% 不可思議な等式--1--

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\begin{document}

\section*{◆不可思議な等式--1--◆}

\subsection*{発散する級数}

\textbf{無限}とか\textbf{極限}とかの計算を軽い気持ちで行うと、常識からかけ離れた結果に驚くことになります。今回の話題は\textbf{リーマン}\footnote{ベルンハルト・リーマン(1826--1866):ドイツの数学者。}の$\zeta$関数(ゼータかんすう)から導かれる等式についてですが、何も真剣に$\zeta$関数に取り組むわけではありません。だいいち、私にはその技量がありません。そこそこの計算で、雰囲気だけを味わおうという趣向です。

まず、今回の話題の芯となる式
\begin{equation}
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb \label{oneMinusOne}
\end{equation}
から見ることにします。この値はいくつでしょうか。私たちは、計算は左から順に行うことを基本としていますが、効率的な計算のために部分的にまとめながら計算することがあります。すると
\begin{eqnarray*}
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb & = & (1-1)+(1-1)+(1-1)+(1-1)+\dotsb \\
& = & 0+0+0+0+\dotsb = 0
\end{eqnarray*}
と考えることができます。しかし、かっこのくくり方を変えれば
\begin{eqnarray*}
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb & = & 1-(1-1)-(1-1)-(1-1)-(1-1)-\dotsb \\
& = & 1-0-0-0-0-\dotsb = 1
\end{eqnarray*}
と考えてもよいはずです。あれれ?同じ式から違う答が出てしまいました。

もう少し数学っぽい計算を試しましょう。最初に
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb = S
\]
とおきます。すると
\begin{eqnarray*}
S & = & 1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb \\
& = & 1-(1-1+1-1+1-1+1-\dotsb) \\
& = & 1-S
\end{eqnarray*}
という変形ができるでしょう。これより$S = 1-S$ですから、$S = \dfrac{1}{2}$と解くことができました。あらら、さらに違う答が出てしまいました。

なぜ、そんなことになるのでしょう。それは(\ref{oneMinusOne})が\textbf{発散する交代級数}だからです。このことについては詳しく述べないので、級数について知りたければどこかで調べましょう。

さて、$3$種類の計算はいずれもかっこをつけています。かっこをつけるということは、計算順序を変えるということです。実は、計算順序を変えるというのが曲者(くせもの)で、たとえば(\ref{oneMinusOne})において、最初に$5$個だけ$+1$を加えてしまって、後は交互に足す引くを繰り返せば
\[
(1+1+1+1+1)+(1-1)+(1-1)+(1-1)+\dots = 5
\]
にすることさえ可能です。最初に$+1$だけを$5$個抜き出せば、後で$+1$が$5$個不足しないかですって? いいえ、そんな心配は無用です。なぜなら、$+1$も$-1$も無限にあるのですから、計算式は間違っていません。つまり、最初に$+1$か$-1$を$n$個抜き出すことで、任意の整数値にすることができるのです。

もし、この考えに馴染めないとしたら、それは無限を理解できていないからでしょう。無限を理解する---または、理解できたと思える---までには時間がかかります。理解と言えないまでも、納得してもらわないと先に進めませんから、ここは、そういうものだと考えておきましょう。

\subsection*{級数の和}

ここまでで(\ref{oneMinusOne})の値が変幻自在であることが明るみに出たわけですが、ここで終えてしまっては楽しみが半減します。視野を広げて考えることにします。

$1-1+1-\dotsb$のような計算はあまりに具体的なので、もう少し一般的な形を考えることにします。それは
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb
\]
です。$x$に関する\textbf{無限級数}になっています。これが何らかの値$S$を持つとすると
\[
S = x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dotsb
\]
です。次に$S$を$x$倍して
\[
xS = x^2-x^3+x^4-x^5+x^6-x^7+\dotsb
\]
を得ます。これらを辺々足すと
\begin{center}
\begin{tabular}{rcrrrrrrr}
$S$ & $=$ & $x$ & $-x^2$ & $+x^3$ & $-x^4$ & $+x^5$ & $-x^6$ & $+\dotsb$ \\
$xS$ & $=$ & & $x^2$ & $-x^3$ & $+x^4$ & $-x^5$ & $+x^6$ & $-\dotsb$ \\ \hline
$S+xS$ & $=$ & $x$
\end{tabular}
\end{center}
より$S = \dfrac{x}{1+x}$と解くことができます。無限級数が\textbf{閉じた式}になりました。閉じた式では値が一つに確定します。$x = 1$のときが(\ref{oneMinusOne})の場合に相当するので、これより
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
とするのがよいでしょう。

しかし本来、この計算は意味がありません。というのは、関係式
\[
x-x^2+x^3-x^4+x^5-x^6+\dots = \frac{x}{1+x}
\]
は$|x| < 1$のときに限って\textbf{収束}し、値が確定するからです。その点で$x = \dfrac{1}{2}$とした
\[
\frac{1}{2}-\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}-\frac{1}{2^4}+\frac{1}{2^5}-\dots = \frac{\frac{1}{2}}{1+\frac{1}{2}} = \frac{1}{3}
\]
は、非の打ち所がないほど正しいのですが、$|x| < 1$から外れた$x = 1$を代入することは論外ということです。

ただし、その捉え方は日常に根ざす数学の範囲内における考えなのです。$\zeta$関数は、日常に根ざす数学の範囲の外に拡張できる関数なので、$x = 1$の代入であっても正当と考えます。ここでは、$\zeta$関数の背景に言及できませんが、$x = 1$の代入が保証されているものとしましょう。よって
\[
1-1+1-1+1-1+1-1+\dots = \frac{1}{2}
\]
なる関係式が成立すると理解します。

\subsection*{$\mathbf{1+1+1+1+\dots = -\dfrac{1}{2}}$?}

(\ref{oneMinusOne})を基本に、新たな関係式に目を向けましょう。$1+1+1+1+\dotsb$です。常識的には和が確定しません。日常に根ざす数学では、これは$+\infty$で表現します。しかし、いまや私たちは常識の外にいるのです。柔軟に対処してみます。$1+1+1+1+\dotsb$は
\begin{eqnarray*}
1+1+1+1+1+1+1+1+\dotsb & = & 1-(1-2)+1-(1-2)+1-(1-2)+1-(1-2)+\dotsb \\
& = & (1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb)+(2+2+2+2+\dotsb) \\
& = & (1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb)+2(1+1+1+1+\dotsb)
\end{eqnarray*}
と変形することができます。偶数番目の$+1$を$-(1-2)$と見直しました。$-(1-2) = -1+2$のうち、$-1$はその場に残し$+2$だけ後ろに回した結果、最後の関係式が導かれたわけです。

$1+1+1+1+\dots = T$とおきます。$1-1+1-1+\dots = \dfrac{1}{2}$は先ほど求めたばかりなので、結局$T = \dfrac{1}{2}+2T$です。これを解いて$T = -\dfrac{1}{2}$、すなわち
\[
1+1+1+1+1+1+1+1+\dots = -\frac{1}{2}
\]
であることが分かります。

ここで、偶数番目の$+1$を$-(1-2)$と見直したことで項数が増えていますが、これは問題ありません。日常的にも$5 = 1+1+1+1+1$とすることは何ら問題がないからです。問題があるとすれば、$+2$だけ後ろに回して計算順序を変えたことでしょう。計算順序の入れ替えが問題なければ
\[
(1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb)+(2+2+2+2+\dotsb)
\]

\[
2+(1-1+1-1+1-1+1-1+\dotsb)+(2+2+2+\dotsb)
\]
としても同じ気がします。それなら$1+1+1+1+\dots = T$とおいて、$T = 2+\dfrac{1}{2}+2T$から$T = -\dfrac{5}{2}$となっても不思議ではありません。

この点が、無限級数の扱いが一筋縄でいかないところなのです。具体的な数値を見てしまうと、このように勝手な解釈がまかり通ってしまうものです。しかし、$2+2+2+2+\dotsb$は$2x+2x^2+2x^3+2x^4+\dotsb$に$x = 1$を代入したものと考えれば
\[
S+(2+2+2+2+\dotsb) = S+(2x+2x^2+2x^3+2x^4+\dotsb)
\]
であり、たとえ一つの$2$だけ先に持ってきても、それは
\[
2+S+(2+2+2+2+\dotsb) = 2x+S+(2x^2+2x^3+2x^4+\dotsb)
\]
なのですから、結局は同じことなのです。

このことを踏まえて、もう少し先を見ることにしましょう。

\end{document}