% 捨てられる解の行方 -1-
\documentclass[a4j]{jsarticle}
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\markright{\sf tmt's math page}
\def\baselinestretch{1.33}
\usepackage{tmtmath}
\begin{document}
\section*{◆捨てられる解の行方--1--◆}
教科書などにある問題を方程式で解くと、ときどき不適切な解が現れて捨てられることがあります。たとえば、\par
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{minipage}{40zw}
\fbox{問} 縦の長さ$6$、横の長さ$8$の長方形において、縦と横の長さを同じだけ短くして長方形の面積を半分にしたい。どれだけ短くすればよいか。\par
\fbox{解} 短くする長さを$x$とし、$(6-x)(8-x) = 24$を解いて$x = 2$, $12$。$0 < x < 6$より、$2$だけ短くすればよい。
\end{minipage}
\vspace{.33\baselineskip}\par
\noindent という具合にです。短くできる長さは$0$より大きく、また最大でも短い方の辺$6$より小さくなくてはならないので、いかに方程式\.と\.し\.ての解であっても$12$は捨てられます。
しかしこれなどは、単に「長方形」としか言ってないので、長方形が座標平面に描かれていたなら$x = 12$であっても立派な解になり得ます。たとえ「長方形の土地」だと断っていても、屁理屈をこねて、砂漠の真ん中にある土地なら$x = 12$であっても、要求通りの土地ができると言ってよいでしょう。
\begin{drawpict}[.27cm](38, 16)(-6, -8) %tmtmath.sty
\coordinate(-6, 10)(-8, 8)
\put(0, 0){\framebox(8, 6){\small 面積$48$}}
\put(8, -.1){\makebox(0, 0)[t]{\small$8$}}
\put(-.1, 6){\makebox(0, 0)[r]{\small$6$}}
{\thicklines
\put(8, 0){\vector(-1,0){12}}
\put(0, 6){\vector(0,-1){12}}
}
\put(-4, -6){\dashbox{.1}(4, 6){\small 面積$24$}}
\put(-4, .1){\makebox(0, 0)[b]{\small$-4$}}
\put(.1, -6){\makebox(0, 0)[l]{\small$-6$}}
\baseskip{24}
\put(0, 0){\framebox(8, 6){\small 砂漠の土地}}
\put(4, 6.1){\makebox(0, 0)[b]{\small$8$}}
\put(8.1, 3){\makebox(0, 0)[l]{\small$6$}}
{\thicklines
\put(8, 0){\vector(-1,0){12}}
\put(0, 6){\vector(0,-1){12}}
\put(-4, .2){\makebox(0, 0)[b]{\small$12$短い}}
\put(.2, -6){\makebox(0, 0)[l]{\small$12$短い}}
}
\put(-4, -6){\dashbox{.1}(4, 6){}}
\end{drawpict}
もっとも、教科書ならそんな反論ができないよう「長方形の板」とかを問題にしているでしょうがね。でも、ちょっと常識の枠からはみ出ても、さほど無理のない解釈が得られる場合もあるという例を挙げたつもりです。
では、次の例はどうでしょうか。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{minipage}{40zw}
\fbox{問} 方程式$\sqrt{x}\sqrt{x-5} = 6$を解け。\par
\fbox{解} 両辺を2乗した$x(x-5) = 36$を解いて$x = 9$, $-4$。$x \ge 5$より$x = 9$。
\end{minipage}
\vspace{.33\baselineskip}
$x = -4$のとき、もとの方程式の左辺は$\sqrt{-4}\sqrt{-9}$になります。根号の中の数は正の数でなければならないので$x = -4$は解となりません。蛇足ながら形式的に$\sqrt{-4}\sqrt{-9} = \sqrt{(-4)\times(-9)}$とするのは間違いです。正しい計算は、虚数単位を用いて
\[
\sqrt{-4}\sqrt{-9} = \sqrt{4}\,i\sqrt{9}\,i = 2\cdot3\,i^2 = -6
\]
とします。しかし、虚数単位を持ち出しても方程式の解$6$にはなりません。
となると、$x = -4$はどうあっても捨てられてしまうのでしょうか。いいえ、ちょっと思考の幅を広げれば、$x = -4$に意味を持たせることができるものです。そのために、この問題でも$\sqrt{x}\sqrt{x-5}$の計算が長方形の面積を求めているのだと考えることにします。
すると、$x = 9$のときの$\sqrt{9}\sqrt{4}$は縦・横が$3$と$2$である長方形の面積の計算です。どちらを横と見てもよいのですが、あとのために方程式で先に使われた$\sqrt{x}$を第$1$の辺、次に使われた$\sqrt{x-5}$を第$2$の辺と呼ぶことにします。辺の呼び方は変わっても長方形の面積は$6$ですね。
また、$x = -4$のときの$\sqrt{-4}\sqrt{-9}$は第$1$の辺・第$2$の辺が$2i$と$3i$である長方形の面積の計算です。しかし、辺の呼び方を変えても長方形の面積が$6$になるわけではありません。そこで、ひとひねり加えましょう。
まず、積で求めているものが面積であることから、問題の方程式で行っている掛け算は外積であるととらえます。外積$\overrightarrow{\mathstrut a}\times\overrightarrow{\mathstrut b}$はときに$|\overrightarrow{\mathstrut a}||\overrightarrow{\mathstrut b}|\sin\theta$で計算され、その値は$2$つのベクトルが作る平行四辺形の面積を表すからです。また、虚数単位を持ち出しているので、長方形の辺となる長さは複素平面の実軸上、虚軸上のベクトルであると考えます。
でも、ちょっと問題があります。私たちが普段使っている座標平面というのは、数直線$x$と数直線$y$を交差させています。そして、長方形の第$1$の辺を数直線$x$に、第$2$の辺を数直線$y$に乗せています。そう、長方形を作る前、長方形の辺はそれぞれ別の数直線に乗っていて、数直線が交差することで長方形が出来上がっているわけです。
この考えを踏襲すれば、虚数単位が登場する長方形の辺のうち第$1$の辺は複素平面$C_1$に、第$2$の辺は複素平面$C_2$に乗っていると考えなくてはなりません。その上で、$2$つの複素平面を交差させ、そこにできる長方形が私たちが考える長方形なのです。でも、残念なことに私たちには$4$次元になってしまう複素平面の交差具合---複素空間とでも呼びましょうか---を目にすることはできないのです。
それでも、私たちは$4$次元の複素空間を目で見なくとも、立体の一部を平面に描き写せるように複素空間の一部を平面に描き写すことはできるはずです。その図を見ながら想像力を働かせることにします。次の図は、$2$つの複素平面を交差させてできる空間から、平面部分を描き出したものです。
\def\RIplane#1#2#3{
\put(-5, 5){\makebox(0, 0)[tl]{\fbox{\scriptsize#1}}}
\put(-5, 0){\vector(1,0){10}}
\put(5, 0){\makebox(0, -.1)[tr]{\scriptsize#2}}
\put(0, -5){\vector(0,1){10}}
\put(0, 5){\makebox(-.1, 0)[tr]{\scriptsize#3}}
\put(0, 0){\makebox(-.1, -.1)[tr]{\scriptsize$O$}}
}
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.3cm](40, 10)(-5, -5) %tmtmath.sty
\RIplane{$C_1$}{$\Re_1$}{$\Im_1$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){2}} }
\put(.1, 2){\makebox(0, 0)[l]{$2i$}}
\put(5.5, 0){\makebox(0, 0){\small と}}
\baseskip{11}
\RIplane{$C_2$}{$\Re_2$}{$\Im_2$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){3}} }
\put(.1, 3){\makebox(0, 0)[l]{$3i$}}
\put(7.5, 0){\makebox(0, 0){\small の交差から}}
\baseskip{15}
\RIplane{虚軸平面}{$\Im_1$}{$\Im_2$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){2}} }
\put(2, .1){\makebox(0, 0)[b]{$2i$}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){3}} }
\put(.1, 3){\makebox(0, 0)[l]{$3i$}}
\put(0, 0){\framebox(2, 3){}}
\put(7.5, 0){\makebox(0, 0){\small を描き出す}}
\end{drawpict}
こうして虚数単位を持つ長方形を描き出したものの、やっぱり$2i\times3i = -6$にしかなりませんね。なにか見落としはないでしょうか。それを探るため、複素空間から実軸に辺を持つ長方形も描き出してみましょう。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.3cm](40, 10)(-5, -5) %tmtmath.sty
\RIplane{$C_1$}{$\Re_1$}{$\Im_1$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){3}} }
\put(3, .1){\makebox(0, 0)[b]{3}}
\put(5.5, 0){\makebox(0, 0){\small と}}
\baseskip{11}
\RIplane{$C_2$}{$\Re_2$}{$\Im_2$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){2}} }
\put(2, .1){\makebox(0, 0)[b]{2}}
\put(7.5, 0){\makebox(0, 0){\small の交差から} }
\baseskip{15}
\RIplane{実軸平面}{$\Re_1$}{$\Re_2$}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){3}} }
\put(3, .1){\makebox(0, 0)[b]{3}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){2}} }
\put(.1, 2){\makebox(0, 0)[l]{2}}
\put(0, 0){\framebox(3, 2){}}
\put(7.5, 0){\makebox(0, 0){\small を描き出す}}
\end{drawpict}
虚軸平面に描き出した長方形と実軸平面に描き出した長方形を見比べてください。おや、ちょっとした違和感がありますね。$2$つのベクトルで形作られる長方形の置かれ方が違います。もちろん、このような置かれ方になる理由はあります。私たちは$x$-$y$平面を描くとき、習慣として$x$軸を横軸に、$y$軸を縦軸にしています。今描いた$\Im_1$-$\Im_2$平面と$\Re_1$-$\Re_2$平面も習慣に従い、$\Im_1$軸と$\Re_1$軸を横軸にしたからです。
でも、それが正しい描き方でしょうか。私たちは、複素空間の実態がよく分からないので、もしかしたら描き出し方を間違えているのかもしれません。本当は
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.3cm](25, 10)(-5, -5) %tmtmath.sty
\RIplane{実軸平面}{$\Re_1$}{$\Re_2$}
\put(0, 0){\framebox(3, 2){}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){3}} }
\put(3, .1){\makebox(0, 0)[b]{3}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){2}} }
\put(.1, 2){\makebox(0, 0)[l]{2}}
\baseskip{15}
\RIplane{虚軸平面}{$\Im_2$}{$\Im_1$}
\put(0, 0){\framebox(3, 2){}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(1,0){3}} }
\put(3, .1){\makebox(0, 0)[b]{$3i$}}
{ \thicklines\put(0, 0){\vector(0,1){2}} }
\put(.1, 2){\makebox(0, 0)[l]{$2i$}}
\end{drawpict}
\noindent なんじゃないでしょうか。$\Im_1$と$\Im_2$の位置関係が逆---つまり``系''が逆---になっていることに注意してください。いわゆる、右手系と左手系というやつです。
このように考える根拠はあります。$4$次元の座標軸を立体的に描くことはできませんが、$4$つの軸のうち$3$つを立体的に描き出すことはなんとかできます。$4$つの軸から$3$つの軸を選ぶ選び方は$4$通りですから、おのおのが直交するように描けばこうなるでしょう($\Re_1$と$\Re_2$を入れ替えたものがあと$4$つ描けますが本質は同じです)。
\vspace{.33\baselineskip}
\begin{drawpict}[.25cm](50, 10)(-3, -5) %tmtmath.sty
{\thicklines
\put(0, 0){\vector(1,0){5}}
\put(5.1, 0){\makebox(0, 0)[l]{\scriptsize$\Re_1$}}
\put(0, 0){\vector(0,1){5}}
\put(0, 5.1){\makebox(0, 0)[b]{\scriptsize$\Re_2$}}
\put(0, 0){\vector(-3,-4){3}}
\put(-3, -4){\makebox(0, 0)[t]{\scriptsize$\Im_1$}}
}
\baseskip{12}
{\thicklines
\put(0, 0){\vector(1,0){5}}
\put(5.1, 0){\makebox(0, 0)[l]{\scriptsize$\Re_1$}}
\put(0, 0){\vector(0,1){5}}
\put(0, 5.1){\makebox(0, 0)[b]{\scriptsize$\Re_2$}}
}
\put(0, 0){\vector(3,4){3}}
\put(3, 4){\makebox(0, 0)[b]{\scriptsize$\Im_2$}}
\baseskip{14}
{\thicklines
\put(0, 0){\vector(1,0){5}}
\put(5.1, 0){\makebox(0, 0)[l]{\scriptsize$\Re_1$}}
\put(0, 0){\vector(-3,-4){3}}
\put(-3, -4){\makebox(0, 0)[t]{\scriptsize$\Im_1$}}
}
\put(0, 0){\vector(0,-1){5}}
\put(0, -5){\makebox(0, 0)[t]{\scriptsize$\Im_2$}}
\baseskip{18}
{\thicklines
\put(0, 0){\vector(0,1){5}}
\put(0, 5.1){\makebox(0, 0)[b]{\scriptsize$\Re_2$}}
\put(0, 0){\vector(-3,-4){3}}
\put(-3, -4){\makebox(0, 0)[t]{\scriptsize$\Im_1$}}
}
\put(0, 0){\vector(-1,0){5}}
\put(-5, 0){\makebox(0, 0)[r]{\scriptsize$\Im_2$}}
\end{drawpict}
$\Im_2$の向きがそれぞれ異なっていることに注意してください。そのように描かないと、それぞれのベクトルが異なる向きで互いに直交することに反するからです。どの$\Im_2$も$\Im_1$、$\Re_2$、$\Re_1$に平行じゃないかと思うでしょうが、$3$つのベクトルが互いが直交するように描くのはこれが限界です。
ところで、これらの図は($\Re_1$-$\Im_1$)-($\Re_2$-$\Im_2$)空間から描き出しています。$\Re_1$-$\Im_1$-$\Re_2$-$\Im_2$の順に対応させると、左側の$2$つの図が``左手系''、右側の$2$つの図が``右手系''であることが分かります。つまり、$\Re_1$-$\Re_2$の実軸平面は左手系に属し、$\Im_1$-$\Im_2$の虚軸平面は右手系に属しています($\Re_1$と$\Re_2$を入れ替えると右-左の系が入れ替わります)。
外積は、系の違いによって$A\times B = -B\times A$という性質を持っています。それと同じようなことがここで起こっているとすれば
\[
\Re_1\times\Re_2 = -\Im_1\times\Im_2
\]
という関係があると考えてよいでしょう。したがって、外積による面積の計算は
\[
3\times2 = -(2i\times3i) = 6
\]
です。どちらも方程式$\sqrt{x}\sqrt{x-5} = 6$の解として意味を持つことになりました。
\end{document}