% 捨てられる解の行方 -4b-

\documentclass[dvipdfmx]{jsarticle}
\pagestyle{myheadings}
\markright{tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}

\usepackage[dvipdfm]{pict2e}
\usepackage{tmtmath}

\begin{document}

\section*{◆捨てられる解の行方--4:$b$--◆}

さあ、とりあえず$y = x^2+1$のグラフが、疑似$4$次元空間でどのようになっているかが分かりました。そして$x^2+1 = 0$の解$x = i$, $-i$が、疑似$4$次元空間で見つけられたように思えます。しかし、$y = x^2+1$のグラフを一方向から眺めたに過ぎません。まだ、見るべき方向があるのです。

では、そのことを念頭に置いて、今度は$y = x^2+1$について$Rx$軸に垂直な断面で切ったCTスキャン像を調べましょう。はじめは$Ix$軸に沿って$x$が変化する場合です。この場合は、$x = \dots$, $-3i$, $-2i$, $-i$, $0$, $i$, $2i$, $3i$, $\dots$と変化するときの$y = x^2+1$を考えればよいことになります。このときの変化は
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $-3i$ & $-2i$ & $-i$ & $0$ & $i$ & $2i$ & $3i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $-8$ & $-3$ & $0$ & $1$ & $0$ & $-3$ & $-8$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
ですから、これは上に凸の放物線になっています。

\def\thrdimcoordR{%疑似4次元直交座標(実軸視点)
\multiput(-16, -3)(1, .5){12}{\dashbox{.1}(20, 0){}}
{\newcount\x \newcount\xx
\x=-16 \xx=-5
\loop \siide:(\x, -3)(\xx, 2.5) \advance\x1 \advance\xx1 \ifnum\x<5 \repeat }
{\thicklines \vsiide(11, 0)(-11, 0)} \apex(-11.5, 0){$Ix$}
\vsiide(6, 3)(-7, -3.5) \apex(-6.5, -4){$Rx$}
\apex(0, -.3){\scriptsize$O$}
}
\def\paraIx{%
\thrdimcoordR
\siiiide(-10, 0)(-10, 6)(10, 6)(10, -5) \siiide(10, -5)(-10, -5)(-10, -3)
\siide(0, -6)(0, -3) \vsiide(0, 0)(0, 7) \apex(.55, 6.5){$Ry$}
\apeex(-13.5, -2.5){\bf\footnotesize 複素$z$平面}(-7, 5.5){\footnotesize$w$平面($Ix$断面)}
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*4/1+]:(-4.9, -2) \easyfx[{-1}x*x*4/1+](-2, 2) \easyfx[{-1}x*x*4/1+]:(2, 4.9)}
}
\begin{drawpict}[.4cm](32, 13.5)(-16, -6)
\paraIx
\end{drawpict}

この図が『捨てられる解の行方--4:$a$--』の図とちょっと違うことに注意してください。以前に描いた図は手前に$Ix$軸がせり出すような視点でしたが、この図は手前に$Rx$軸がせり出すような視点になっているでしょう。イメージとしては、前の図を$Ry$軸を回転軸にして、複素$z$平面を時計回りに$90$\textdegree 回転させている図になっています。

したがって、いまここに姿を現した放物線は、$Ix$軸を正面に据えた以前の視点では、$Ry$軸に重なるただの筋でしかなかったはずです。それではグラフとして認識できないのも当然です。それがいま真横から見たことによって、はっきりと見ることができるようになったのです。そして視点を$90$\textdegree 回転させたことによって、前は正面から見えていた放物線群は、いまは真横から見ることになって姿を隠してしまったということです。もっともこの図は、完全に真正面からの視点ではなく、やや斜め方向からの視点ですから、以前描いた放物線群が、ちょうどいま見ている放物線に沿って、頂点が滑るように移動する様子が想像できるのではないでしょうか。

\begin{drawpict}[.4cm](32, 14.5)(-16, -6)
\paraIx \apeex(-2, -.5){$-i$}(2, -.5){$i$}
\apeeex(-5.5, 2.5){\footnotesize($Rx$}(-4.3, 3){\footnotesize 断}(-3.3, 3.5){\footnotesize 面)}
\siiiide(-6, -3)(-6, 3)(5, 8.5)(5, 2.5)
\qbezier(2, 1)(3, -3.5)(4.15, -2.9) \qbezier(4.15, -2.9)(5, -2.5)(6, 3)
\qbezier(0, 4)(1, -.5)(2.15, .1) \qbezier(2.15, .1)(3, .5)(4, 6)
{\thicklines \qbezier(-2, 5)(-1, .5)(.15, 1.1) \qbezier(.15, 1.1)(1, 1.5)(2, 7)}%x+.15,y+.1 adjust
\qbezier(-4, 4)(-3, -.5)(-1.85, .1) \qbezier(-1.85, .1)(-1, .5)(0, 6)
\qbezier(-6, 1)(-5, -3.5)(-3.85, -2.9) \qbezier(-3.85, -2.9)(-3, -2.5)(-2, 3)
\end{drawpict}

ところで、この方向から$y = x^2+1$のグラフを見ると、$Ix$断面上の放物線が$Ix$軸と$2$か所で交わっているのが見えるでしょう。そう、さっき放物線が原点$O$をまたいだとき、頂点が通過した$z$平面の$2$点です。確かに$x = i$, $-i$になっているのが分かります。私たちがいままで見ていた$y = x^2+1$のグラフは、疑似$4$次元空間の$Ix$方向から見たものだったので、$x = i$, $-i$という交点があることに気付かなかったようです。しかし、この位置から見れば一目瞭然でしょう。$x^2+1 = 0$の解は、放物線が$Ix$軸と交わるところにあったのです。

さて、方程式の解だけに目が行きがちですが、$y = x^2+1$の実態は、疑似$4$次元空間を波打つように広がる図形なのです。その様子をもう少し調べてみましょう。いま、$x$の変化として$Ix$軸上の変化を選びましたが、次は$1+Ix$軸を選んでみましょう。このときの$y = x^2+1$の値は
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $1-3i$ & $1-2i$ & $1-i$ & $1+0i$ & $1+i$ & $1+2i$ & $1+3i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $-7_{-6i}$ & $-2_{-4i}$ & $1_{-2i}$ & $2$ & $1_{+2i}$ & $-2_{+2i}$ & $-7_{+6i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
のようになります。また、$2+Ix$軸に沿って$x$の値を変化させると、$y = x^2+1$の値は
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $2-3i$ & $2-2i$ & $2-i$ & $2+0i$ & $2+i$ & $2+2i$ & $2+3i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $-4_{-12i}$ & $1_{-8i}$ & $4_{-4i}$ & $5$ & $4_{+4i}$ & $1_{+8i}$ & $-4_{+12i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
のようになります。$x$の実部の値が増えるにしたがって、$y$の実部の値も増えていく様子がうかがえます。

$x$を$-1+Ix$軸に沿って変化させると
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $1-3i$ & $1-2i$ & $1-i$ & $1+0i$ & $1+i$ & $1+2i$ & $1+3i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $-7_{+6i}$ & $-2_{+4i}$ & $1_{+2i}$ & $2$ & $1_{-2i}$ & $-2_{-2i}$ & $-7_{-6i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
ですから、$y$の実部に関しては$1+Ix$軸に沿って変化させたときとまったく同じです。$-2+Ix$軸に沿って変化させても同じことが言えるので、ここでも以前と同じような状況が起きていることが分かります。すると、これらの変化を疑似$4$次元空間でグラフ化してみると
\begin{drawpict}[.4cm](32, 14)(-16, -6)
\thrdimcoordR
\vsiide(9, -1)(-13, -1)
\siiiide(-12, -1)(-12, 5)(8, 5)(8, -6) \siiide(8, -6)(-12, -6)(-12, -3)
\siide(-2, -6.5)(-2, -3) \vsiide(-2, -1)(-2, 6)
{\thicklines \easyfx[{-1}x2+*x2+*4/4+]:(-8.35, -6.5) \easyfx[{-1}x2+*x2+*4/4+](-6.5, 2.5) \easyfx[{-1}x2+*x2+*4/4+]:(2.5, 4.35)}

\vsiide(10, -.5)(-12, -.5)
\siiiide(-11, -.5)(-11, 5.5)(9, 5.5)(9, -5.5) \siiide(9, -5.5)(-11, -5.5)(-11, -3)
\siide(-1, -6)(-1, -3) \vsiide(-1, -.5)(-1, 6.5)
{\thicklines \easyfx[{-1}x1+*x1+*4/{1.5}+]:(-6.3, -3.8) \easyfx[{-1}x1+*x1+*4/{1.5}+](-3.8, 1.8) \easyfx[{-1}x1+*x1+*4/{1.5}+]:(1.8, 4.3)}

\siiiide(-10, 0)(-10, 6)(10, 6)(10, -5) \siiide(10, -5)(-10, -5)(-10, -3)
\siide(0, -5.5)(0, -3) \vsiide(0, 0)(0, 7) \apex(.55, 6.5){$Ry$}
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*4/1+]:(-4.9, -2) \easyfx[{-1}x*x*4/1+](-2, 2) \easyfx[{-1}x*x*4/1+]:(2, 4.9)}

\vsiide(12, .5)(-10, .5)
\siiiide(-9, .5)(-9, 6.5)(11, 6.5)(11, -4.5) \siiide(11, -4.5)(-9, -4.5)(-9, -3)
\siide(1, -5)(1, -3) \vsiide(1, .5)(1, 7.5)
\easyfx[{-1}x1-*x1-*4/{2.5}+]:(-4.3, -1.8) \easyfx[{-1}x1-*x1-*4/{2.5}+](-1.8, 3.8) \easyfx[{-1}x1-*x1-*4/{2.5}+]:(3.8, 6.3)

\vsiide(13, 1)(-9, 1)
\siiiide(-8, 1)(-8, 7)(12, 7)(12, -4) \siiide(12, -4)(-8, -4)(-8, -3)
\siide(2, -4.5)(2, -3) \vsiide(2, 1)(2, 8)
\easyfx[{-1}x2-*x2-*4/6+]:(-4.3, -2.5) \easyfx[{-1}x2-*x2-*4/6+](-2.5, 6.5) \easyfx[{-1}x2-*x2-*4/6+]:(6.5, 8.3)
\end{drawpict}
のような様子になっていることが分かるのです。この図では見づらいのですが、放物線の頂点が$Rx$断面の$y = x^2+1$に沿って移動している様子が分かるでしょうか。

それでは、$y = x^2+1$の正体は何でしょう? $Ix$軸、$Rx$軸に沿ってスキャンした断面図を重ね合わせてみると、どことなく``鞍(くら)形''のようにも感じます。それよりは、放物線の集合体とでも言うほうが適切でしょうか。近頃では、この手の図形をコンピュータ画面で見られるソフトウェアも多々あるようですから、もう少しきれいで分かりやすいグラフィックは、そういう類いのもので見てもらいたいものです。

しかし、それでは現実味に欠けるというなら、古風な方法で疑似$4$次元空間における$y = x^2+1$のグラフを見る試みをしてもよいでしょう。それには透明なシートを$10$数枚程度用意しましょう。

\def\clearSheetR{
\pooooly(-4, -4)(4, -4)(4, 4)(-4, 4)
\coordinate(-4, 4)(-4, 4)
{\thicklines \multiput(-3, 0)(1, 0){7}{\line(0,1){4}}}
}
\begin{drawpict}[.25cm](44, 8.6)(-4, -4)
\apex(-8, 0){$\cdots$}
\clearSheetR
{\thicklines \easyfx[xx*3-3/](-3.9, 3.9)}

\baseskip9
\clearSheetR
{\thicklines \easyfx[xx*3/](-3.45, 3.45)}

\baseskip9
\clearSheetR
{\thicklines \easyfx[xx*1+3/](-3.3, 3.3)}

\baseskip9
\clearSheetR
{\thicklines \easyfx[xx*3/](-3.45, 3.45)}

\baseskip9
\clearSheetR
{\thicklines \easyfx[xx*3-3/](-3.9, 3.9)}
\apex(8, 0){$\cdots$}
\end{drawpict}

それらのシートの半分には、$Ix$軸に垂直に交わる面で輪切りにした$y = x^2+1$のグラフを描きます。したがって、横軸$Rx$、縦軸$Ry$の値の放物線が描かれます。このうちの$1$枚が普段私たちが目にする$y = x^2+1$のグラフです。これはちょっと特別なので、淡い色の半透明シートに描いてもよいでしょう。また放物線は、たとえば赤い色で線を引いておきます。

\def\clearSheetI{
\pooooly(-4, -4)(4, -4)(4, 4)(-4, 4)
\coordinate(-4, 4)(-4, 4)
{\thicklines \multiput(-3, -4)(1, 0){7}{\line(0,1){4}}}
}
\begin{drawpict}[.25cm](44, 8.6)(-4, -4)
\apex(-8, 0){$\cdots$}
\clearSheetI
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*4+3/](-4, 4)}

\baseskip9
\clearSheetI
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*2+3/](-3.75, 3.75)}

\baseskip9
\clearSheetI
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*1+3/](-3.6, 3.6)}

\baseskip9
\clearSheetI
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*2+3/](-3.75, 3.75)}

\baseskip9
\clearSheetI
{\thicklines \easyfx[{-1}x*x*4+3/](-4, 4)}
\apex(8, 0){$\cdots$}
\end{drawpict}

あと半分のシートには、$Rx$軸に垂直に交わる面で輪切りにした$y = x^2+1$のグラフを描きます。したがって、横軸$Ix$、縦軸$Ry$の値の放物線が描かれます。また放物線は、たとえば青い色で線を引いておきます。

そして、一方のシートの上半分には等間隔に切り込みを、他方のシートの下半分にも等間隔に切り込みを入れます。切り込みはすべて同じ幅にそろえましょう。そうすれば$2$種類のシートの切り込みを噛み合わせて、垂直に組み上げることができますね。出来上がりはさいころ状の立体になるはずです。シートは透明ですから、いろいろな方向から赤い線と青い線の様子が見えるでしょう。グラフが正確に描けて、切り込みもきちんと等間隔であれば、切り込みの位置で放物線の頂点は互いに相手の稜線に接するようになっているはずです。そして、線と線の間には同じ色の膜が張られていると想像してみてください。それが、疑似$4$次元空間における$y = x^2+1$のグラフなのです。

蛇足ながら付け加えると、$y = x^2+1$のままグラフを描くと思いのほか幅が狭いグラフになって、せっかくのさいころ状の空間を広く使えません。そこで$y$の値だけ、$\dfrac{1}{2}$倍や$\dfrac{1}{3}$倍してグラフを描くとよいでしょう。

それにしても、私たちが普段から馴染んでいる実数平面は、疑似$4$次元空間に比べてなんと平板なことでしょう。さらに本当の複素$4$次元空間は、疑似$4$次元空間にもう$1$本の$Iy$軸が直交しているのです。そのような状況は、もう想像すらできませんね。

\end{document}