% 文章問題が苦手なんですが...

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\begin{document}

\section*{●文章問題が苦手なんですが\ldots●}

\begin{enumerate}

\S あ〜、落ち込むなあ\ldots。

\T 教室でひとり、何をため息ついとるかね。

\S ああ、先生ですか。ため息の原因は、えーと、先生が作ったテストですね。

\T 何? それは先日の数学の試験のことかね。

\S そうですよ。今回、あんなにたくさん文章問題が出るなんて思いませんでした。おかげで散々な点数を取ったんですから。みんなも言ってましたよ。ひどいって。

\T そんなに酷い点数だったかな。

\S ひどいのは点数じゃなくて先生です。

\T おいおい、人のせいにしないでほしいね。

\S あ、いや、本気で言ってるわけじゃないです。でも、文章問題が多すぎだと思います。

\T 問題はすべて文章で質問するのだから、文章問題が多いのは当たり前ですね。君は、記号で質問してほしかったのですか?

\S はあ?

\T いや、いや、冗談です。たしかに意図的に文章問題を多く出題しました。人間としての成長を見たかったのでね。

\S いつも通りでも成長は見られると思いますけど。

\T いつものように計算問題が多いと、偏った面しか見ることができないのですよ。その点、文章問題は成長のみならず、過去の足跡も見通せますからねえ。

\S どういうことですか?

\T うむ。計算問題なんてものは数学の表面を覆う程度のものにすぎません。中華まんじゅうの薄い皮みたいにね。皮の出来が良いにこしたことはありませんが、生地が良く出来ていないことには\ldots。

\S 生地が文章問題ということですか?

\T まあ、そんなところです。皮は蒸していれば型通りにできるものなのです。計算問題も公式に照らせば型通りにできますね。

\S だから、努力が報われるんじゃないですか。僕は文章問題が苦手なんです。まったく型通りにできないし。テストの問5と問6なんて文章を読むと同じような問題なのに、解き方が全然違いますよね。どうやって見分ければいいんですか?

\T 見分ける、というのはあまりにも型通りの考えですね。文章は見分けるものではありません。読み取るものなんですよ。

\S 僕にとってはどっちも同じことですよ。それなら、どうやって読み取るのか教えてください。

\T それこそ、過去の足跡です。文章は数学にあらず、ですね。

\S すいません。意味不明なんですが。

\T そうですね。分かりやすく言いましょう。まず、文章は数学ではなく、強いて言えば国語です。

\S 国語? まあ、そう言われればそうですね。とくに、問題文が長くなると小説を読んでるような気になって、途中からわけが分からなくなるんですよ。

\T ふむ、そう言うからには小さい頃はあまり本を読まなかったクチですね。

\S ええ、まあ。

\T それが文章問題に弱い原因のひとつなんですね。私が過去の足跡と言ったのはこのことです。

\S じゃあ、僕は永久に文章問題が解けないってことですか?

\T いや、そんなに極端なことではありません。訓練次第ですかね。

\S すると、訓練次第でできるようになるんですか?

\T もちろん。

\S それって、計算問題みたいに練習するんですか? そういうのなら得意だから、なんとかなりそうな気がします。

\T どうやら君は、計算問題のような、型通りの問題の解き方を知りたがっているようですね。

\S もちろんです。だって、そうしないとテストで良い点数が取れないですから。

\T 困りましたね。何百年も前ならそういった人たちが重宝がられたでしょうが、現代では型通りのことしか出来ないと軽く見られますよ。

\S どうして軽く見られるのですか? 型通りのことが出来るのは、きちんとしていいことじゃないですか。

\T そうかも知れませんが、それは今やロボットの領分です。人は機械にできないことをするためにも、型通りでない領域を訓練する必要があるのですよ。

\S それが文章問題ですか?

\T そうですね。ただし、模範解答に書いてある式とその先の計算は、数学というより単なる計算にすぎません。問題文は国語、模範解答は計算ということで、問題にも解答にも現れない部分に数学の本質が隠れているのですよ。

\S でも、先生は授業のときにテストと似た問題を解説してましたよね。それに、黒板にはテストの模範解答と同じように書いてましたよね。これが数学じゃないとしたら、先生は数学の時間に数学を教えてないってことになるんじゃないですか?

\T おっと、これは手厳しいことを言われました。でも、その通りかもしれませんね。

\S 開き直らないでください。

\T でも、授業では肝心なことは伝えましたよ。『設問の文章は必ず式にできる。ただ、式にする前に、式にできる言葉に翻訳すると良いです』と言ったはずです。

\S そんなこと言いましたか? ノートには書いてないですよ。

\T 肝心なことは黒板には書かない、いや、書けないことがままあるのですよ。数学の肝は教科書や黒板に書いてあることではなく、別のところにあります。そして、それは自分で見つけるものです。

\S どうして教えてくれないんですか。

\T 教えてるじゃないですか。翻訳しなさいって。数学の出来は翻訳の出来いかんなのですから。

\S だから、翻訳の仕方を教えてほしいんです。

\T それは、無理です。

\S なぜ?

\T では、自転車の乗り方を初めて教えることを考えてみましょう。ハンドルはこう握って、ペダルはこう漕(こ)いで、なんて説明しながら、自転車の後ろを支えることもあるでしょう。

\S はあ。

\T でも、どれだけ説明しても、どれだけ支えても、補助なしで自転車を漕ぐことは自分の力でするしかないのですよ。そして、ひとりで自転車が漕げるようになったら、今度はカーブではこうすると安全だとか、手離しでも漕げるとか教えられるかもしれません。けれど、乗れる前と乗れた後の接続点だけは他人には手出しできないのです。

\S \ldots。

\T で、文章問題の話です。文章を式にできる言葉にするには、文章のここに注目しましょう、この表現はこういう意味に取りましょう、なんて教えることはできます。でも、それら一つひとつの観点を取りまとめて翻訳するのは自分の力、つまり読解力にかかっています。これは他人が手出しできる部分ではありません。しかしその後、翻訳した文を式に直したり、計算の仕方を教えることはできます。結局、文章を要約するという接続点が肝心なのです。

\S ということは、僕は文章を要約する力がなくて、それを自分でできるようにしない限り、数学の文章問題が解けるようにならないわけですね。

\T その通り。だから、文章問題の出来不出来で過去の足跡が見えるし、成長の度合いもはかれるのです。

\S だったら、文章問題ができるようになるためには、本をたくさん読まなくてはいけないんですか?

\T いやいや、数学のために小説を読んでも仕方ないですね。そもそも本というものは楽しんで読むものです。しかし、楽しむには読解力が欠かせません。読解力をつけるには楽しめる本を読まなくてはならないのですよ。

\S それって、鶏と卵の関係じゃないですか。

\T よく気づきました。読解力を高めるのは一朝一夕はいきません。

\S じゃあ、すぐに文章問題が解けるようにならないじゃないですか。僕は、すぐにできるようになりたいんです。

\T たしかに今日明日にできることではありませんが、効率よく訓練することはできるでしょう。たとえば漫画は楽しく読めるでしょう。それは絵が描いてあるために、文章が要約されているのと同じ効果があります。また、小説や本の中には読みやすいものは多くあります。そういうものから徐々に一般的な本に進むとよいですね。小さい頃から本を読んでいると、自然と身に付いたことかもしれませんが。

\S でも\ldots。

\T 分かってます。そんな暇はない、ですね。

\S そうです。

\T ならば、折衷案を授けますか。

\S せっちゅう\ldots?

\T 肝心な部分を取捨選択して提案しよう、ということです。

\S しゅしゃあ\ldots?

\T ああ、もういいから聞いていなさい。まず、たくさんの文章問題を手に入れることです。できれば文章問題に絵とか図や表が載っているものがいいですね。そんなに簡単に見つかるとは思えませんが、まず、そういった問題を繰り返し解くことです。もっとも、そういう問題はあまり見かけないでしょうから、普通の文章問題を解きましょう。そのときの訓練としては、文章から読み取れることを絵とか図や表に描いてみることです。その描き方のコツは教えられません。それこそが読解力なのですから。でも、それが出来るようになればしめたものです。なぜなら、文章の要約ができたことになるからです。そうなれば要約した文章、すなわち式にできる文章に翻訳するのは、そう難しいことではなくなるはずです。私に思いつく方法はこれぐらいです。

\S じゃあ、先生もそうやって文章問題に強くなったんですか?

\T いいえ、残念ながら文章問題のための訓練は一切したことがないのですよ。

\S なんだ。それって生まれつきの能力ってことでしょ。やっぱり、なんだかんだ言っても僕には無理なんだ。

\T 私は、生まれつきの能力だと考えていません。私が文章問題を苦にしないのは、おそらく子供の頃から漫画も含めて、よく本を読んだことだと思っています。

\S 漫画なら僕だってたくさん読んでますよ。でも\ldots。

\T 漫画だけではだめですね。そこに小説を加えてもね。やはり、考えて読むことがなければ。

\S はあ、やっぱり道は長そうだ。

\T そう悲観したものではありません。インターネットなどをうまく利用すれば、目的にかなったものを簡単に探せますよ。

\S 簡単だから困るんですよ。

\T どうして?

\S 目的にかなったものは簡単に探せても、それ以外のものがもっと簡単に目に入るんですから。

\T そこまでは面倒見きれませんねえ。

\end{enumerate}

\end{document}