% 頭隠して数学用語

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\def\S{\item[\textbf{S:}]}
\def\F{\item[\textbf{F:}]}

\begin{document}

\section*{●頭隠して数学用語●}

\begin{enumerate}

\S ただいま。ねえ、おとうさん。突然だけど$12.48$を四捨五入して。

\F なんだ、急に。四捨五入するのはいいけど、どこで四捨五入するんだ?

\S どこって?

\F いいかい。どこの位を四捨五入するかきちんと言わないと四捨五入できないだろう。

\S あ、そう。じゃあ、小数を四捨五入して。

\F 要するに小数点以下を四捨五入するわけだな。だったら12だ。

\S 小数を四捨五入するんだから、なんで8から四捨五入しないの?

\F 小数点以下を四捨五入するんだから$.48$を切り捨てるんだよ。

\S でも、8から四捨五入すると、$12.5$。また四捨五入して13ってならない?

\F ならない。

\S なんで?

\F なんでって、そりゃあ\ldots 四捨五入だからだよ。

\S それは変だよ。四捨五入なんだから、8から順に繰り上げていってもいいじゃん。

\F そりゃあ、だめだ。小数点以下を四捨五入するんだから4を四捨五入するんだ。

\S なんで?

\F 四捨五入は後ろの数字からじゃなくて、先頭の数字でするものだからだよ。

\S なんで?

\F しつこいなあ。なんで?

\S だって四捨五入って、4以下を切り捨てて5以上を繰り上げるってことでしょ。だから8を繰り上げて4を5にじで、5をぐりあげで、じゅうざんになるぢゃないがああ\ldots。

\F ああ、泣くなよ。分かったよ。ちゃんと説明してやるから。それより、外から帰ってきたばかりでどろんこじゃないか。まずはシャワーを浴びてこい。説明はそれからだ。

\S わがっだ。

\item[] (シャワーが済んで\ldots)

\F よし、すっきりしたな。

\S じゃあ、さっきの説明して。

\F ああ。しかし説明はほとんど必要ないだろう。もう、お前が自分で答えを出したようなものだからな。

\S どういうこと?

\F シャワーを浴びてきただろ?

\S シャワーを浴びてこいって言ったの、おとうさんだよ。

\F そうだよ。確かにシャワーを浴びてこいって言った。で、何してきたの?

\S シャワー浴びた。

\F 違うだろう。シャワーを浴びる前にしたことがあるはずだ。

\S え? なんにもしなかったよ。すぐにシャワーを浴びにいったから。

\F いいや。服を脱いだ。

\S 当たり前じゃん。

\F そうだ。その当たり前のことだ。おとうさんはシャワーを浴びろとしか言わなかったけど、ちゃんと服を脱いで、シャワーを浴びたね。シャワーを浴びるという言葉には「服を脱いでから」という条件が含まれていたんだが、それをお前は分かっていた。

\S \ldots。

\F で、四捨五入だ。

\S え、何、急に。

\F 実は四捨五入という言葉にも、頭に暗黙の条件が含まれているんだ。それは「四捨五入する部分を一桁の数字とみなしてから」というものだ。

\S どういうこと?

\F つまり、さっきの$12.48$を小数点以下で四捨五入したいなら、$.48$を一桁の数字とみなす。つまり$.4$だ。

\S ちょっと待って。$.48$を一桁の数字にするなら$.50$のほうが近いから$.5$でいいじゃん。

\F おいおい、それじゃあ四捨五入という操作をする前に、すでに四捨五入をしてるんじゃないか? $.48$が$.50$に近いという考えは、まさに四捨五入の考えそのものだよ。四捨五入をするときってのは、それが初めての操作になるはずだから、その前に四捨五入がされたら変だろう。

\S でも、$.48$は$.50$に近いよ。

\F いいかな。四捨五入というのは「4は捨てる、5は上げる」ってことだ。どこにも近いとか大きい小さいなんて言ってない。四捨五入にあるのは「一桁の数字とみなす」だ。だから、$.48$は$.4$、$.4876$も$.4$、$.4444\cdots$も.4なの。(あ、まずい。無限小数の例を出しちゃいけなかったか。)

\S うー、納得できない。$.48$なら絶対$.50$だし、$.4876$だったら$.5000$だよ。

\F しょうがない。違う方向から攻めよう。実は、四捨五入ってのはインチキなんだ。

\S えー! じゃあ、嘘を教えられたの。

\F そういうことではない。四捨五入は正式には「誤差を丸める」と言うんだ。

\S 丸める、って変なの。

\F そう言うな。ちゃんとした数学用語だぞ。たとえば$12.48$を一の位に丸める、と言う。それは$12.48$を12とみなすか、または11や13とみなすかということで、つまりは$12.48$が11、12、13のどれにいちばん近いかということだ。この場合は12がいちばん近いから、$12.48$を一の位に丸めると12であるわけだ。

\S どうして13より12が近いって分かるの?

\F 数直線で見れば一目瞭然なんだが、$12.48-12 = 0.48$、$13-12.48 = 0.52$としても12の方が差が小さいので、12のほうが近いことになる。

\S じゃあ、$12.5$は? $12.5-12$も$13-12.5$も、どっちも$0.5$だよね。

\F そうだね。その場合は約束を取り決めなくてはいけない。いろいろな決め方があるけど、一般には単純に「差が等しいときは上げる」と決めている。

\S なんで? 差が等しいときは下げちゃいけないの?

\F そう決めてもいいんだ。そうすると$12.5$を一の位に丸めるとどうなるかな?

\S 12。

\F そうなるね。じゃあ、$12.51$は?

\S 12? あ、待って。$13-12.51 = 0.49$だから13だ。

\F そう。「差が等しいときは下げる」という規則にしてしまうと、$12.5?$は?が0か1では扱いが変わってしまうね。でも「差が等しいときは上げる」という規則なら$12.5?$は?が何であっても必ず上げることになる。$12.4?$なら下げる!だ。分かりやすいだろう。(いけね。?が$999\cdots$だけは例外なんだが、ツッコミ入れるなよ。)

\S そうか、計算しなくてもいいんだ。

\F (ホッ!)その通り。だから丸めるときは、丸める対象の先頭の桁を見て、4以下は捨てて5以上は繰り上げると判断できる。これが四捨五入だ。「丸める対象の先頭の桁」というのが肝心なんだ。

\S だけど、それならインチキでもなんでもないじゃないか。丸めるって言うほうがインチキくさいよ。

\F そうかもしれないけど、数学の世界では「丸める」が正しいんだ。それに本当は、丸めるときは計算したり数字を見たりしないんだよ。距離を調べて丸める点を決めるのさ。

\S 何、それ?

\F それはちょっと難しい話になっちゃうな。でも、お前が中学生や高校生になる頃に勉強するはずだから。今は正しい言葉の使い方を身につけることが大事だよ。

\S わかったよ。でも、なんだかうまく丸め込まれたみたいな気もするけど。

\end{enumerate}

\end{document}