page}
\renewcommand\baselinestretch{1.33}
\def\V{\item[\textbf{V:}]}
\def\N{\item[\textbf{N:}]}
\begin{document}
\section*{●コンピュータがあれば数学はいらない?●}
\begin{enumerate}
\V さて、これをこうして\ldots と。チョイチョイとやって出来上がりかな。
\N へえ、先輩の手さばきはいつ見ても見事ですねえ。僕も、早くそんな風になりたいですよ。
\V ああ、これ。こんなのは慣れの問題よ。別に、こんな表計算ソフトが使えるからって、自慢にもならないわよ。
\N でも、僕から見ればすごいことなんですけど。どうすると、そんな風に手際よく使えるようになるんですか?
\V だから言ったじゃない。慣れの問題だって。こういうソフトは、誰にでも使えるようにできてるものだから、使っていれば何とかできるようになるものよ。私も使いはじめたときは苦労したけど、何年も使ってたからこうなったんだけれどね。
\N それは先輩が器用だからですよ。僕なんか不器用だから、きっといつまで経ってもそんなに上手く使えるようになりそうもないな。
\V 何もソフトを素早く操作できる必要なんてないのよ。きちんと正確にできることのほうがはるかに重要なんだから。正確に仕事をしてれば、次第に操作だって素早くなっていくのよ。
\N なるほど。そう言われると気が楽になります。僕も、早く先輩みたいにできるように頑張ってみます。
\N あんまり気合いを入れ過ぎないでね。コンピュータソフトは勉強するものじゃなく、慣れるものなんだからね。
\V そんなこと言うのは先輩が頭いいからですよ。僕は先輩ほど頭がいいわけじゃないし。でも、僕みたいに数学が苦手でもちゃんと集計表ができるんだから、表計算ソフトって便利ですよね。まだ、先輩ほど使いこなしてないけど、もっとソフトを勉強して使えるようになりますからね。
\V 君、だまされてるなあ。
\N え? 何ですか急に。
\V コンピュータソフトが使えるようになるには、ソフトの勉強をすればいいわけじゃないのよ。
\N 勉強しなくちゃ使いこなせないじゃないですか? そりゃあ、先輩は頭がいいから勉強しなくても使えるように\ldots
\V ちょっと待って。仮に頭の良し悪しがあったにしても、コンピュータソフトを使うためにコンピュータソフトの勉強をしてもだめ。特に表計算ソフトであれば、ソフトの使い方以前に数学の力が必要ね。
\N 何でですか? コンピュータがあるから、僕みたいに数学ができなくてもデータの分析ができるんですよ。なにしろデータ分析のパッケージはソフトに付いてるんだから、僕はその使い方を覚えるだけで済んだんですよ。ITって言葉もありますけど、これからは車の運手や電子レンジみたいに、コンピュータが使えればいいんでしょ。数学なんて関係ないですよ。
\V ITとは、また20世紀末の古い言葉を出してきたものね。
\N どこが古いんですか?
\V ITってどんな意味か知ってる?
\N Information Technology、情報技術の略でしょ? 違います?
\V だから、だまされてるって言うの。そもそも情報って、コンピュータが使えたり様々なデータを処理することじゃないわよ。
\N じゃ、何ですか?
\V informationはinform、つまり「知らせる、伝える」の名詞にあたる言葉よ。情報という日本語だって「情けに報いる、こたえる」って意味じゃない。つまり、相手に伝えられないものは情報とは言わないの。
\N ふーん。ということは、僕が覚えたコンピュータの操作を人に教えれば情報と言っていいんですか?
\V そうよ。でも、何もコンピュータの操作を教えるだけが情報じゃないわ。野球のプレイでも楽器の演奏でも、自分が身につけたこと自体が隠れた情報になっているの。そして、それを伝えることで本物の情報になるわけよ。だから IT の本当の意味は、最新の機器を使いこなすことではなくて、自分自身の技能を高めることにあるのね。第一、今が最新と思っていることだって、10年後には存在しているかどうかも怪しいじゃない。
\N コンピュータはなくならないと思うけどなあ。
\V たぶんね。でもコンピュータの操作の仕方がまるっきり変わることはあり得るわよ。キーボードがなくなる可能性だってあるでしょ。そうなるとキーボードを使う使い方を覚えても、将来は役に立たなくなるでしょう。でも、きっと数学で使う平均値の求め方は同じでしょうね。そうなったら、機械の使い方ではなく、平均値の仕組みを知っている方がはるかに重要だと思わない。
\N つまり、コンピュータの操作は将来変わる可能性があるけど、それに使われている数学の考え方は変わらないってことですね。
\V そう。現に平均の場合、コンピュータソフトによっては関数名が違うことがあるでしょ。でも数学で言う平均、特に算術平均なら、全部の合計を要素数で割る計算方法は変わらないはずね。
\N ということは、平均の計算方法が分かっていれば、ソフトがどんな関数を使っていても対応できるってことか。ああ、そう言われると思い当たるものがあるぞ。最近うちの会社は表計算ソフトを別のメーカーに変えましたよね。ほとんどの人は使い慣れなくて大変な思いをしてるようだけど、先輩は変わらずにサクサク使えてますね。それって、関係ありますか?
\V 大有り。私はコンピュータがなくても、今画面に出ている結果を作れるわ。それはソフトの使い方ではなくて、計算の仕方とか処理についての数学的仕組みを理解しているからよ。コンピュータは手作業を機械に置き換えたに過ぎないの。でも、君は違うでしょう。きっと、データ分析はコンピュータの力を借りないとできないわよね。
\N うーん。悔しいけどその通りです。
\V 君がだまされてると言ったのは、目に見えることでITを評価していたからよ。ITの本当の意味はInvisible Talent、目に見えない才能のことだと私は思うわ。どんな分野でも構わないけれど、より多くの人の困り事に報いることができるだけの、知識や技能をまず身に付けること。その時点では目に見えない才能でも、ひとたび誰かに伝えることができれば、それが情報となるわけだから。コンピュータをはじめとする機器は道具に過ぎないわよ。表計算ソフトの使い方の勉強も大事だけど、同時に数学の勉強はもっと大事だから、ゆっくり時間をかけて勉強しなさいね。
\N なるほど、よく分かりました。知識や技能を身に付けることが IT の先端を行くことになるんだ。僕はテニスが趣味なんですが、とても人に何か伝えるだけの技能はないような気がします。もう少し練習をして、情報として伝えられるレベルになるようにしてみます。これも情報なんでしょ。
\V その通り。
\N そうだ、ついでに料理のウデでも上げようかな。いつもコンビニやファミレスで食べてばかりだから、これについては IT に乗り遅れているし。
\V いい考えね。それじゃあ、私が評価してあげるから、明日から私の食べる分も作ってきなさい。
\end{enumerate}
\end{document}