% 捨てられる解の行方 -4a-

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\begin{document}

\section*{◆捨てられる解の行方--4:$a$--◆}

捨てられる解、というのとは少し違うかもしれませんが、$2$次方程式を解く場合にも解を無視することがあります。たとえば、
\[
x^2+1 = 0
\]
を解くことを考えます。$1$を右辺に移項して$x^2 = -1$とすればよいのですが、$2$乗して負の値になる数はないので、この場合は``解なし''と答えるでしょう。それでも虚数単位$i$のことを知っていれば、解は$x = \pm i$とするはずです。

ところで、方程式が$x^2-1 = 0$であれば、解は$x = \pm1$ですね。そして、この方程式の解は関数$y = x^2-1$と密接に関係していて、$y = x^2-1$のグラフが$x$軸と交わる$x$の値$1$と$-1$を意味します。

\begin{drawpict}[.5cm](20, 6.3)(-4, -2)
\coordinate[R](-4, 4)(-2, 4)
\easyfx[xx*1-](-2.23, 2.23) \apex(3.5, 3.5){$y = x^2-1$}
\apeex(-1, 0){\tiny$\bullet$}(-1.2, -.5){$-1$}
\apeex(1, 0){\tiny$\bullet$}(1, -.5){$1$}

\baseskip{12}

\coordinate[R](-4, 4)(-2, 4)
\easyfx[xx*1+](-1.73, 1.73) \apex(3, 3.5){$y = x^2+1$}
\end{drawpict}

一方、方程式$x^2+1 = 0$は解を持たないので、まさに$y = x^2+1$のグラフも$x$軸との交点を持ちません。ナットク、ナットク、$\dots$と言ってしまってはいけません。じゃあ、$x = \pm i$はどこに行ったの? そう、今回はそれを探しにいきましょう。

さて、いま虚数単位が登場しました。私たちは関数のグラフを描くとき、普通$x$がとる値の範囲は実数で考えています。でも、虚数単位を認めたのなら、$x$や$y$がとる値が虚数になっても不思議でも何でもないでしょう。すると、$y = x^2+1$に$x = 1$, $2$, $3$, $\dots$を代入してみよう、というのと同じくらい$x = 1+i$, $2+i$, $3+i$, $\dots$を代入してみよう、というのは自然なことではないでしょうか。

『捨てられる解の行方--3--』では、変域である``複素$z$平面''と値域である``複素$w$平面''を並べてみました。しかし、それでは$z$が$z$平面を動くとき、連動する$w$が$w$平面を動く様子を観察できても、何となく関数のグラフという実感に乏しい気がします。そこで今回は、もう少し立体的に考えてみましょう。と言っても、$4$次元にするわけにはいかないので、疑似$4$次元空間で観察することにします。

疑似$4$次元空間って何だろう。まず、変域である複素$z$平面は$x$の変域としてそのまま利用します。そうすれば$x = 1+i$, $2+i$, $3+i$, $\dots$を代入すことは自然な行為になるでしょう。本当ならここに、値域である複素$w$平面を``直交''させたいのですが、$z$平面と$w$平面を直交させるというのは、$z$平面の$x$軸、$y$軸がそれぞれ$w$平面の$x$軸、$y$軸と直交することを意味します。それは$3$次元空間では無理な話です。

仕方がないので次善の案として、$w$平面の$x$軸---すなわち$Ry$実数軸---だけを直交させることにします。

\def\thrdimcoord{%疑似4次元直交座標
\multiput(-16, -3)(1, .5){12}{\dashbox{.1}(20, 0){}}
{\newcount\x \newcount\xx
\x=-16 \xx=-5
\loop \siide:(\x, -3)(\xx, 2.5) \advance\x1 \advance\xx1 \ifnum\x<5 \repeat }
{\thicklines \vsiide(-11, 0)(11, 0)} \apex(11, -.5){$Rx$}
\vsiide(6, 3)(-7, -3.5) \apex(-6.5, -4){$Ix$}
\apex(-13.5, -2.5){\bf\footnotesize 複素$z$平面}
\apex(0, -.3){\scriptsize$O$}
}
\begin{drawpict}[.4cm](32, 13.5)(-16, -6)
\thrdimcoord
\siiiide(-10, 0)(-10, 6)(10, 6)(10, -5) \siiide(10, -5)(-10, -5)(-10, -3)
\siide(0, -6)(0, -3) \vsiide(0, 0)(0, 7) \apex(.55, 6.5){$Ry$}
\apex(-7, 5.5){\footnotesize$w$平面(実数面)}
{\thicklines \easyfx[xx*4/1+](-4.5, 4.5)}
\apex(-.2, 1.2){$1$}
\end{drawpict}

そうすると、複素$z$平面の$Rx$軸上を、たとえば$x = \dots$, $-3$, $-2$, $-1$, $0$, $1$, $2$, $3$, $\dots$と変化するときの$y = x^2+1$を考えると、$y = \dots$, $10$, $5$, $2$, $1$, $2$, $5$, $10$, $\dots$という値をとっていくわけですから、$w$平面上に放物線が描かれるわけです。この$w$平面上の放物線こそが、私たちが普段見慣れた$y = x^2+1$のグラフというわけです。そして、疑似$4$次元空間においても、$y = x^2+1$は$z$平面の``上''に浮いているように見えます。

さて、$x$が実数値以外の値をとる場合はどうでしょうか。あまり勝手な値を選んでも収拾がつかないでしょうから、たとえば$x = \dots$, $-3+i$, $-2+i$, $-1+i$, $0+i$, $1+i$, $2+i$, $3+i$, $\dots$と変化するときの$y = x^2+1$の値を追ってみます。

\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $-3+i$ & $-2+i$ & $-1+i$ & $0+i$ & $1+i$ & $2+i$ & $3+i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $9_{-6i}$ & $4_{-4i}$ & $1_{-2i}$ & $0$ & $1_{+2i}$ & $4_{+4i}$ & $9_{+6i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}

$y$の値の書き方はちょっと違和感を感じるでしょうが、疑似$4$次元空間に値をとれるのは$y$の実数値だけですから、虚部は申し訳程度の表記にしました。

\begin{drawpict}[.4cm](32, 13)(-16, -6)
\thrdimcoord
{\thicklines \vsiide(-12, -.5)(10, -.5)} \apex(10, -1){$Rx+i$}
\apex(-1, -.8){$i$}
\siiiide(-11, -.5)(-11, 5.5)(9, 5.5)(9, -5.5) \siiide(9, -5.5)(-11, -5.5)(-11, -3)
\siide(-1, -6)(-1, -3) \vsiide(-1, -.5)(-1, 6.5) \apex(-.45, 6){$Ry$}
\apex(-8, 5){\footnotesize$w$平面(実数面)}
{\thicklines \easyfx[x1+x1+*4/{.5}-](-5.9, 3.9)}
\end{drawpict}

するとそのグラフは同じ形の放物線であるものの、頂点がちょうど複素$z$平面に接するグラフになっています。ただ、グラフはイメージ図であることに注意してください。複素$z$平面の格子模様は強調のために描いただけで、目盛が正確な値とは必ずしも一致していません。悪しからず。

いま目の前にに現れたグラフは$x$の値が虚数値をとったときの図ですから、普段は絶対目にすることができないグラフです。そして、やや! グラフが複素$z$平面の$(0,~i)$で接しているぞ。これって$x^2+1 = 0$の解の一つ、$x = i$のことなんじゃなかろうか。

結論を急ぐ前に、その他の様子も見ることにしましょう。たとえば、$Rx+2i$軸に沿って$x$を変化させると$y = x^2+1$の$y$の値は
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $-3+2i$ & $-2+2i$ & $-1+2i$ & $0+2i$ & $1+2i$ & $2+2i$ & $3+2i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $6_{-12i}$ & $1_{-8i}$ & $-2_{-4i}$ & $-3$ & $-2_{+4i}$ & $1_{+8i}$ & $6_{+12i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
ですから、放物線が複素$z$平面の下へ潜るような感じになりました。

\begin{drawpict}[.4cm](32, 12.5)(-16, -6)
\thrdimcoord
{\thicklines \vsiide(-13, -1)(9, -1)} \apex(9, -1.5){$Rx+2i$}
\apex(-2, -1.3){$2i$}
\siiiide(-12, -1)(-12, 5)(8, 5)(8, -6) \siiide(8, -6)(-12, -6)(-12, -3)
\siide(-2, -6.5)(-2, -3) \vsiide(-2, -1)(-2, 6) \apex(-1.45, 5.5){$Ry$}
\apex(-9, 4.5){\footnotesize$w$平面(実数面)}
{\thicklines \easyfx[x2+x2+*4/4-](-8, -5.5) \easyfx[x2+x2+*4/4-]:(-5.5, 1.5) \easyfx[x2+x2+*4/4-](1.5, 4)}
\end{drawpict}

$Ix$軸の反対方面の様子も計算してみましょう。今度は$Rx-i$軸に沿って$x$を変化させてみます。$y = x^2+1$の値は
\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $-3-i$ & $-2-i$ & $-1-i$ & $0-i$ & $1-i$ & $2-i$ & $3-i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $9_{+6i}$ & $4_{+4i}$ & $1_{+2i}$ & $0$ & $1_{-2i}$ & $4_{-2i}$ & $9_{-6i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}
のように変化します。おっと、$Ix$軸の向こう側ではグラフが複素$z$平面のもっと上にいくかと思いきや、$Ry$の実数値は$Rx+i$軸と同じようです。つまり、この場合のグラフは、前と同様複素$z$平面に接するはずですが、続けてあと$1$つ$Rx-2i$軸に沿った変化を見ておきましょう。

\begin{center}
\begin{tabular}{c|ccccccccc}
$x$ & $\dots$ & $-3+2i$ & $-2+2i$ & $-1+2i$ & $0+2i$ & $1+2i$ & $2+2i$ & $3+2i$ & $\dots$ \\ \hline
$y$ & $\dots$ & $6_{+12i}$ & $1_{+8i}$ & $-2_{+4i}$ & $-3$ & $-2_{-4i}$ & $1_{-8i}$ & $6_{-12i}$ & $\dots$
\end{tabular}
\end{center}

やはり、$R+2i$軸に沿って変化させたときと同じでしたね。違いは$y$の値の虚部の部分だけで、しかも正負の違いしかありません。以上のことから、$x$の値が$R+ki$軸と$R-ki$軸に沿って変化すると、$y = x^2+1$の$y$の(実部の)値は$k$の値によらず放物線をなぞりそうです。そして放物線の頂点は、$|k|$の値が大きくなるほど複素$z$平面の下へ潜る様子が分かりました。

ここまでの変化を、まとめて同一空間へ描いておきましょう。とっても見づらいグラフではありますが、手前から奥へ向かって、放物線が原点$O$をまたいで超えて行くような様子を感じ取ってもらえればよいでしょう。

\begin{drawpict}[.4cm](32, 13.5)(-16, -6)
\thrdimcoord
\vsiide(-13, -1)(9, -1)
\siiiide(-12, -1)(-12, 5)(8, 5)(8, -6) \siiide(8, -6)(-12, -6)(-12, -3)
\siide(-2, -6.5)(-2, -3) \vsiide(-2, -1)(-2, 6)
{\thicklines \easyfx[x2+x2+*4/4-](-8, -5.5) \easyfx[x2+x2+*4/4-]:(-5.5, 1.5) \easyfx[x2+x2+*4/4-](1.5, 4)}

\vsiide(-12, -.5)(10, -.5)
\siiiide(-11, -.5)(-11, 5.5)(9, 5.5)(9, -5.5) \siiide(9, -5.5)(-11, -5.5)(-11, -3)
\siide(-1, -6)(-1, -3) \vsiide(-1, -.5)(-1, 6.5)
{\thicklines \easyfx[x1+x1+*4/{.5}-](-5.9, 3.9)}

\siiiide(-10, 0)(-10, 6)(10, 6)(10, -5) \siiide(10, -5)(-10, -5)(-10, -3)
\siide(0, -5.5)(0, -3) \vsiide(0, 0)(0, 7) \apex(.55, 6.5){$Ry$}
{\thicklines \easyfx[xx*4/1+](-4.5, 4.5)}

\vsiide(-10, .5)(12, .5)
\siiiide(-9, .5)(-9, 6.5)(11, 6.5)(11, -4.5) \siiide(11, -4.5)(-9, -4.5)(-9, -3)
\siide(1, -5)(1, -3) \vsiide(1, .5)(1, 7.5)
\easyfx[x1-x1-*4/{.5}+](-3.9, 5.9)

\vsiide(-9, 1)(13, 1)
\siiiide(-8, 1)(-8, 7)(12, 7)(12, -4) \siiide(12, -4)(-8, -4)(-8, -3)
\siide(2, -4.5)(2, -3) \vsiide(2, 1)(2, 8)
\easyfx[x2-x2-*4/2-](-4, -1.5) \easyfx[x2-x2-*4/2-]:(-1.5, 5.5) \easyfx[x2-x2-*4/2-](5.5, 8)

\apeex(-1, -.5){\tiny$\bullet$}(1, .5){\tiny$\bullet$}
\end{drawpict}

そして、放物線が原点$O$をまたいで超えて行くとき、途中で$2$度$z$平面を通過します。このとき放物線の頂点が$(0,~i)$、$(0,~{-i})$に触れるのです。

さて、いまは$y = x^2+1$のグラフについて、放物線が疑似$4$次元空間内でどのように振る舞っているかを、複素$z$平面の$R+ki$軸に沿って調べてみました。これは、たとえれば$y = x^2+1$のグラフを、$Ix$軸に垂直な断面で切ったCTスキャン像とでも言えばよいでしょう。

\def\zplane{%
\coordinate(-5, 5)(-5, 5)
\apeex(5, -.5){$Rx$}(-.7, 5){$Ix$}
\put(-5, 4.5){\scriptsize$z$複素平面}
}
\begin{drawpict}[.35cm](26, 10.5)(-5, -5)
\zplane
\apeeex(-.5, 1){$i$}(-.5, 2){$2i$}(-.5, 3){$3i$}
\apeeex(-.75, -1){$-i$}(-.75, -2){$-2i$}(-.75, -3){$-3i$}
\multiput(-5, -4)(0, 1){9}{\dashbox{.1}(10, 0){}}

\baseskip{16}

\zplane
\apeeex(1, -.5){$1$}(2, -.5){$2$}(3, -.5){$3$}
\apeeex(-1, -.5){$-1$}(-2, -.5){$-2$}(-3, -.5){$-3$}
\multiput(-4, -5)(1, 0){9}{\dashbox{.1}(0, 10){}}
\end{drawpict}

ただ、このCTスキャン像だけで$y = x^2+1$の全体像を見たと思ってはいけません。$Rx$軸に垂直な断面で切ったCTスキャン像を調べて、はじめて$y = x^2+1$の全貌が見えたと言えるのです。

\end{document}