% 不可思議な等式--3--

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\begin{document}

\section*{◆不可思議な等式--3--◆}

\subsection*{振り返り}

これまでの計算を振り返ってみましょう。振り返って戻る地点は
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-\dots = \frac{x}{1+x}
\]
です。これは、初項$x$、公比$-x$の\textbf{無限等比級数}でもあるので、その和を求める公式を知っている人にはおなじみのはずです。ただし、$|x| < 1$という条件がついてましたけど。

この等式に行ったことは、両辺を$x$で微分することでした。それで
\[
1-2x+3x^2-4x^3+5x^4-\dots = \frac{1}{(1+x)^2}
\]
を得ることができました。実際はここに$x = 1$を代入しましたが、そこまでは振り返りません。

その次に導いた等式は
\[
x-2x^2+3x^3-4x^4+5x^5-\dots = \frac{x}{(1+x)^2}
\]
でした。これは、直前に得た等式の両辺に$x$を掛けたものであることに注意してください。

そして、この等式に行ったことは、両辺を$x$で微分することでした。それで
\[
1^2-2^2x+3^2x^2-4^2x^3+5^2x^4-\dots = \frac{1-x}{(1+x)^3}
\]
を得ることができました。

最後に導いた等式は
\[
1^2x-2^2x^2+3^2x^3-4^2x^4+5^2x^5-\dots = \frac{x-x^2}{(1+x)^3}
\]
でした。これも、直前に得た等式の両辺に$x$を掛けたものであることに注意してください。

そして、この等式に行ったことは、やはり両辺を$x$で微分することでした。それで
\[
1^3-2^3x+3^3x^2-4^3x^3+5^3x^4-\dots = \frac{1-4x+x^2}{(1+x)^4}
\]
を得ることができました。

以上で、$1^3+2^3+3^3+4^3+5^3+\dots = \dfrac{1}{120}$が分かったわけです。次は$1^4+2^4+3^4+4^4+5^4+\dotsb$の番ですが、そのためには$1^3x-2^3x^2+3^3x^3-4^3x^4+5^3x^5-\dotsb$を閉じた式にしなくてはなりません。でも、それって直前に得た等式の両辺に$x$をかければ済むことなんですよね。そう、すべきことが見えてきました。

\subsection*{$\mathbf{1^n+2^n+3^n+4^n+5^n+\dots =}$??}

では早速、直前に手に入れた等式の両辺に$x$を掛けて
\[
1^3x-2^3x^2+3^3x^3-4^3x^4+5^3x^5-\dots = \frac{x-4x^2+x^3}{(1+x)^4}
\]
としましょう。当然のように、両辺を$x$で微分します。すると
\[
1^4-2^4x+3^4x^2-4^4x^3+5^4x^4-\dots = \frac{1-11x+11x^2-x^3}{(1+x)^5}
\]
を得ることができます。$x = 1$を代入して
\[
1^4-2^4+3^4-4^4+5^4-\dots = 0
\]
ですから、
\begin{eqnarray*}
1^4+2^4+3^4+4^4+5^4+\dotsb & = & (1^4-2^4+3^4-4^4+5^4-\dotsb)+2(2^4+4^4+6^4+8^4+\dotsb) \\
& = & (1^4-2^4+3^4-4^4+5^4-\dotsb)+2\cdot2^4(1^4+2^4+3^4+4^4+\dotsb)
\end{eqnarray*}
の変形を経て、$S = 0+32S$より$S = 0$と解くことができます。すなわち
\[
1^4+2^4+3^4+4^4+5^4+\dots = 0
\]
であることが分かりました。

\[
***
\]

続けて$1^5+2^5+3^5+4^5+5^5+\dotsb$の値を求めてみます。最後に得た等式の両辺に$x$を掛けて
\[
1^4x-2^4x^2+3^4x^3-4^4x^4+5^4x^5-\dots = \frac{x-11x^2+11x^3-x^4}{(1+x)^5}
\]
としましょう。当然のように、両辺を$x$で微分します。すると
\[
1^5-2^5x+3^5x^2-4^5x^3+5^5x^4-\dots = \frac{1-26x+66x^2-26x^3+x^4}{(1+x)^6}
\]
を得ることができます。$x = 1$を代入して
\[
1^5-2^5+3^5-4^5+5^5-\dots = \frac{1}{4}
\]
ですから、
\begin{eqnarray*}
1^5+2^5+3^5+4^5+5^5+\dotsb & = & (1^5-2^5+3^5-4^5+5^5-\dotsb)+2(2^5+4^5+6^5+8^5+\dotsb) \\
& = & (1^5-2^5+3^5-4^5+5^5-\dotsb)+2\cdot2^5(1^5+2^5+3^5+4^5+\dotsb)
\end{eqnarray*}
の変形を経て、$S = \dfrac{1}{4}+64S$より$S = -\dfrac{1}{252}$と解くことができます。すなわち
\[
1^5+2^5+3^5+4^5+5^5+\dots = -\frac{1}{252}
\]
であることが分かりました。

\subsection*{$\mathbf{1^n-2^nx+3^nx^2-4^nx^3+5^nx^4-\dots =}$??}

さあ、何となく規則のようなものが見えてきました。それは
\[
1^n-2^nx+3^nx^2-4^nx^3+5^nx^4-\dots = \frac{|係数|が左右対称の(n-1)次式}{(1+x)^{n+1}}
\]
というものです。実際、分子の$(n-1)$次式において、定数項と係数だけを取り出してみると
\[
\begin{array}{ccccccc}
1 & -1 \\
1 & -4 & 1 \\
1 & -11 & 11 & -1 \\
1 & -26 & 66 & -26 & 1 \\
1 & -57 & 302 & -302 & 57 & -1 \\
1 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 1
\end{array}
\]
となって、まるで\textbf{パスカルの三角形}を連想させます。

これら係数の規則が分かれば、等式に$x = 1$を代入するだけで
\[
1^n-2^n+3^n-4^n+5^n-\dots = (何がし)
\]
が求められます。そして
\begin{eqnarray*}
1^n+2^n+3^n+4^n+5^n+\dotsb & = & (1^n-2^n+3^n-4^n+5^n-\dotsb)+2(2^n+4^n+6^n+8^n+\dotsb) \\
& = & (1^n-2^n+3^n-4^n+5^n-\dotsb)+2\cdot2^n(1^n+2^n+3^n+4^n+\dotsb)
\end{eqnarray*}
の変形を経て、$S = (何がし)+2^{n+1}S$より$S$の値が分かるのです。そうは言うものの、規則を見つけるのは容易ではありません。かりに規則が分かっても、分数関数の微分を伴うので、次から次へと関係式を導くのは厳しいでしょう。

規則を見つける、ということであれば、$1^n+2^n+3^n+4^n+5^n+\dotsb$に対して$n = 1$, $2$, $3$, $4$, $5$まで計算したので、この続きの規則を見破れるかもしれません。$n = 1$, $2$, $3$, $4$, $5$については
\[
-\frac{1}{12},\quad 0,\quad \frac{1}{120},\quad 0,\quad -\frac{1}{252}
\]
でした。あらら、たったこれだけでは規則は見つけられませんね。でも、偶数番目は$0$かなと思えます。また、奇数番目は正負交互に$0$へ収束しそうに思えます。本当はどうかというと、偶数番目が$0$というのは正しいですが、奇数番目は$0$に収束するどころか、この後は正負交互に絶対値がどんどん大きな値になっていきます。まあ、詳しく知りたければそれなりの書物を読むことをおすすめします。

とりあえず、鑑賞はこの辺りで終えることにしましょう。この程度まで計算できれば十分ではないですか? それに、計算ができることと結果が正しいことは別物です。計算は技術的な要素---技巧的なもの---を含みます。$-1+2 = -(1-2)$なども技巧だと思いますが、この計算が成り立つのは結合法則が保証されているからです。これまでに見てきたことは、技術的な計算にすぎません。結果が本当に正しいかどうかは、計算の技巧が正しいことを示す必要があります。そのためには、\textbf{複素関数}のことや\textbf{解析接続}のことなどを学ばなくてはなりません。そして、そのハードルは少し高いのです。

\end{document}