% 一周360度の不自然さ

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\begin{document}

\section*{◆一周$360^\circ$の不自然さ◆}

\noindent
(「三角比の役割」からの続き)

日常の生活の中で数に出会うことは数限りなくあります。$25$m、$300$g、$75$点、$90^\circ$、\ldots。このように色々な数がある中で少しだけ異質なのが「角度」を表す数でしょう。というのは、たいていの数は積み重ねていくような感覚で扱うのに、角度は同じところをぐるぐる回っているような感覚で扱うからです。それは角度の性質上あたりまえなのですが、$0^\circ$と$360^\circ$のように違う値なのに同じ角度を表す点でも異質です。

今では一周$360^\circ$と決められていて、$90^\circ$といったら直角であることはよく知っていることです。なぜ一周が$360^\circ$なのかというと、$60$進法がもとになっているからとか、$1$年が約$360$日だからなどの説があるようです。

それにしても中途半端な数だと思いませんか。私たちはこれに慣れてしまったのでさほど不便を感じませんが、数学の中で使うことを考えたらちょっと扱いにくいところもあります。というのは、私たちが現在使っている数は「$1$」を「単位」としているものが多数です。

北極から赤道までの子午線の距離を測り、それを$\displaystyle \frac{1}{10{,}000}$にすると、おおよそ子どもの身長ほどになります。$\displaystyle \frac{1}{1{,}000}$や$\displaystyle \frac{1}{100{,}000}$でなく、$\displaystyle \frac{1}{10{,}000}$としたのは、それが人間の尺度に近いからでしょうか。これが長さの単位「$1$m」です。さらに、それを$\displaystyle \frac{1}{100}$にして$1$cmになり、$1{\rm(cm)}\times1{\rm(cm)}\times1{\rm(cm)}$の水が$1$ccで$1$gです。温度も、水が氷になる温度$0^\circ$C、沸騰する温度を$100^\circ$Cと決めて、その間を$100$等分したのが温度の単位「$1^\circ$C」です。

角度というのは、時計の針のように回転するものを想像すれば、その回り具合を表わすのが角度だと思います。であれば、一回まわることがそのまま単位となってもおかしくないはずです。いえ、実際一回まわることを単位にしたのです。ところがその一回転を$1$にしたのでは実用上扱いにくかったので、細かく$360$等分したのでしょう。ここには$1$年が$365$日であったことが影響したのだと思われます。

しかし現代の私たちの立場からすれば、温度を細かく分けるときに$100$等分したように、角度についても$100$等分するのが自然でしょう。でも、残念なことに習慣がこの考えを受け入れませんでした。

こう考えると一周は何等分してもかまわないような気がします。現代の私たちは$10$進法を用いているので、$360$等分するよりは$100$等分するほうがふさわしいように思いますが、もし将来$8$進法や$16$進法が使われるようになったら何等分でもよいことのような気がします。でも、一周を何等分かして基本となる$1$単位の角度を決める方法は、数学のなかでは決して理にかなった方法ではないのです。

あまりよい例ではないのですが、ひとつ例を示しましょう。

角度に関わる関数を表すときに少々気にかかることが生じることがあります。「半径$10$cm、中心角が$x^\circ$のときの扇形の面積を$y$cm$^2$として、この関係をグラフに表す」問題を考えましょう。この関係は
\begin{eqnarray*}
y &=& 10\times 10\times \pi \times \frac{x}{360} \\
&=& \frac{\pi}{3.6}x
\end{eqnarray*}
となるので、グラフは原点を通る傾き$\displaystyle \frac{\pi}{3.6}$の直線です。$x$軸に $1^\circ$, $2^\circ$, $3^\circ$, \ldots と目盛りをふり、$y$軸に$1$cm$^2$, $2$cm$^2$, $3$cm$^2$, \ldots と目盛りをふればグラフも簡単に描けます。

\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=.75cm
\begin{picture}(10, 5.5)(-5, -1)
\put(-5, 0){\vector(1,0){10}} %x軸
\put(5.1, 0){\makebox(0, 0)[l]{$x^\circ$}}
\multiput(-4, -.1)(1, 0){9}{\line(0,1){.2}}
\put(-4, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$-4$}}
\put(-3, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$-3$}}
\put(-2, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$-2$}}
\put(-1, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$-1$}}
\put(1, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$1$}}
\put(2, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$2$}}
\put(3, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$3$}}
\put(4, -.1){\makebox(0, 0)[t]{$4$}}
\put(0, -1){\vector(0,1){5}} %y軸
\put(0, 4.1){\makebox(0, 0)[b]{cm$^2$}}
\multiput(-.1, 1)(0, 1){3}{\line(1,0){.2}}
\put(-.1, 1){\makebox(0, 0)[r]{$1$}}
\put(-.1, 2){\makebox(0, 0)[r]{$2$}}
\put(-.1, 3){\makebox(0, 0)[r]{$3$}}
\put(0, 0){\makebox(0, 0)[rt]{$O$}}

\put(0, 0){\line(360, 314){4.2}}
\put(0, 0){\dashbox{.05}(3.6, 3.14){}}
\put(.1, 3.14){\makebox(0, 0)[lb]{$\pi$}}
\end{picture}
\end{center}

一体何が気にかかるというのでしょう。

それは「${}^\circ$」という単位の\.得\-\.体\-\.の\-\.知\-\.れ\-\.な\-\.さです。$1^\circ$の目盛りと$1$cm$^2$の目盛りを同じ間隔でふることが自然なのでしょうか。もし、現代の$100$を基調に考えている慣習にしたがって一周$100^\circ$に決めれば、$1^\circ$の量が変わってきます。当然グラフの傾きも違ってきます。まったく同じ概念なのに、一周の量が変わるたびにグラフに変化が生じるのは扱いにくいものです。

グラフを描くときに$x$軸と$y$軸の比率を$1:1$にしなくてはいけない規則はありませんが、できれば角度に使う基本単位の$1$にも明確な視点があったほうがよいでしょう。そうすればこのような悩みはなくなります。

この原因を引き起こしているのはもちろん角度の表し方なのですが、何がいけないのでしょう。それは「一回転」という長さとも量とも言えないものが原因です。「長さと長さが対応する」「長さと面積が対応する」「単価と合計額が対応する」等々の対応は\.素\-\.直\-\.な対応と言ってよいものです。何が素直かというと、同じ性質(または似た性質)どうしの対応になっているからです。これに対して、角度が関わってしまうと相手が何であっても素直な対応にならないのです。

それでは一周をどのように決めたらよいのでしょうか。また、素直な対応とはどんなものでしょうか。角度に関わるものでそんな都合のよいものを想像できますか?

実は大変よいものがあります。やはりそれは「長さ」です。角度が登場する背景には図形がからむことが多いものです。図形にとって「長さ」や「面積」は切っても切れない関係にあるからです。角度を一周すれば円ができます。そして円は「円周」という長さをもっています。これを角度を表す単位に利用しましょう。

長さ$1$の線分を、一方を固定して回転させます。一回転させると周長$2\pi$の円が描けます。回転させる前には円周は存在せず、半回転で周長$\pi$の半円に、一回転で周長$2\pi$の円になりますが、これは$0^\circ$では円周の長さは$0$、$180^\circ$では$\pi$の長さ、$360^\circ$では$2\pi$の長さです。角度の大きさと円周の長さが一対一に、そして正比例に対応していますから、角度を周の長さで代用しても支障はありません。

この際ですからもう少し正確に共通の理解をもっておきましょう。

\vspace{.33\baselineskip}
\begin{center}
\unitlength=1.25cm
\begin{picture}(8.4, 3.4)(-1.7, -1.7)
\def\spoke#1#2#3#4#5#6#7#8{
\put(1.414, 0){\line(-1, 0){2.828}}
\put(1, 1){\line(-1,-1){2}}
\put(0, 1.414){\line(0,-1){2.828}}
\put(-1, 1){\line(1,-1){2}}

\put(1.414, 0){\makebox(0, 0)[l]{#1}}
\put(1, 1){\makebox(0, 0)[lb]{#2}}
\put(0, 1.414){\makebox(0, 0)[b]{#3}}
\put(-1, 1){\makebox(0, 0)[rb]{#4}}
\put(-1.414, 0){\makebox(0, 0)[r]{#5}}
\put(-1, -1){\makebox(0, 0)[rt]{#6}}
\put(0, -1.414){\makebox(0, 0)[t]{#7}}
\put(1, -1){\makebox(0, 0)[lt]{#8}}
}
\spoke{$0^\circ$~($360^\circ$)}{$45^\circ$}{$90^\circ$}{$135^\circ$}{$180^\circ$}{$225^\circ$}{$270^\circ$}{$315^\circ$}

\begin{picture}(5, 0)\end{picture}

\put(0, 0){\circle{2}}
\spoke{$0$~($2\pi$)}{$\displaystyle\frac{\pi}{4}$}{$\displaystyle\frac{\pi}{2}$}{$\displaystyle\frac{3\pi}{4}$}{$\pi$}{$\displaystyle\frac{5\pi}{4}$}{$\displaystyle\frac{3\pi}{2}$}{$\displaystyle\frac{7\pi}{4}$}
\end{picture}
\end{center}

長さ$1$の線分を水平に置いたときを$0^\circ$として左側を固定します。つまり、時計の短針が$3$時を指している状態です。ここから「反時計回り」に角度を$1^\circ$, $2^\circ$, $3^\circ$, \ldots と増やします。$12$時の位置が$90^\circ$、$9$時の位置が$180^\circ$、$6$時の位置が$270^\circ$、再び$3$時の位置が$360^\circ$です。これを半径$1$の円周の長さで表すわけですから、$12$時の位置が$\displaystyle \frac{\pi}{2}$、$9$時の位置が$\pi$、$6$時の位置が$\displaystyle \frac{3\pi}{2}$、再び$3$時の位置が$2\pi$となります。

このように角度を表すことで、今まで習慣で使っていた「${}^\circ$」の単位を円周の長さに置き換えることができました。\.弧の長さの\.度合で角を表すこの方\.法を私たちは「弧度法」と呼ぶことにします。そして一周にあたる$2\pi$を基本単位とし、これを「$2\pi$ラジアン」と呼んで今までの角度の表現と区別しておきます。

しかしこれだけでは単に「${}^\circ$」を「ラジアン」に置き換えただけで、何ら真新しいことはないように感じることでしょう。たしかに角度を表すことだけを考えると、「${}^\circ$」を使おうが「ラジアン」を使おうが大きな違いはありません。むしろ分数で表現しなくてはならない分、扱いにくくなった印象さえ与えてしまいます。

ところが角度に関連した関数を考えたときに、その印象はくつがえります。そして、数学的には「ラジアン」が角度を表す単位として実に\.素\.直\.な単位であることが実感できるのです。($\Rightarrow$続きは「素直な単位/ラジアン」にて。)

\end{document}