% その$4/3$って何?--2--

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\begin{document}

\section*{◆その$4/3$って何?--2--◆}

\subsection*{カバリエリの定理}

底面の半径が$r$、高さが$h$の円錐の体積が$\displaystyle \frac{1}{3}\pi r^2h$であることが分かったところで、いよいよ球の体積を求めるときがきました。計算自体は周知の公式だけを用いますが、その前に感覚的に認めてもらいたいことがあります。それが\textbf{カバリエリの定理}です。

\begin{center}
\begin{picture}(240, 110)(0, 0)
\put(20, 70){\line(-1,-1){40}} %切平面
\put(-20, 30){\line(1,0){255}}
\put(235, 30){\line(1,1){40}}
\put(275, 70){\line(-1,0){35}}
\put(160, 70){\line(-1,0){60}}
%
\qbezier(20, 85)(25, 95)(55, 95) % 底面上
\qbezier(55, 95)(90, 90)(90, 85)
\qbezier(90, 85)(90, 70)(50, 70)
\qbezier(50, 70)(20, 75)(20, 85)
\qbezier(20, 85)(30, 50)(30, 10) % 側線
\qbezier(90, 85)(110, 30)(90, 10)
\qbezier(30, 10)(40, -10)(90, 10) % 底面下
%
\begin{picture}(140, 0)\end{picture}
%
\qbezier(20, 85)(30, 80)(40, 75) % 底面上
\qbezier(40, 75)(65, 80)(90, 85)
\qbezier(90, 85)(75, 92)(60, 100)
\qbezier(60, 100)(40, 95)(20, 85)
\qbezier(20, 85)(30, 50)(30, 10) % 側線
\qbezier(40, 75)(50, 50)(50, 0)
\qbezier(90, 85)(110, 30)(90, 10)
\qbezier(30, 10)(40, -10)(90, 10) % 底面下
\end{picture}
\end{center}

カバリエリの定理は、「二つの立体を平行な平面で切り、その切断面の面積が常に等しいならば、二つの立体の体積は等しい」というものです。たとえば$10$円玉を$20$枚程度まっすぐに積み上げたものが、右と左にあると思ってください。もちろん、出来上がった立体は同じ体積です。そのとき一方の山に対して、崩れない程度に、指で側面を押して形をゆがめてみましょう。立体の形は変わっても、きっと同じ体積のはずです。カバリエリの定理は、こんな感じのことを言っているのです。

\subsection*{球の体積}

カバリエリの定理を理解したところで、いよいよ球の体積を計算します。

\def\Cylinder{
\draw[thick] (0, -4) circle[x radius=4, y radius=1.5, start angle=180, end angle=360];
\draw[thick] (0, 4) circle[x radius=4, y radius=1.5, start angle= 0, end angle=360];
\draw[thick] (-4, 4) -- (-4, -4); \draw[thick] (4, 4) -- (4, -4) ;
\draw (0, 0) -- (0, 4) -- (4, 4);
\draw[dashed] (0, 0) to[bend left] node[midway, left] {$r$} (0, 4) to[bend left] node[midway, above] {$r$} (4, 4);
}
%
\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.4]

\begin{scope}[shift={(-7, 0)}]
\Cylinder
\draw (0, 0) circle[x radius=4, y radius=4];
\draw (0, 0) -- ({4*cos(30)}, {4*sin(30)});
\draw[dashed] (0, 0) to[bend right] node[midway, right] {$r$} ({4*cos(30)}, {4*sin(30)});
\draw[dashed] (0, 0) -- node[midway] {$x$} (0, {4*sin(30)}) -- ({4*cos(30)}, {4*sin(30)});
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(7, 0)}]
\Cylinder
\draw (-4, -4) -- (4, 4); \draw (-4, 4) -- (4, -4);
\draw[dashed] (0, 0) -- node[midway] {$x$} (0, 2) -- (2, 2);
\end{scope}
%
\draw (-11.5, 4) -- (-13, 4) -- (-16, 0) -- (13, 0) -- (15, 4) -- (11.5, 4); \draw (2.5, 4) -- (-2.5, 4);
\end{tikzpicture}
\end{center}

左は、半径$r$の球にちょうど外接する円柱を描いています。したがって、円柱の底面---上面も底面と呼ぶんですよ---は半径$r$の円で、高さは$2r$になります。右は、左と同じ円柱の二つの底面から、円錐をくり抜いたものと見てください。くり抜く円錐は、底面が半径$r$の円で高さが$r$の円錐です。そして、これら二つの立体を、球(もしくは円柱)の中心から$x$の高さで、底面に平行な平面で切ったところです。

切断面はどうなっているでしょうか。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=0.4]
\begin{scope}[shift={(-6, 0)}]
\draw (0, 0) circle[x radius=2*sqrt(3), y radius=2*sqrt(3)];
\draw (0, 0) -- ({2*sqrt(3)}, 0);
\draw[dashed] (0, 0) to[bend left] node[above] {$\sqrt{r^2-x^2}$} ({2*sqrt(3)}, 0);
\end{scope}
%
\begin{scope}[shift={(6, 0)}]
\draw[thick] (0, 0) circle[x radius=4, y radius=4];
\draw (0, 0) circle[x radius=2, y radius=2];
\draw (0, 0) -- (4, 0);
\draw[dashed] (0, 0) to[bend right] node[below] {$x$} (2, 0);
\draw[dashed] (0, 0) to[bend left] node[above] {$r$} (4, 0);
\end{scope}
%
\draw (-13, 5) -- (-13, -5) -- (13, -5) -- (13, 5) -- cycle;
\end{tikzpicture}
\end{center}

左は球の断面である円です。この円は球の中心から$x$の高さにあって、円の縁は球の中心から$r$だけ離れています。このことから、円の半径が直角三角形の一辺であることが分かります。そこで、三平方の定理から、円の半径が$\sqrt{r^2-x^2}$であることが分かります。したがって、この断面円の面積は$\pi(\sqrt{r^2-x^2})^2 = \pi(r^2-x^2)$です。

一方、右の断面はドーナツ型の図形で、求めたい面積は二つの円に挟まれた部分です。外側の円は円柱の側面ですから、半径は常に一定の値$r$です。また、内側の円はくり抜いた円錐の底面と相似で、高さ$x$における切断面ですから、半径は$x$です。すると、二つの円に挟まれた部分の面積は$\pi r^2-\pi x^2 = \pi(r^2-x^2)$であることが分かります。

いま、$x$の位置は任意の場所と考えていますから、これら二つの立体はどの位置で切断しても、その切り口の面積は$\pi(r^2-x^2)$で等しい値となります。すなわち、カバリエリの定理から、これら二つの立体の体積は等しいことになります。つまり、球の体積を求めたければ、円柱から二つの円錐をくり抜いた立体の体積を求めればよいのです。

円柱から二つの円錐をくり抜いた立体の体積は、簡単に求められます。それは
\[
(円柱)-(円錐)\times2 = (\pi r^2\times2r) - \left(\frac{1}{3}\pi r^2\times r\right)\times2 = \frac{4}{3}\pi r^3
\]
です。ほらね、自然に$\displaystyle \frac{4}{3}$が付きました。

\subsection*{球の表面積}

これで、球の体積を求める公式に$\displaystyle \frac{4}{3}$があることが納得できたでしょうか。ついでなので、さらに球の表面積を求める公式が$4\pi r^2$であることも説明しておきましょう。

\begin{center}
\begin{tikzpicture}[scale=2]
\draw[thick] (0, 0) circle[x radius=1, y radius=1];
\draw[dashed] ({sin(66.33)*sin(23.5)}, 0) circle [x radius=cos(66.33)*cos(23.5), y radius=cos(66.33)];
\draw[dashed] ({sin(35)*sin(23.5)}, 0) circle [x radius=cos(35)*cos(23.5), y radius=cos(35)];
%
\coordinate (O) at (0, 0);
\coordinate (A) at (0.6, 0);
\coordinate (B) at (0.65, 0.1);
\coordinate (C) at (0.5, 0.2);
\draw (O) -- (A); \draw[dashed] (O) -- (B); \draw (O) -- (C);
\draw (A) -- (B) -- (C) -- cycle;
%
\coordinate (P) at (-0.7, -0.6);
\coordinate (Q) at (-0.6, -0.75);
\coordinate (R) at (-0.5, -0.75);
\coordinate (S) at (-0.6, -0.65);
\draw (O) -- (P); \draw[dashed] (O) -- (Q); \draw (O) -- (R); \draw (O) -- (S); \draw (Q) -- (S);
\draw (P) -- (Q) -- (R) -- (S) -- cycle;
\end{tikzpicture}
\end{center}

まず、球の表面を無数の三角形で埋め尽くすように分割します(図は、表面を無数に分割した三角形の一部を図示したものと思ってください)。そして、それらの三角形を底辺に見立てて、球の中心に向けて三角錐を作ります。この三角錐で球体が充填されることは分かるでしょうか。底面である三角形は、様々な形、様々な面積をもつことでしょう。それらを、$s_1$, $s_2$, $s_3$, $\dots$で表します。しかし、三角錐の高さは球の半径である$r$と考えてよいでしょう。三角錐を全部集めて球になるので、それぞれの体積を計算して
\[
\frac{1}{3}s_1r+\frac{1}{3}s_2r+\frac{1}{3}s_3r+\cdots = \frac{4}{3}\pi r^3
\]
が成り立ちます。両辺に$3$を掛けて、$r$で割ると
\[
s_1+s_2+s_3+\cdots = 4\pi r^2
\]
となります。$(s_1+s_2+s_3+\cdots)$は球の表面を覆う面積、すなわち表面積です。これで球の表面積が$4\pi r^2$であることが分かりました。

\end{document}