% 不可思議な等式--4--

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\begin{document}

\section*{◆不可思議な等式--4--◆}

\subsection*{不可思議な解釈}

ζ関数にまつわる関係式の一端を見たところで、今回の話題の芯となった式
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb
\]
を再び評価してみましょう。はじめに示したように、これは
\begin{eqnarray}
1-1+1-1+1-1+\dotsb & = & (1-1)+(1-1)+(1-1)+\dotsb \nonumber \\
& = & 0 \label{valueZero}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
1-1+1-1+1-1+\dotsb & = & 1-(1-1)-(1-1)-(1-1)-\dotsb \nonumber \\
& = & 1 \label{valueOne}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
S & = & 1-1+1-1+1-1+\dotsb \nonumber \\
& = & 1-(1-1+1-1+1-\dotsb) = 1-S\ より\quad S = \frac{1}{2} \label{valueHalf}
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
1-1+1-1+1-1+\dotsb & = & 1+1+1+1+1+(1-1)+\dotsb \nonumber \\
& = & 5 \label{valueFive}
\end{eqnarray}
など、どんな値にでもなりました。しかし実際は、(\ref{valueHalf})とするのがもっともらしいことが分かったのです。すると今度は、他の値がもっともらしくないことを示さないわけにはいきません。今回の話題の締めくくりとして、真相を解明してみようと思います。

\subsection*{妥当な解釈}

まず、以前に触れたように
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb
\]
は、単なる数値の無限和ではなく、$x$の無限級数
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb
\]
に、$x = 1$を代入したものと考えることにします。

すると(\ref{valueZero})で行ったことは
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dots = (x-x^2)+(x^3-x^4)+(x^5-x^6)+\dotsb
\]
ということです。これは、次のように見るのが妥当でしょう。
\begin{eqnarray*}
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb & = & (x-x^2)+(x^3-x^4)+(x^5-x^6)+\dotsb \\
& = & x(1-x)+x^3(1-x)+x^5(1-x)+\dotsb \\
& = & (1-x)(x+x^3+x^5+\dotsb) \\
& = & (1-x)\cdot\frac{x}{1-x^2} \\
& = & \frac{x}{1+x}
\end{eqnarray*}

$3$行めを$4$行めのようにできたのは、初項$a$、公比$r$の無限等比級数の和が$\dfrac{a}{1-r}$で与えられることを用いたからです。もっとも、そうなるためには$|r| < 1$という条件がつきますが、ここでは不問にします。さて、ここで$x = 1$を代入するとどうなるでしょう。もちろん
\[
1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
ですね。(\ref{valueZero})と同じ方法で計算しましたが、結果は$0$ではありません。

\[
***
\]

次に(\ref{valueOne})で行ったようにやってみましょう。それは
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dots = x-(x^2-x^3)-(x^4-x^5)-(x^6-x^7)-\dotsb
\]
ということです。これは、次のように見るのが妥当でしょう。
\begin{eqnarray*}
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb & = & x-(x^2-x^3)-(x^4-x^5)-(x^6-x^7)-\dotsb \\
& = & x-x^2(1-x)+x^4(1-x)+x^6(1-x)+\dotsb \\
& = & x-(1-x)(x^2+x^4+x^6+\dotsb) \\
& = & x-(1-x)\cdot\frac{x^2}{1-x^2} \\
& = & x-\frac{x^2}{1+x} \\
& = & \frac{1}{1+x}
\end{eqnarray*}

さて、ここで$x = 1$を代入するとどうなるでしょう。もちろん
\[
1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
ですね。(\ref{valueOne})と同じ方法で計算しましたが、結果は$1$ではありません。

\begin{center}
***
\end{center}

続けて(\ref{valueHalf})です。(\ref{valueHalf})は直接計算したわけでなく、言わば方程式を解いたことになります。けれど直接計算するなら、
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dots = x-(x^2-x^3+x^4-x^5+x^6-\dotsb)
\]
ということです。これは、次のように見るのが妥当でしょう。
\begin{eqnarray*}
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb & = & x-(x^2-x^3+x^4-x^5+x^6-\dotsb) \\
& = & x-\frac{x^2}{1+x} \\
& = & \frac{1}{1+x}
\end{eqnarray*}

さて、ここで$x = 1$を代入するとどうなるでしょう。もちろん
\[
1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
ですね。(\ref{valueHalf})の結果は問題なく$\dfrac{1}{2}$となりました。

\begin{center}
***
\end{center}

最後は(\ref{valueFive})で行った計算です。それは
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dots = x+x^3+x^5+x^7+x^9+(x^{11}-x^2)+(x^{13}-x^4)+\dotsb
\]
ということです。これは、次のように見るのが妥当でしょう。
\begin{eqnarray*}
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb & = & x+x^3+x^5+x^7+x^9+(x^{11}-x^2)+(x^{13}-x^4)+\dotsb \\
& = & x+x^3+x^5+x^7+x^9+x^2(x^9-1)+x^4(x^9-1)+\dotsb \\
& = & x+x^3+x^5+x^7+x^9+(x^9-1)(x^2+x^4+x^6+\dotsb) \\
& = & x+x^3+x^5+x^7+x^9-(1-x^9)\cdot\frac{x^2}{1-x^2} \\
& = & x+x^3+x^5+x^7+x^9-\frac{(1+x+x^2+\cdots+x^7+x^8)\cdot x^2}{1+x}
\end{eqnarray*}

さて、ここで$x = 1$を代入するとどうなるでしょう。もちろん
\[
1-1+1-1+1-1+\dots = 5-\frac{9}{2} = \frac{1}{2}
\]
ですね。(\ref{valueFive})と同じ方法で計算しましたが、結果は$5$ではありません。

\subsection*{正当な等式}

さあ、はじめは同じ計算式なのに、解釈の仕方によって様々な値を得た
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb
\]
ですが、いきなり数値で計算せず、一旦無限級数の形で処理すると、いずれも値は$\dfrac{1}{2}$となったことに注目しましょう。そうです。私たちは数値に目がくらんでしまったのです。数値に目が奪われたために、本来あるべき姿の計算ができなくなっていたのですね。結局、$1-1+1-1+1-1+\dotsb$の値が$0$や$1$や$5$になることは、まったく不自然なことだったのです。

このことから
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
は、まったく正当な等式と言えるのではないでしょうか。

\end{document}